過去30日間で最も人気の記事は、『新職務発明制度の今後のスケジュールと幾つかの実務上の課題について』になっています。
平成27年特許法改正の施行を控えて、テーマとしては、注目されるのも納得です。
ただ、昨年の7月の記事であり、情報が古くなってしまったところもあるので、今日はそのアップデートです。


これまで、(新)産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会の議論については、当ブログでもフォローしてきましたが、いよいよ新職務発明制度(平成27年改正)がスタートします。
昨年の7月10日に公布された職務発明制度の見直しを含む「特許法等の一部を改正する法律」(平成27年法律第55号)の施行日は平成28年4月1日です。
また、皆さんも注目されている、新特許法35条6項に定める指針(以下、「ガイドライン」といいます。)は、昨年末パブリックコメントに付され、こちらは5月1日告示予定とのことです。

『新職務発明制度の今後のスケジュールと幾つかの実務上の課題について』において、
現在のところ、9月から産業構造審議会が開催され、おそらく立法担当官の改正法解説が年内に出されることから、これに合わせて、年内にガイドライン案が完成し、公表される予定とのことです。
おそらく年内から年明けにかけてパブリックコメントに付され、来年の4月1日ないし7月1日に施行されることになるのではないでしょうか。
とお話ししましたが、ここまでは、予定どおり、というところでしょうか。
ガイドラインの告示が、平成27年特許法改正の施行前、遅くとも施行と同時ではなく、1か月遅れの5月1日となるのは、ちょっと想定外でした*1


さて、内容面で、幾つか実務上のキーになりそうなポイントを、以下にまとめてみたいと思います。

① 従業員等との協議が必要な改定について
「発明の使用者(法人)原始帰属」とするためには、従業員等との協議は不要です。
従業員等との協議が必要なのは、平成16年特許改正時に従業員等と協議のうえ定めた内容と異なる「相当の利益」の定めを置く場合です。
従って、平成27年特許法改正の施行(4月1日)に合わせて、従業員等との協議を行うことなく「発明の使用者(法人)原始帰属」とする職務発明規程の改定を行うことが可能です。

② 従業員等との協議について
従業員等との協議は、従業員等の代表者と行うことも可能です。
ただし、この代表者は発明者の代表者であって、職務発明規程の改定について使用者と協議を行うことを委任されている必要があります。
例えば、営業職9割、研究職1割の会社においては、従業員等から選ばれた代表者ではなく、できるだけ研究職1割から選ばれた代表者と協議を行う方が望ましいそうです*2

③ 新入社員や中途採用社員との協議について
新入社員や中途採用社員についても、新入社員研修や中途採用社員研修において、職務発明規程の内容を説明し、意見聴取や質疑応答を通して、協議を行うことが望ましいそうです。
なお、意見聴取や質疑応答は、『別途、ご連絡ください。』として、連絡先を教えるという対応も可能とのことです。

④ 従業員等との協議を行う時期について
従業員等との協議を行う時期が、ガイドラインの公表前であっても問題ありません*3
従って、平成16年特許法改正時に従業員との協議を行っており、それがガイドラインに沿ったものであれば、改めて、協議をする必要はありません。

⑤ 相当の利益について
チーム単位で報奨することも可能です。
研究施設等、会社に帰属するものについては、「相当の利益」に該当するという考え方と該当しないとする考え方があり、注意が必要です。
研究施設等、会社に帰属するものだけを「相当の利益」として従業員に与える場合は、本当に従業員の利益になっているのか、これらの措置が具体的にどの発明に対する相当の利益として与えられたものなのか、その関係性を見える化し、説明できるよう準備をしておく必要がありそうです。

⑥ 平成27年特許法改正施行後における職務発明規程改定までの発明の取り扱い
平成27年特許法改正施行後であって、職務発明規程(社内規則)改定までに生じた発明に対して、遡及的に改定後の職務発明規程(社内規則)を適用することができるかについては、遡及適用は可能とする見解が有力です。

⑦ 税務上の取り扱い
平成16年特許法改正による職務発明制度の場合、出願報奨金は特許を受ける権利の譲渡対価であるため「譲渡所得」として、また、登録報奨金や実施報奨金は、権利の移転によって一時に実現したものではないため譲渡所得に該当せず「雑所得」として取り扱われています。
(参考)No.2592 使用人等の発明に対して報償金などを支給したとき

これに対して、平成27年特許法改正における「相当の利益」は、発明に対する報酬であり、職務ないし業務に対するインセンティブであるため、「雑所得」になると考えられるそうです*4
従って、従業員が確定申告の要否を判断するために、企業は、適切に所得種別を従業員に通知する必要があります*5

いずれにしても、平成27年特許法改正によって、従業員発明者に訴訟の道が閉ざされたわけではないので、今後の裁判所の判断に注目です。


<脚注>
*1 平成27年特許法改正の施行前にガイドラインは公表されるものと思っていました。まさに、施行前に公表されて欲しい、という希望的観測でした。
*2 「〜が望ましい。」とか、「〜とのことです。」という表現になっているのは、最終的には、訴訟をしてみないと分からないから、というのが理由です。
*3 もちろん、ガイドラインの内容に沿っていることは必要ですが・・・。
*4 この点、先日の『新職務発明制度の今後のスケジュールと幾つかの実務上の課題について』においては、「給与所得」と書きましたが、日本知的財産協会主催の研修では、「雑所得」と説明されていました。
*5 税務的な面を考えると、企業も従業員も手間が増えますね。当初、産業界は、ここまで考えず、法改正を主張していたでしょうし・・・。広い視野が必要ですね。