前回に続いて、2014年10月17日に開かれた第9回(新)産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会についてです。
第9回議事録は、こちら


大渕委員長の以下のご発言は、実務をよくご理解されているなと感心しました*1
〇大渕委員長 やはり机上の空論にならないためには法定対価訴訟の現状がどうかという認識を十分得ている必要があります。これは司法判断にはなじまない大変な負担を当事者と裁判所と両方にかけて、予測可能性も高くないし、納得性も低いというものであります。今までは法定請求権ありきということになっていますけれども、皆さんが、自分自身が発明者になったとした場合に、幾らかわからないものを裁判に訴えてみなければ手に入らないものしかないのか、それとも契約で決まっていて、頑張れば 300 万なり 3000 万なり確実に決まったとおりに得られるのかと言えば恐らく答えは明らかだと思います。やはりきちんと決まったものであれば着実に、私の目安から言えば、奇しくもノーベル賞級だったら1億円なのですけれども、それか 3000 万か1億 8000万か知りませんけれども、決まったものが確実に裁判もなしで得られるのと、それからやってみなければ、裁判を起こしてみたら、それでここに書いてあるので重要なのですが、職務発明の世界では数百万ないと弁護士代等の費用が、これはちょっと問題発言かもしれませんが、ペイしないので訴訟が起きないと言われているので、仮に皆さんが発明者になってみて、受けるべきインセンティブの額が例えば 300 万だとしたら、恐らく訴訟ではペイしないから結局訴訟が出せないので結局は、1円も入ってこないということになってきます。このように、請求権というのは裁判でやらなければならないということで、当事者の負担、それは、今まで産業界のが訴訟リスクが高くて負担が重いとおっしゃっていますけれども、私の目から見れば体力がより弱い発明者のほうに、より不利な制度になっていると思われます。発明者にこそきちんと十分なインセンティブを差し上げるためには、やはり、裁判を、法廷闘争をしなければお金が、――裁判官がいらっしゃるので恐縮ですが――入ってこない制度というのが果たして良い制度なのかというのは大いに疑問と思います。この意味では、貴重なエネルギーは法廷闘争に注ぐよりは、事前に、協議をしっかり尽くした上で納得感の得られる報奨規則をつくっていくという方が意義があると思われます。貴重なエネルギーはそちらに注いだ方が、よほど良い制度になっていくのではないかと思います。(第9回議事録27-28頁)

私の理解がステレオタイプ的かもしれませんが、実務に理論を与える(政策追認?の)東大学派の面目躍如というところでしょうか。
最近は、学者といっても、実務を踏まえてお話をする方が増えている気がします。理論的なことを純粋に詰めていくことは大事だと思っていますし、学者の方が、本来その責務を担っていると思っていますが、それでも、やはり、実務に理論を与えてくれる(政策追認?の)いわゆる東大学派系は、その政策を是とする方々にはありがたいでしょうね(それでは、いけないのかもしれませんが・・・。でも、それなら、政策に反対する立場の学者が現状維持ではなく、より従業者や労働者が有利なり、それでいて産業界や使用者が納得せざるを得ない改正の方向性に正当性を与える理論を構築すれば良いわけで・・・。)。

さて、様々なバックグランドを持つ委員がいらっしゃるなかで、個人的には、北森委員には、本当に感心させられます*2
〇北森委員 発明をした人、これが動くというのはもう当たり前で、これはむしろ発明をした人がその企業、あるいはその機関、大学も含めてずっといる、終身雇用が前提というのはやはり日本独特の考えであって、世界的にすぐれた人はどんどん動いてステップアップをするというのは当たり前の世界になっています。大学はどう考えるかというと、そうしたことに対応することと同時に、若い人たちの人口がどんどん減って、これも何回も言っていますが、30 年後には若い人たちが半分になる。日本を支える人たちが半分になる。その分を国外から補わなければいけない。
そうすると、動くことが前提の人たちがこの我が国に来て労働的なところもあれば知的生産のところもやる、そういう時代が来る。そのときに動けないというようなことが社会システムとして前提だと人は来ない。それから、特許についても、それが属人的にその能力が評価され、その人が動こうとすれば動かないようにもっとよい条件を提示するという社会にならないと、この国の科学技術立国はもう危うくなってくる。どんどん、どんどん社会は変わっていくということが1つであります。
それからもう一つ、先ほど宮島委員からありました一般の報道で、今回のノーベル賞、これは特許に関してカリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村先生の例がよく引用されますが、赤崎先生の特許もスーパー特許の例です。これは第1回の委員会で私が紹介いたしました。赤崎先生の特許は赤崎ビルというビルが名古屋大学に建っております、通称です。こういった特許というのはノーベル賞よりも少ない。これは西澤先生、東北大学の特許だとか、歴史に残るような特許というのはアカデミアからも数えるほどしか出てこない。もうノーベル賞は数年に数個出る実力がある国でありますが、それと産業的価値とは違うということです。
それと大渕先生からさっき冗談に、ノーベル賞1億円というのは、あれは危険。そういう意味では赤崎先生の特許は建物が建ってしまうぐらいで何十億円、あるいはそれ以上の価値があるものであって、ノーベル賞1億円というと、ここは発言録が残りますので、それがある意味ひとり歩きされると困るなというのが感想であります。そこのところは、ノーベル賞というのはスープリームですので、一番トップですので、上限1億円という、そういう誤った解釈もされかねないので、ぜひそこのところは。
〇大渕委員長 あれは一応の目安で、600 億円かどうかというレンジで考えているものですから。
〇北森委員 一応の目安でも、それは。
〇大渕委員長 わかりました。御趣旨は非常によくわかりましたので。
〇北森委員 発言録に残していただくようにお願いします。
〇大渕委員長 わかりました。(議事録40-41頁)

北森教授のご発言の意図を汲み取ると、最終的には、労働契約を締結して、そこで取り決める。労働契約時点の想定よりも高い企業等の業績への貢献度がある場合は、その時点で、転職等されないように労働契約を見直す、ということになるのでしょうか。

この方向性は、個人的に価値感が合うというべきか、何故か、北森委員のご発言には、納得してしまいます*3

先日の記事で、大渕説、もとい『B3-新日本型』では、「⑧発明報奨規則および関連するガイドラインでは、報奨の上限は1億円程度となる。」と私自身も理解していましたが、どうやら、北森委員のこの一言で、このような上限設定はなくなるかもしれませんね。
ガイドラインを作成する側としては、これは結構、大きな制約になるのではないでしょうか。

事務局も大変な仕事を引き受けたものです。
(もちろん、中味というか対価や報奨の算定方法といった実質に立ち入らない、形式的・手続的なガイドラインの作成をするだけであれば、あまり制約にはならないでしょうが・・・。やはり、そちらの方向に進むことになるのでしょうか?)

どんなガイドラインが作成されるのか、ある意味、興味深々です*4

~ つづく ~


<脚注>
*1 ちょっと上から目線の発言ですみません。。。
*2 第2回 (新)産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会の記事でも書きましたが、北森教授の発言には、とても共感するところが多いです。
*3 現に、大渕委員長もご納得されています(笑)。
*4 事務局の苦労をよそに、完全に他人事ですが・・・。