このところ(と言っても、ここ半年くらいに経験したことをまとめた話ですが)経営判断を求めるため、経営層に説明をしているなかで、経営層から頂いた言葉で、幾つか「なるほど・・・。」とか、「へぇ~、そう考えるんだ。」思ったことがありました。


最初は、最近よく私が経験している経営者からの要望に関するお話です。
それは、「できるだけ定量的な分析をして欲しい。」というものです。
法務*1は定性的な分析には慣れ親しんでいますが、定量的な分析をあまりしないため、経営層への報告・説明の際に、定量的な分析結果が抜けていることがあります*2

例えば、法的に勝つとか負けるとか、合法とか違法とか*3、そういった定性的な評価だけでなく、勝った場合、負けた場合、違法だった場合、対応した場合しなかった場合、施策を行った場合行わなかった場合等に、いったい幾らくらいになるのか定量的(金額的)に教えて欲しいというものです*4

また、できるだけ定量的な分析をする、と言った場合のできるだけの程度に認識のずれがあり、法務はできないと思っていたところ、ちょっと工夫を凝らすと、実は、「できる」といったケースもあったりします*5

続いての経営者からの要望として、「最悪のケースを定量的(金銭的)に教えて欲しい。最悪のケースとなった場合に、会社にどれだけのダメージがあり、その際に会社は持ちこたえられるのか?を定量的(金銭的)に分析した結果を踏まえて『自分はその責任を取ることができるのか?覚悟できるか?』意思決定したい。」というものがあります。

「最悪のケースを定量的(金銭的)に?」って、すごく難しい場合が多いです*6
「正直、わかりません。」「会社、潰れるかもしれません。」と答えたくなるのを、ぐっとこらえて(苦笑)、頑張って定量的に分析する努力をすることは大切です。
結果的に、根拠のない、もしくは、根拠薄弱な数字しか出せなかったとしても、きちんと分析した上での結論であれば、経営者は定量的な分析ができなかったことを踏まえて意思決定することができます。

経営者からの要望の最後は、基準となるシナリオ(ケース)を設定し、基準となるシナリオ(ケース)のバリエーションを作り、それぞれのシナリオ(ケース)について、定量的(金銭的)な分析を行って欲しいというものです。
ここでいうシナリオ(ケース)は、時間を考慮するものですので、時間の経過とともに、どのように数字が変化するかを考える必要があり、考慮する時間が長くなればなるほど、定量的(金銭的)に分析することが難しくなります。
従って、考慮する時間が長くなると根拠のない数字や根拠が薄弱な数字になることも多いのですが、それでも数字を仮置きしてみると確かに見えてくるものがあります。
実際に数字を仮置きしてみることで、仮置きした数字をより精緻にすることができる可能性があるだけでなく、実は、数字が不正確であっても、使用する数字間に論理的な整合性がある場合は、シナリオ(ケース)間の優劣を定量的(金銭的)に分析することができるようになります。


もう少し具体的に説明すると、例えば、他社の知的財産権を侵害している可能性のある商品の開発を継続し、販売するかどうかの意思決定を行う際に、法務知財的には、他社の知的財産権を侵害しているか、それともしていないのか?という定性的な分析とあわせて、
①その商品の開発を中止し、販売しない場合
 ①−1 開発を即時中止
 ②−2 販売直前に中止
②その商品を販売し、1年後、2年後、3年後、5年後に侵害が確定した場合
 ②−1 事業計画どおり数字で販売した場合
 ②−2 事業計画以上の数字(例えば、20%増)で販売した場合
 ②−3 事業計画以下の数字(例えば、20%減)で販売した場合
のそれぞれについて、得られる利益、失われる利益、かかるコスト等を計算して、どのシナリオ(ケース)が良いかを定量的(金銭的)に分析し、経営者の意思決定に資する提案・説明を行うということです*7

最後に、「経営者たるもの、最良のシナリオ(ケース)、基準となるシナリオ(ケース)、最悪のシナリオ(ケース)を、その発生確率を踏まえて比較検討し意思決定するのではなく、最悪のシナリオ(ケース)になった場合に、会社は耐えられるか?自分は責任を取れるか?責任を取る覚悟があるのか?を考えて、全てYESならば、GOを出すべきである。」との言葉が印象的でした*8


<脚注>
*1 知財は、少し違って、法務よりは定量的な分析に慣れている気がします。それなりに理系のバックグランドを持つ方がいるからかもしれません。
*2 そもそも定量的な分析になじまない、定量的な分析ができないケースもありますが、法務は定量的な分析が苦手だったりもします(苦笑)。私だけではないはず・・・。
*3「法的評価は白か黒かが難しければグレーでもいいんだけど、グレーの場合、当社に与える影響を金銭に見積もって評価してくれる?」なんて要望を受けたりします。*4 定量的(金銭的)に数字で説明することが重要なのは否定しませんが、まぁ、意思決定権者にとって判断がし易いので、数字が(特に、根拠がない、もしくは根拠が薄弱の数字が)独り歩きするのは、かえって問題なのですが・・・。
*5事業部にいると当たり前なのかも知れませんが、法務(知財)経験しかないと、この一工夫が結構難しい気がしています。。。
*6 例えば、いわゆる「レピュテーションリスク」まで考える場合とか。
*7 因みに、開発や販売を中止した場合に、そこにかけていた各種リソースが他に振り分けられ、収益を上げらる可能性があることを忘れずに。
*8 もちろん、その結果、保守的な意思決定しかされなくなると、どちらかというと新しいこと好き、変化好きの私としては、とても困るのですが・・・。