今年最後にご紹介するのは、楠木健 一橋大学大学院教授の『好きなようにしてください - たった一つの「仕事」の原則』です。
本書を今年最後にご紹介することにした理由は、今年読んだ書籍の中で、一番面白いと思ったお勧めの本だからです。


本書の著者である楠木教授のことは、『ストーリーとしての競争戦略』を読んだことがあるくらいであまり知りませんでした*1
『ストーリーとしての競争戦略』も良い本だと思いますが、それよりもとにかく本書は面白いんです*2

どこが面白いかは、読んでいただくとして、本書の内容は、Newspicks という経済情報に特化したニュース共有サービスにおける「楠木教授のキャリア相談」をベースに書籍化したものです。

内容はキャリア相談なので、様々な読者からのキャリアに関する相談に楠木教授が回答するというものですが、回答の最初に示される結論は決まって、「好きなようにしてください」で始まります*3
どんな相談にも*4、「好きなようにしてください」という結論なのですが、だからといって、適当な(いい加減な)回答をしているわけではありません。

非常に理にかなった、適切な回答していると思います*5
それは、これらの回答に、一本筋の通った楠木教授の次のような仕事に対する価値観があるからだと思います。

仕事の原則10か条
1 「仕事と趣味は違う」の原則
2 「自己評価はなしよ」の原則*6
3 「客を選ぶのはこっち」の原則*7
4 「誰も頼んでないんだよ」の原則*8
5 「向き不向き」の原則
6 「次行ってみよう(ただし、近場で)」の原則*9
7 「自分に残るの過程」の原則
8 「仕事の量と質」の原則*10
9 「誘因と動因の区別」の原則
10 「無努力主義」の原則

どの原則も楠木教授の説明を読まないとその真意や意図を理解することは難しいので、興味を持たれた方は是非ご一読頂きたいと思います。
ただ、『10 「無努力主義」の原則』について少しだけ。

楠木先生は、質量ともに一定水準以上の「努力」を継続できるとすれば、その条件はただ一つ、「本人がそれを努力だとは思っていない」ことだと言います。
この状態で継続できることを「無努力主義」と言っています。

仕事は、誰も頼んでないし、向き不向きがあります。
仕事には、外部環境における誘因だけでなく、自分の内面から湧き出る動因が必要です。
そして、たとえ、次行ってみよう(ただし、近場で)、だとしても、最後は、一定の分野や目標において、質量ともに一定水準以上の「努力」を継続することが必要であり、そのためには、主観的に「努力しなきゃ」という状態ではなく、「努力」と感じずに継続できるようになる必要があるとします*11

この「無努力主義」の原則について、アプローチの仕方が異なるだけで*12、基本的には同じことを言っていると感じた今年話題になった本があります。

ある意味、基本的に同じような内容のため、本書『やり抜く力 GRIT』のどちらを今年読んだ本のなかで、一番のお勧めにしようか悩みましたが、面白さ(クスっと笑える可笑しさ)を評価して、楠木教授の『好きなようにしてください - たった一つの「仕事」の原則』を今年一番のお勧めにしました。

<評価> ☆☆☆☆☆
(キャリアやキャリアパスに悩める全ての人に。)


<脚注>
*1 『ストーリーとしての競争戦略』は、競争戦略を流れと動きを持った「ストーリー」として捉えて、競争戦略と競争優位の本質を考えるという書籍です。私のような経営学初心者でも興味深く読める(結構長いけど・・・。途中で飽きるかもしれないけど。。。)有益な本でした。
*2 内容は、いたって真面目な本ですが、「はじめに」において書かれている本書を執筆することになった経緯から面白いですし、その後、随所にちりばめられた例え話も私には非常に面白かったです。
*3 私の記憶が正しければ、2箇所、「好きなようにしてください」で回答が始まらなかった相談がありました。そのうちのひとつは、「好きなようにしてはいけません」でした。
*4 ごくわずかの例外を除いて。。。
*5 まぁ、私と価値観や考え方が似ているだけ、という話ですが・・・。でも、それが人生にとっては結構大事なことなのではないでしょうか。
*6 「仕事はアウトプットが全て」ただし、アウトプットのうち、「成果」と言えるのはお客さんが評価するものだけ。という考え方です。
*7 誰のためにする仕事か?という目的、ターゲットを明確にする。という考え方です。
*8 目的、ターゲットの選択から、仕事のやり方から何から何まで仕事の根幹にあるのは自由意志。仕事は、本当のところは誰からも頼まれていない。強制されていない。従って、仕事が成果につながらないときに、他者や環境や制度等のせいにしない。という考え方です。
*9 本原則における「近場」の意味ですが、世間一般でいうところ「近場」や常識的な意味での「近場」である必要はない、と個人的には、理解しています。それよりも、一見、遠そうに見えて、実は「近場」だったみたいな、発想の転換があった方が面白いし(人生面白そうだし、という希望的観測を込めて。。。)、それが個性になる可能性が高いように思っています。
*10 本原則の説明において、楠木先生は、「自己満足は、わりと大切。ただし、自己満足はあくまで舞台裏の話で、表に出してはならない。自己満足についてお客さんに同意や共感を求めるのは論外」と言っております。ほんと、そのとおりだと思います。
*11 どちらかと言うと、私が本文で書いたような『能動的に「努力」と感じずに継続できるようになる。』というよりも、『受動的に「努力」と感じずに継続できることをする。』というお考えと理解した方が正確かもしれません。
*12 個人的には、楠木教授を文化系GRITまたは脱力系GRIT、Angela Duckworth教授を体育会系GRITまたは根性論系GRITと名付けたいところです。