著者は、東智朗さん*1と尼崎浩史さん*2で、お二人とも弁理士さんです。
また、尼崎さんは、特許検索競技大会2015(選択分野/化学・医薬)の最優秀賞を受賞されています*3

東さんと尼崎さんは、以前、『特許調査とパテントマップ作成の実務』を執筆されています。

本書は、上記の『特許調査とパテントマップ作成の実務』をもとに新たに内容をまとめ直したもので、電気・IT系の分野に加えて、新たに化学・医薬系の分野の特許の取扱いを加え、幅広く活用できるようにしているとのことです。

さて、そんな本書ですが、著者はお二人とも弁理士さんということで、特許調査においても以下の3点を強く意識した内容になっています。

①特許法
②審査基準
③判例

これらを意識する理由は、「特許調査は、検討対象となる発明や特許権を探すことが目的です。したがって、発明や特許権が特許法や審査基準に則ったものである以上、特許調査も特許法や審査基準の考え方を踏まえたものでなければ、調査の範囲自体を誤ってしまったり、調査範囲は的確なのに抽出すべき特許文献を間違えたりと、特許調査が無駄になってしまう。」からだそうです。
そのため本書では、第1章 法律・制度に関する知識第2章 特許調査の種類と考え方第10章 侵害調査において、必要に応じて、①特許法、②審査基準、③判例が特許調査と関連させて詳しく説明されています*4

確かに、行政庁(特許庁)においては特許法と審査基準を、最終的な判断は、裁判所において、特許法と判例に基づいて行われる以上、これら3点との関係で特許調査を整理することは重要だと思います。

そして、この点が、これまで紹介した2冊と比較して、非常に特徴的な部分になっているように思います*5

また、第7章 調査の流れ・実務的知識を説明した後に*6、第8章 演習において、2013年特許検索競技大会 アドバンスコースの問題を例題に、J-Platpatを使ってどのように特許調査を行うのか、具体的に解説をしてくれています。

本書全体を通しての感想としては、簡潔に書かれており読みやすいなという印象を持ちました*7。これから本格的に特許調査をする方が、一通り特許調査について学べる良い本だと思いました。

<評価> ☆☆☆☆☆
(特許調査をしている初級者が中級者になるための本として。また、中級者以上の方が、特許調査の観点から①特許法、②審査基準、③判例について整理するための本として。なお、あえて言えば、一応、☆5にしていますが、引用文献・参考文献が充実していれば、さらに良かったと思います。その意味では、☆4〜4.5が正しい評価かもしれません。)


<脚注>
*1 東智朗弁理士は、株式会社ライズの代表です。
*2 尼崎浩史弁理士は、きさらぎ国際特許業務法人の弁理士さんで、また、インフォストラテジー特許事務所の所長でもあります。
*3 特許検索競技大会の歴代受賞者は、こちら
*4 企業の知財部員(中堅以上)であれば、特許法、審査基準、判例の説明は不要という意見もあるかもしれませんが、知財部に配属されてまだ日が浅い部員はもちろんのこと、中堅以上の知財部員であっても、特許調査という観点から特許法、審査基準、判例を整理して理解するために、十分有益だと思います。
*5 これまでに紹介した2冊において、これらの観点が全く触れられていないのか?というと、そういうわけではありませんが、本書では、はっきりと明言され、かつ、大幅に説明の頁を割いています。
*6 J-Platpatを使って特許調査をすることを前提に説明がされています。
*7 使用されているイメージ図が論理的で分かりやすいです。このあたりにも、著者の力量の一端が垣間見られる気がします。