前回、事業戦略を踏まえて決定された契約締結方針について評価をしてください、というお話をしましたが、いかがでしたでしょうか?
100点満点中、何点くらいの点数をつけられましたでしょうか?


私がこのケースを最初に検討したときは、もちろん(笑)*1、結構いい点をつけました。
90点以上にはなるかな?と思っていました。

理由は、事業部は、
戦略的提携にあたっては、画期的な技術と日本と米国における複数の特許権を抑えているのは自社であり、必須基本特許の改良発明はもちろんのこと、用途発明についても今後も継続的に競争力と差別化要素を維持するため、必須基本特許(その改良発明の特許を含む)と用途特許のいずれもが自社に集約されるビジネスモデルを確立したい
という事業戦略を立案しており、この事業戦略との関係で立てられた契約締結方針は、事業を守る効果的なものだと思ったからです。

現に、このような強気の契約締結方針でも、開発した技術が画期的だったことを裏付けるかのように、
そのうち幾つかの企業は、半年から1年後に、改めて共同研究開発の申し入れがあり、自社の条件がほぼ受容される形で共同研究開発契約が締結し、共同研究開発が始まり、共同事業を行ったものもあります。
となっているわけです。これでどうして良い点数がつかないのでしょうか?(笑)

強いて、マイナスの点をあげるとすると、
共同研究開発で生じた特許権等の知的財産を(独占禁止法上の問題が生じないと思われるギリギリのところで、できる限り)自社に帰属させ
あたりでしょうか。「ギリギリ」というのが、どのくらい「ギリギリ」なのかという問題はありませすが、そこまでリスクをとる必要が果たして本当にあるのか?という点について、保守的に考えて、マイナス10点くらいかな・・・、ということで、90点くらい、という評価をしていました*2


さて、答えはというと、まず、この事業は成功したのかどうか?というと結果論ではありますが、残念ながら失敗だったそうです*3

失敗の原因を一言でいうと、事業展開スピードの欠如です。
画期的な技術であったことは間違いがないのですが、別の技術を使った競合企業に市場をさらわれ、新規事業は失敗に終わり、現在、瀕死の状態だそうです*4

事業部サイドからは、
この新規事業の市場規模は非常に大きくなることが予想され、また、自社には、直接、B to C 事業を行う資本もノウハウもなく、画期的な技術の用途を自社のみで開拓するには限界があります。
そこで、当該技術を利用する市場を速やかに拡大して、自社の売上と利益を伸ばし、さらなる研究開発投資を行うために、B to C ビジネスを行っている有力企業や大企業と戦略的に提携していく必要がある。
という事業戦略の提示がありました。

個人的な言い訳ではありませんが、この部分をそれほど(若しくは他の要素と比較して)重視しなかったことは、法務部員や知財部員の役割や責任という観点から見たときに、仕方がないことなのかもしれません。
ただ、ビジネスにおいてスピードは本当に重要な要素であり、少なくとも事業部に、「事業展開のスピードと知財権の確保、どちかを選択しますか?優先順位はどちらが高いですか?」という質問をしても良かったように思います*5
新規事業のスピードを促進する法務・知財の活動というのはちょっと無理な話かもしれませんが、事業展開のスピードをできるだけ減殺しない法務・知財の活動を意識しなければならないときもあるように思います。

もちろん、何でも早くすれば良い、ということを言っているわけではなく、有力な競合企業がいて事業展開をスピーディーに行わざるを得ない場合には、リスクをとってもでも早く事業展開をする、という判断が必要になります。
この判断は法務部や知財部がするわけではありませんが、事業部がこのような判断ができるような契約締結方針の提案ができる必要があるのだと思います。
具体的には、契約締結方針を多段階に設定して、時間軸や競合企業の事業展開に応じて変更していくことになります。
そのためには、法務・知財部であっても、事業戦略を踏まえた契約締結方針を提案するためには、市場分析と競合分析の結果を知っておく必要がある*6、ということになります。

競合分析の結果、どのくらいのスピードで市場に展開する必要があるのか、そのためには、どれだけの時間がかけられるのか、このような視点を持たずに契約締結方針を提案することは、かえって事業部の判断を誤らせる可能性がある*7、ということを、今さらかもしれませんが、今回のケーススタディを通じて学びました。


<脚注>
*1 皆さんは、どうでしたでしょうか?あまり良くない点数や悪い点数をつけられましたでしょうか?少なくとも私は、日頃このような提案をよくしている気がしています・・・。ケースによっては、反省しなければならなそうです。。。
*2 こういった定量的な評価は馴染まない、というか、明確な基準がないので定量的な評価をしても意味がないのかもしれませんが、法務部はもう少し定量的な評価に意識を向けるべき、という思いから、あえて数値で評価をすることにしみました。
*3 これは実際にあったケースを題材にしていますので、結果がでています。もちろん、違う選択肢を採った場合、どのような結果になったか、それは誰にも分かりません。したがって、本当に原因がスピードだったのか?と聞かれても、本当のところは分かりません。ただ、他に原因はあったのか?と聞かれると、検討の結果は、契約締結までに時間をかけ過ぎてしまった、というのが一番の原因、ということになったことは間違いありません。
*4 実例では、この会社は、日本を代表する企業の合弁会社であり、現在は、清算も視野にいれて、事業の見直しをしているそうです。
*5 ビジネスにおいてスピードが重要な要素、ということを知らないわけでも、軽視しているわけでもなく、むしろ、それは重要なんだけど、それって、事業部が重要性を判断して、法務の提案の是非を判断してくれれば・・・、なんて思っていたりします。でも、これって、法務の甘えなんでしょうね。
*6 もう少し具体的に説明すると、①市場規模、②市場の成長性(成熟度合)、③市場の成長スピード、④競合企業の有無、⑤競合企業の参入スピード、⑥競合企業の有力度(若しくは、代替度(代替製品ないしサービスの有無))、⑦自社の事業力(資金力、人材力、事業展開のスピード)等を理解しておく必要があります。これらを検討せずに決定した契約締結方針は、1要素あたり、10点として、マイナス70点の30点くらい・・・という評価も可能です。
*7 真面目な事業担当者ほど、法務部や知財部を信頼して、リスクヘッジないしコントロールをしようとして、ビジネスチャンスを失っていたら、それこそ可哀想です。。。