『特許情報調査と検索テクニック入門 - 研究開発&特許出願活動に役立つ』
前回前々回の続きで、特許調査に関する書籍の紹介、第2弾です。
著者は、ランドンIP合同会社シニアディレクターの野崎篤志さんです。


本書の著者の野崎篤志*1さんも、前回ご紹介したの酒井美里さんと同じくらい、特許情報調査の世界では有名な方だと思います*2

さて、そんな野崎さんが著者の本書のタイトルには「入門」と書かれていますが、本書は良い意味で、いわゆる「入門書」ではありません*3
現在、入手できる特許情報調査に関する本の中では、最も情報量が多く充実した本ではないでしょうか*4
情報量の充実度という観点からは、おそらく今後出版される特許情報調査に関する書籍の著者は、いかに本書を超えるかに腐心することになると思います。

というのも、本書自体、400頁という大著なのですが、それよりも私が驚いたのは、引用文献と参考文献の多さです。引用文献や参考文献が多いということは、多種多様な情報をソースにしており、それだけ記載内容の信頼性が高いと考えられます。
しかも、その数は、なんと250超!*5
「入門書」ではなく、学術論文ですね(笑)。

ただ、図表が多数使用されていて、読みにくさを感じることはありませんでした。
ちなみに図表の数は、なんと243!*6

このように資料的価値が非常に高い本書は、それだけでも購入をお勧めできます。
もちろん、資料的価値だけでなく、以下のとおり、その内容も充実しています*7

序章の「特許情報調査に求められる知識・スキル」において、全体を概観したのちに、第1章の「情報をさがす~本探しと特許検索のアナロジー~」という入門的な話から、第2章の「特許情報調査のための基礎知識」と進んで、日本の特許分類のみならず海外の特許分類の説明をし、第3章の「特許情報調査に用いるデータベースツール」では、特許情報調査に用いる無料・有料のデータベース・ツールの紹介と有料データベースを選択する際の基準、そして特許検索のサポートツールまで紹介し、あわせて国内外の特許情報調査に関する実務上のポイント等が説明されています。

そして、本書のメインは、やはり第6章からはじまる「特許検索マトリックスとその利用方法」です。
この「特許検索マトリックス」は、主に検索キーを整理するためのツールということですが、特許情報調査のステップと検索式構築のフローもあわせて説明されているため、調査ポイントの整理はもちろん、検索式の組立にも有益だと思います*8
詳細は、是非、本書をお読み頂きたいと思いますが、第7章の検索式作成事例では、具体例をあげて、本当に丁寧に「特許検索マトリックス」の利用が解説されています。
こういったノウハウ(暗黙知)の開示(形式知化)は、本当にありがたいですね。


<評価> ☆☆☆☆☆*9
(既に特許情報調査を行っている初級者から中級者向けの本として。また、中級者や上級者が特許情報調査に関する他の文献を探すための参考資料として。*10

野崎さんの以下の書籍も改訂予定があるようです。こちらの改訂も凄く楽しみです。

『特許情報分析とパテントマップ作成入門』


<脚注>
*1  発明推進協会の「知財ist(チザイスト)研修」をはじめ、東京理科大学大学院 イノベーション研究科 知的財産戦略専攻の非常勤講師として「情報収集解析」の講師をするなど、各種セミナーや研修の講師をされています。
*2 残念ながら、私自身はお会いしたことがないんですよね。。。たぶん・・・。もしかすると、野崎さんが日技(日本技術貿易株式会社)に勤務されていたころにお会いしたことがあるかもしれませんが、お会いしていない気がします・・・。知財協の研修の講師をしてくれるとありがたいのですが。
*3 間違っても、これから特許情報調査を始める方が、入門書だと思って本書を手に取ってはいけません。。。でも、これから本格的に特許情報調査にかかわるのなら、今から持っていて良い本だと思います。
*4 私の知る限り、手頃な価格(個人で買える価格)の本の中では、最も情報量が多く充実した本だと思います。
*5 数え間違えていたらごめんなさい。。。だって、数が多いから・・・。ここ何年も、100を超えるような数を数えた記憶がありません。。。
*6 こちらは数え間違いはないと思います。巻末の図表一覧に番号が振ってあって、図の番号と表の番号を足したので。。。著者の野崎さんが間違っていなければ・・・。もちろん、私が、199+44の足し算を間違えていなければ、という条件もつきますが・・・。
*7 ただし、前回紹介した酒井さんの特許調査入門 改訂版のように、J-Platpatの使い方が詳しく書かれているわけではありませんし、法律面の情報も、次回紹介する予定の本よりは少ないように思います。
*8 「特許検索マトリックス」を使った検索式の組み立て方だけでなく、組み立てた検索式の評価と修正の方法まで説明されていて、非常に実務的です。
*9 書籍を評価する際に、「書籍のタイトルと内容、はしがき(まえがき)等で述べられている執筆意図(目的・趣旨等)と目次・内容とが合っているか。」を重視する考え方からすると、『タイトル』に「入門」と書かれており、『はじめに』に「初学者の方に向けた」とありますが、そのレベル感は間違っていると思います。もう少し上のレベルだと思います。その意味では、☆を一つくらい減らした評価にすべきかもしれませんが、それを上回る情報の充実度から☆5の評価が妥当と考えました。私のレベルが低いだけかもしれないので・・・(苦笑)。
*10 本書は、今後出版される特許情報調査に関する書籍のベンチマークになると思います。例えば、前回紹介した酒井さんの『特許調査入門 改訂版』は、本書よりもJ-Platpatの利用方法やデータベースの特性ついて詳しく書かれているけど、海外の調査とか、検索式の作成構築方法とかは、本書の方が詳しい。。。とか。