『戦略プロフェッショナル-シェア逆転の企業変革ドラマ(日経ビジネス人文庫)』
2004年頃に一度読んだ本ですが、今回改めて読み直しました。


読み直しのきっかけは、日頃大変お世話になっている方から、「経営関連の入門書で、面白くて良い本があったら教えて」と言われて、いくつか紹介したところ、本書の評判が良かったからです*1
そのフィードバックをきっかけに、私も再読してみました。

著者の三枝匡*2氏は、現在、ミスミグループ本社の取締役・取締役会議長・戦略相談役です。

一見、タイトルだけを見ると、本書は、いわゆる経営戦略の教科書に見えるかも知しれませんが、いわゆる教科書ではありません。また、小説仕立てでストーリー性があり、読み物としても非常に面白いのですが、単なる経済小説でもありません。
あえていうと、MBAやMOTで使うケーススタディの一種です。ただし、一般的なケーススタディよりもはるかに情報量が多く、しかもその情報が著者自身の経験に基づいたもので、あまり類書がないように思います*3
このケースに沿って、窮地に陥った事業を立て直すために、誰が、いつ、何を、どのようにすべきかを具体的に教えてくれています。
小説という名のケースをとおして、読者に窮地に陥った事業における課題を提示し、その解決策を考えさせる。
その上で、プロダクトライフサイクルやセグメンテーションといった一度は聞いたことがある経営戦略のフレームワークを、どの時点で、どのように活用し、また、どのような点に注意しつつ、問題を解決に導くのか、分析の手法、考え方、そして行動*4までを実際の事業を事例として解説してくれています。

本書は、複雑な経営戦略論を分かりやすく説明するという意味での入門書ではなく、複雑な経営戦略論からその本質的部分を実務で有効活用できるレベルに昇華した上で、実際に社内において、どのように活用するかまで意識して解説をしてくれています。
したがって、入門書に分類をしましたが、すぐに実務で活用できるレベルの内容です。

ところで、今回、本書を紹介したもう一つの理由は、前回の『事業戦略と契約法務のレベル②』でお話をした「事業展開スピード」の重要性を経営戦略ないし事業戦略面から説明してくれているからです*5
前回のお話がピンと来なかった方には、この本をお読み頂くことで、前回のお話がより分かりやすくなるかもしれません。

内容を簡単にお話すると、新日本メディカルという会社が、業界最大手がシェア6割以上を持つ事業領域に、技術優位性のあるジュピターという医療機器を販売するため、どのように事業戦略を立案し、どのように実行していくか、その過程を描いた物語です。
ジュピターの技術優位性という差別化要素が消滅ないし無視しうる程度に小さくなる前に、ジュピターを販売し、継続的に収益をあげていくためのビジネスモデルを構築していかなければなりません。
そこでは、特に競合との関係において、事業展開のスピードが非常に重要な要素になっていることが説明されています。

初版は1991年発行ですが*6、今回紹介した文庫版は2002年に発行され、その際に加筆・訂正がなされており、現在でもそれほど違和感なく読むことができます*7
それでも、今から約14年前の本ですので、変化の早いビジネス書の世界において、今なお高評価を得られる本書は、名著の部類に属する稀有な本かもしれません*8


<脚注>
*1 正確には、本書だけでなく、『経営パワーの危機-会社再建の企業変革ドラマ』『V字回復の経営-2年で会社を変えられますか』とを含む三枝匡氏の三部作全てが高評価でした。残りの2冊については、またいつかの機会に詳しく紹介したいと思います。
*2 著者の三枝氏は、日系企業に就職後、ボストン・コンサルティング・グループで国内採用第1号のコンサルタントを務め、その後、スタンフォード大学経営大学院(MBA)を修了しています。
*3 MBAやMOTのケーススタディで使用するケースブックを読んでいると、どうも外の人が外から見ただけで作成したのではないか?と思われるものが多い気がします。ちょっと薄い・・・というかなんというか。客観性という意味では第三者視点が必要なのかもしれませんが、中の人の認識や意見とあまりずれているのも、たまにどうかな?と思ってしまいます。
本書のように、経営トップ(=CEO)だけでなく、中の人の声もインタビュー等を通じて反映させてもらえると良い気がするのですが・・・。難しいのでしょうか。。。
*4 本書の凄いところは、実際の企業を前提にして、誰が現状を分析し、誰が戦略を立案し、誰が実行するのか、という「誰が」という視点を重視しており、本当に組織を動かすためにはどうすればよいのか?にまで配慮がされている点です。これは、実際に、組織を動かした経験(それも相当数の経験)がない人には、なかなかここまで書くことはできないように思います。
*5 法務や知財の仕事の意義や重要性を十分認識した上で、経営や事業という観点から、もう一度、私たちが携わっているビジネスを見直した上で、改めて、法務や知財の仕事をする、そういうことが必要な世代になってきたように思います。
*6 初版は、なんと今から約25年前。四半世紀前の本です。改めて、凄い本だなと思うと同時に、25年前とあまり変わっていない日本企業に「日本企業は大丈夫か?」と改めて思わざるを得ない若干もの哀しい読後感がありました。。。
*7 競争優位を持続させるために知財(本書「戦略プロフェッショナル」においては、特に特許権)を有効活用するという話が一切出てこないあたりは、残念でした。2002年に加筆・訂正していても、実際の出来事が1991年以前だったことを考えると、致し方ないことなのかもしれません。でもやっぱり、知財に携わる者としては、ちょっと残念です。。。
*8 名著と断言できるほど、経営関連の本を多く読んでいるわけではありませんが、3部作とおして本書を高く評価された方は、とても優秀な方なので、私の評価もあながち間違いではない気がしています。そう、そんな気がしているだけです・・・。