経営学の組織構造論に、「職能」という言葉があります。

職能とは、「なされるべき仕事」を意味し、「標準的な能力によってなされる仕事の種類と量」と定義されます*1
"Function" の訳語として「職能」が使われて来ましたが、最近では、「機能」という訳語を使うこともあります。

この「職能」または「機能」には、ラインとスタッフの2種類があります。 
「ライン」とは、組織目標の達成に直接的に関わる業務または部門であり、
「スタッフ」とは、組織目標の達成に間接的に関わる業務または部門です*2
「ライン」と「スタッフ」の区別は、もともと軍隊の組織に由来しており、「ライン部隊」は実際に戦闘をする部隊のことであり、「スタッフ」はさらに「スタッフ部隊」と「ゼネラルスタッフ」に分けられます。「スタッフ部隊」は、「ライン部隊」による戦闘行為を補助する間接的戦闘部門であり、「ゼネラルスタッフ」は、指揮官を援助する人や機関で、指揮官の知識の範囲を拡大する職能を持つ部門です*3

したがって、「スタッフ」の業務は、情報・データの収集、分析、助言・指導であり、指揮・命令の権限を持ちません。権限がない以上、権限に伴う責任もないことになります。

以上を踏まえて、企業における法務業務(部門)や知的財産業務(部門)は、「ライン」か「スタッフ」かというと、通常*4「スタッフ」に分類されることになります。
さらに、スタッフは、前述のとおり「スタッフ部隊」と「ゼネラルスタッフ」に分けられます。
「スタッフ部隊」とは、事業部門の業務遂行を補助・支援することであり、例えば、取引を行うために必要となる契約書を作成し、修正等する業務を行う場合になります。
「ゼネラルスタッフ」とは、意思決定権者の意思決定を行うにあたり知識の範囲を拡大するために情報・データの収集、分析、助言・指導することであり、例えば、契約の締結の判断(契約締結の決裁)を行うにあたり、分析・助言をする等の業務を行う場合になります。

年々、法務部門や知的財産部門は、経営への貢献を求めらるようになっており、上記の整理を前提にすると、「ゼネラルスタッフ」業務を行うことを求められている、ということになります。

ところが、実際は、「ゼネラルスタッフ」業務よりも、「スタッフ部隊」業務の方が多い法務部門や知的財産部門になってしまっているのではないでしょうか。
特に、中堅クラス以上の企業において、事業部に法務や知的財産部門の機能がなくなり、本社にのみ法務や知的財産部門の機能がある場合は、「スタッフ部隊」としての業務しか行っていない組織になってしまう可能性が高いように思います。

さらに、本社の法務や知的財産部門の業務にスピードが要求され、それを人的資源の増加のみにより解決しようすると、本社管理部門の肥大化という問題をかかえることになります*5


業務改革という観点からの対処法については、以前、『業務改革の必要性とその方法』において検討をしたことがありますが、今回は組織構造の問題ですので、会社の規模に応じて、法務や知的財産部門の機能を、どのように分化または階層化して、どの部署の権限(と責任)にするか等を検討しないといけません。
また、各社毎に文化や歴史もあって、取り組むのはなかなか難しい問題です。。。




<脚注>
*1 『経営学入門〔上〕(第2版)』116頁
*2 『経営学入門〔上〕(第2版)』122頁
*3 『経営学入門〔上〕(第2版)』123頁
*4 ここで「通常」としたのは、組織の目標によって、「スタッフのライン化」が起こるからです。例えば、知的財産部門が、ライセンス収入など収益目標があり、権利化し、ライセンスアウトや権利行使等により、収益を得る場合、知的財産部門は「ライン部門」となります。
*5 一種の大企業病ですね。