『2016年に買って読むぞ!法務(知財)のためのブックガイド』で、読む予定リストに入った、『訴訟の心得』を(ようやく)読み終えました。


著者は、中村・角田・松本法律事務所中村直人弁護士です。

ここ数年訴訟業務を担当する割合が減ってきていたのですが、今年度に入ってから、久々にちょっと大きめ*1の訴訟を担当することになり、錆びつき始めた知識と経験をブラッシュアップするために、あわせて、『訴訟の技能 − 会社訴訟・知財訴訟の現場から』も読みました*2


さて、『訴訟の心得』は、『BUSINESS LAW JOURNAL(ビジネスロー・ジャーナル)2016年 2月号』において、購入書籍分野別批評会*3、企業法務系ブロガーさん*4、柴田堅太郎弁護士*5の3名の方がお勧めされていました。
みなさん、お勧めのとおり、良い本だと思います(いまさらですが・・・。)。

想定読者は、はしがきに「訴訟の経験がまだ少ない弁護士や、企業の中で訴訟を担当する部門の人たち」向けと書かれているとおりですが、本書は企業の中で訴訟を担当する部門の人たちが、訴訟代理をしてくださる弁護士さんを選ぶ際に、役に立つ本ではないかと思っています。
つまり、どのような弁護士に訴訟代理を依頼すべきか、依頼した代理人の訴訟活動をどのように評価し、今後も継続して訴訟代理人としてお願いをすべきか、そのような観点から本書を読むと良いと思います。

以前、『企業における法務の仕事について』において、企業法務には、法律事務所を選定し、弁護士さんに適切に業務を依頼する(依頼できるように関係を構築する)という「⑥法律事務所関係」という仕事があるというお話をしましたが、これは、自分たちよりも専門性の高い人たちの専門能力を評価するという、ある意味難易度が非常に高い仕事です。

私は、この評価を、自分たちが持っている訴訟に関する知識や経験に照らし合わせる、という観点だけで行うべきではないと思っています。
理由は、人は、自分が理解できる範囲でしか、理解することができないからです。つまり、能力の低い人が、能力の高い人を評価するというのは、評価される人の能力が高ければ高いほど、理解が難しくなるため、適切に評価することができなくなるからです。
訴訟代理人を評価する際に、訴訟に関する知識や経験だけで、しかも、自分たちが理解できる範囲内で評価をしてしまった場合、本当に優秀な訴訟代理人を選定できなくなる可能性が高まるように思います。
私たちは、私たち企業法務に足りない訴訟に関する知識や経験を補うために弁護士さんという専門家に訴訟代理人を委任するのですから、訴訟代理人を評価する際に、本書のような他の専門家の意見も参考にしながら評価を行っていくことが重要だと思っています*6

上記に加えて、同じ仕事(法律関係の仕事)をしているもの同士という観点から、代理人の訴訟活動を評価することはできると思います。
これは、仕事の進め方、プロセスを評価するものです。
たとえば、本書においても、
Ⅵ 顧客への説明
企業関係者から聞くと、まず勝訴の見込みを、客観的な見込み以上に悲観的に説明する弁護士がいる。どうも悲観的な見通しを説明しておいて、勝てば自分の手柄、負けたら事件のせい、という意図らしい。逆に客観的な見通し以上に強気の説明をする弁護士もいる。「これで控訴しなければ株主代表訴訟になる」などとまで言う弁護士もいるらしい。これは昔から着手金弁護士と言われている輩であって、提訴して着手金を頂戴しておいて、判決で負ければ裁判官の悪口を言うというパターンである。(43頁)
客観的な見通し以上に強気の説明をする弁護士さんであれば、最終的に結果(判決)等があるため、評価は可能だと思います。
逆に、客観的な見込み以上に悲観的に説明する弁護士さんの場合は、最終的な結果(判決)等がないため、評価が難しくなります。ただ、この場合でも、セカンドオピニオンをとることで、ある程度の評価は可能だと思います。

顧客に見通しを説明するときには、本章で説明してきたように、何が要件事実で、いかなる証拠があり、裁判所の判断基準は何で、それを辿っていけば、この点は立証できそうだが、この点の立証は難しいとか、必然的に結論に至るのである。(44頁)
このように、順を追って、今後の展開を説明してくださる弁護士さんであれば、当然、その見通しが合っているかどうかを顧客(企業法務)が判断し、評価することができることになるわけです。
見通しを語る弁護士さんは、自分の判断に自信があり、ある意味顧客の立場に立った形で「いつでも評価をしてくれ」と言ってくれているわけですから、信頼のおける弁護士さんだと思います*7

これは、法務部員や知財部員の日頃の仕事と同じだと思います。
プロセスとして評価の機会があることは、依頼者側にとって非常に重要です。

弁護士が見通しやその理由、進むべき道を指し示すアドバイスが必要だ。このとき重要なのは、理由である。理由なしの結論だけではダメである。また、相手方や各当事者の動きを合理的に予測することだ。企業の大規模訴訟は常にその読みの戦いである。(171頁)
ここまでしてくれると、たとえ、今回は予測が外れたとしても、予測が外れた原因を分析し、それを次回に活かしていただけるなら、長期的におつきあいし、ともに成長していくに価する代理人だと思います。

最後に、
正確な見通しを説明すれば、顧客は、勝訴した場合のメリットと敗訴した場合のデメリットに、その勝訴率をかけ算して、期待値を算出することができる。それ以外の営業上の要素などを考慮して適切に提訴の有無や方針などを判断できるようになる。(44頁)
私の経験上、「その勝訴率をかけ算して、期待値を算出する」ことを嫌がる弁護士さんの方が多いように思います。
しかしながら、このような定量的な評価は、今や企業における意思決定の際に、不可欠な要素になりつつあります。

算定が難しい、根拠のある数字ではないなど、現時点で定量的な評価を避けることに一理あることは認めます。ただ、今後、定量的な評価をする人としない人では、企業法務・知財部員も含めて、埋めがたい差となるような気がしています。

<評価> ☆☆☆☆
(初めて、または数回、企業において訴訟を担当することになった人向けの本として。また、訴訟代理をしてくださる弁護士さんを選ぶ際の参考書籍として。)


<脚注>
*1 『訴訟の技能 − 会社訴訟・知財訴訟の現場から』は次回詳しくご紹介します。
*2 全額請求する場合、印紙だけで数千万円が必要になるレベルです。
*3 法務担当者6名による、いわゆる匿名座談会におけるEさんのお勧めです。
*4 アニメキャラが行列を作る法律相談所withアホヲタ元法学部生の日常のronnorさんです。
*5 柴田・鈴木・中田法律事務所の弁護士さんです。
*6 一つの見方に偏ることなく、本書だけでなく、次回紹介する『訴訟の技能 − 会社訴訟・知財訴訟の現場から』もあわせて訴訟代理人を評価するために利用すると良いと思います。
*7 逆に、見通しを(あまり)立てない弁護士さんというのは、それだけ自信がないというか、少なくとも、顧客(企業法務)に評価をする機会を与えない弁護士さんであると言え、長期的に信頼関係を築くことが難しくなります。