前回に続いて、オープンイノベーションの法的リスク②です。
おそらく、オープンイノベーションの法的リスクといった場合、次のような点が法的なリスクとして、指摘されるのではないでしょうか。

①オープンイノベーションを一緒に行う企業の信用リスク*1
②秘密情報、技術的ノウハウなどの各種ノウハウの漏えい・流出リスク
③個人情報漏えいリスク*2
④人材流出リスク
⑤オープンイノベーションそのものの失敗リスク

これらのうち、通常の取引とは異なるオープンイノベーションに特有のリスクは何でしょうか。

①~④は、通常の取引、つまり、普段一般的に行っている業務委託契約、ライセンス契約等の各種アライアンス契約にもあるリスクであり、オープンイノベーションに特有なものではありません。
通常の取引においても、上記①~④のリスクについては、各種契約により秘密保持義務や競業避止義務を負わせるなどして、リスクヘッジやリスクコントロールを行っているはずです。
従って、上記①~④はリスクではありますが、オープンイノベーション特有のリスクでなく、これを理由にオープンイノベーションは法的なリスクが多く行うべきでない、という結論にはならないはずです*3

そうすると、⑤のオープンイノベーションそのものの失敗リスクが、オープンイノベーション特有のリスクになりそうです。
でも、ここでいう⑤オープンイノベーションそのものの失敗リスク、とは具体的にどのようなことでしょうか?

改めて、オープンイノベーションとは何かを確認すると、「オープンイノベーション」の提唱者であるHenry William Chesbrough氏によれば、オープンイノベーションとは、「企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造させること」です。
そして、このオープンイノベーションのパラダイムシフトのもとでは、
① 企業は、積極的に企業の外部のアイデア、研究開発成果を取り入れる必要がある。
② 企業内部のアイデア、研究開発成果を商品化する場合にも、企業の外部、つまり、自社以外のリソースを活用すべきである。

この考え方を突き詰めていくと、以下のような結論になる。

③ 企業の内部に優秀な人材は必ずしも必要ではない。
④ 企業の内部で基礎研究から始める必要はない。
⑤ 製品を市場に最初に出すよりも、優れたビジネスモデルを構築することがより重要である。
⑥ アイデアは創出するよりも、その活用が重要である。
⑦ 知的財産は、他社を排除するために重要というよりも、企業の外部から知的財産を購入して、自社のビジネスモデルの発展のために活用すべきである。
としています。

上記の③~⑦を見ると分かるように、オープンイノベーションの手法を採用し、ビジネスが成功したといえる場合、基本的には、人材・研究開発(とその成果)・知的財産を獲得するための時間が短縮されてスピードはあがり、スピードがあがるためビジネスに必要な人やものの獲得に要するコストは下がります。

つまり、オープンイノベーションの手法を採用し、ビジネスが失敗したと言われる場合であっても、ビジネスに必要な人材も、研究開発(とその成果)も、知的財産も外から獲得してくるため、自前で獲得するよりも、基本的に時間は短縮されてスピードはあがり、スピードがあがるためビジネスに必要な人やものの獲得に要するコストは下がります。
もう少し言うと、自社内で完結するビジネス、つまり、自前主義で行うよりも早く、そのビジネスが失敗かどうかが分かるため、その分だけ成功へ近づきます*4

従って、経営学的な視点を含めて、オープンイノベーションそのものの失敗リスクを評価すると、オープンイノベーションの手法を採用し、ビジネスが成功した場合はもちろん、ビジネスが失敗した場合も、そのビジネスが失敗かどうかが早く分かるため、その分だけ成功へ近づいたことになります。
つまり、オープンイノベーションの手法を採用し、ビジネスが失敗した場合も、オープンイノベーションの手法を採用したことによるメリットを享受しており、これをもってオープンイノベーション特有の法的リスクと評価すべきではないことになります。

では、オープンイノベーションにリスクはないのでしょうか。

~ つづく ~



<脚注>
*1 この信用状態には、支払い能力といった財務面の信用状態の他に、取引先として、信用できるかという情緒的なものも含みます。
*2 最近では、提携先(委託先?)に個人情報を提供する場合も多く、個人情報の漏えいリスクには、法務はもちろんのこと、企業も敏感になっていると思います。
*3 日本企業は、ルーティンと異なる取引(過去に行ったことがない、前例のない取引)を行うことを避ける傾向が強く、その結果、オープンイノベーションについても、具体的なリスクを検証することなく、リスクが高そうと判断して、オープンイノベーションを行わない管理職が多いそうです。取引内容的には、いわゆる提携(アライアンス)だったり、コラボレーションだったりするのですが・・・。
*3 「その分だけ、成功へ近づく」という点に関しては、もう少し説明が必要かもしれませんが、詳細は別の機会に。。。なお、この点については、神戸大学大学院経営学研究科の原田勉教授の『イノベーション戦略の論理 - 確率の経営とは何か(中公新書)』の「第2章 イノベーション確率とは」が参考になると思います。