以前から、ビジネスモデルのための法務知財戦略というタイトルで、新しい法務知財の仕事の仕方についてのお話をしていますが、今日は、より具体的なお話をしたいと思います。

『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』等において、「ビジネスモデルキャンバス」という考え方とツールが紹介されています。

このビジネスモデルキャンバスとは、具体的には以下のようなツールで、ビジネスモデル*1を記述、分析、デザインするためのものです。
BMC
各要素について、もう少し詳しく説明すると以下のようになります。
① Customer Segments (顧客セグメント) <CS>
 企業が関わろうとする顧客グループについて定義する。
② Value Proposition (価値提案) <VP>
 特定の顧客セグメントに向けて、価値を生み出す製品とサービスについて記述する。
③ Channels (チャネル) <CH>
 顧客セグメントとどのようにコミュニケーションし、価値を届けるかを記述する。
④ Customer Relationships (顧客との関係) <CR>
 企業が特定の顧客セグメントに対して、どのような種類の関係を結ぶかを記述する。
⑤ Revenue Streams (収益の流れ) <RS>
 企業が顧客セグメントから生み出す現金等の流れを記述する。
⑥ Key Resources (主要リソース) <KR>
 ビジネスモデルの実行に必要な社内の資産(人・もの・お金・情報等)を記述する。
⑦ Key Activities (主要活動) <KA>
 企業がビジネスモデルを実行する上で必ず行わなければならない重要な活動を記述する。
⑧ key Partners (主要パートナー) <KP>
 ビジネスモデルを構築するサプライヤーとパートナーのネットワークについて記述する。
⑨ Cost Structure (コスト構造) <CS>
 ビジネスモデルを運営するにあたって発生するすべてのコストを記述する。

このように、本来、ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスの仕組みを構成要素に分解し、構成要素毎の有機的な繋がりを視覚化するフレームワークで、新しいビジネスモデルを創造し、ビジネスを成功させるためのツールです。

このビジネスモデルキャンバス、非常に良くできており、ビジネスモデルを視覚化することに成功していると思います。
ただ、法務知財的な視点からいうと、次のような修正の余地があると思います。
① 法務的な視点として、『リスク』という視点が抜けていること*2
② 知財的な視点として、『競争戦略』という視点が足りないこと。

しかしながら、これはビジネスモデルキャンバスが法務の仕事において使えないということではなく、未だ、そのような使われ方がなされていないだけであり*3、法務視点でビジネスモデルキャンバスを利用する価値は高いと思っています。

~ つづく ~


<脚注>
*1 『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』においては、『ビジネスモデルとは、どのように価値を創造し、顧客に届けるかを論理的に記述したもの。』と定義しています。
*2 ただし、今枝昌弘氏の『ビジネスモデルの教科書: 経営戦略を見る目と考える力を養う』においては、ビジネスモデルキャンバスの9つの構成要素に、明示的に『リスク』を追加して、構成要素を10としています。その理由は、『リスクを減少させることがビジネスモデルの大きな優位性になっていることも多いので、埋没しないように別出しにする』ためです。この点は、非常に正しいと思いますが、『リスクは、9つの構成要素のどこかに存在するものである』としています。しかしながら、私は、『リスク』に法的な検討対象となるものも含めたうえで、すべての構成要素ないし構成要素間の繋がりが法的な検討対象となると考えています。つまり、9つの構成要素だけでなく、構成要素間にも検討すべき『リスク』がありうると考えています。
*3 いつものことですが、私の知っている範囲内でのことなので、もう既に法務業務においてビジネスモデルキャンバスを利用して、法務リスクを中心としたリスクの把握とリスクヘッジ・コントロールをされている方がいらっしゃいましたら、すみません・・・。