2017年6月2日に民法(債権法)改正法が公布されました。施行日は「一部の規定を除き、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日」ということですので、遅くとも2020年6月2日までには施行されることになります。

法制審議会 民法(債権関係)部会で議論が開始されたころに比べると、改正箇所も改正の方向性や内容も相対的に落ち着いたものになり、改正の多くの部分は、現在までに蓄積された判例の規範や一般的理解を踏襲したもので、実務への影響は少ない、という意見も良くお聞きします*1

そうは言っても、やはり、120年ぶり*2の民法という基本的な法律の改正であり、民法(債権法)改正に関するセミナーも増えてきましたし*3、法律雑誌でも特集が組まれ始めました*4

私自身、民法(債権法)改正の動向は、きちんと追ってきませんでしたので、2017年中に情報収集し、2018年には対応の方針を定め、2019年に実務への落とし込みを行い、2020年6月*5の施行に対応していく予定でいます。

そこで、2017年の情報収集の一環として、現在、出版されている民法(債権法)改正関連の書籍*6を近所の大型書店で確認し、数冊購入した中で、情報収集という目的にぴったりな本だと思ったのが、日弁連の『実務解説 改正債権法』です。



法制審議会 民法(債権関係)部会に参加されていた弁護士さんとそのバックアップチームによる逐条解説書で、①改正後の条文、②(改正の)背景、③趣旨、④実務への影響、という構成で作成されており、改正前の法律との比較で改正を理解することができるため、改正前の法律の知識がある方には理解しやすい構成だと思います*7

セミナーや改正関連本など、当面は情報過多な状況が続くように思います。
このような状況にあっても、民法(債権法)改正による企業法務への影響を、冷静に見極める必要があるように思います。
ただ、施行日までに約3年弱の期間がありますので、施行前のこの期間の間に、実務への影響の方向性が固まってしまうこともあるように思います。
企業法務としては、民法(債権法)改正法の主流となる一般的な解釈や考え方を理解しつつ、自社のビジネスにあった解釈や考え方、それに基づいた対応など、主体的に取り組む必要があるように思います*8

<評価> ☆☆☆☆
(民法(債権法)改正に関する実務者向け逐条解説書としては、現時点では、質量ともに最適な本だと思います。ただ、企業の契約法務への影響、特に、契約文言への影響という観点での記載は基本的にありませんので、この点は別途補っていく必要があると思います。)


<脚注>
*1 とはいえ、施行までに(おそらく)3年弱はありますので、今後の議論において、この評価が変わることはあり得ると思いますし、施行後に明らかになる論点や問題もあるように思います。
*2 日本経済新聞2017年5月27日 『改正民法が成立 契約ルール、120年ぶり抜本見直し』
*3 『西村あさひ法律事務所』『森・濱田松本法律事務所』『TMI総合法律事務所』など、大手の事務所主催の無料セミナーも開催されています。
*4 『ビジネス法務 2017年 09 月号』は、特集1が民法(債権法)改正関連です。
*5 きっちり、3年間の猶予を頂ける、という想定でスケジュールしました・・・。この想定、外れませんように。。。
*6 様々なレベルの書籍が出版されていました。施行までに、まだ時間はありますので、どの本を購入するか、もう少し様子見という選択肢も今回はあるように思います。
*7 適宜、改正条文に関連する参考判例等が紹介されており、内容はかなり充実していると思います。
*8 結論的には、主流となる一般的な解釈や考え方を採用することになったとしても・・・。