経済産業省が『国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会』という興味深い研究会を開催しています。

研究会で配布された資料によると、本研究会のテーマは、
(1)日本企業の法務部門の現状整理
(2)日本企業と海外企業(特に欧米)の法務機能の違いと事例の考察
(3)日本企業の法務機能強化の方向性の検討
となっています。

何故、このようなテーマが選択されたのか、経産省が考えている背景事情を配布された資料から私なりにまとめると、
①企業の競争環境は、従来の業種の壁を超えた大競争時代に突入した。*1
②経営を取り巻く環境は、急激な変革の時代となっている。
③こうした変革期は、企業にとってグローバルにチャンスが広がっている。
④競争に勝つために、より広範な視点からリスクを正しく把握・評価し、経営判断をしていく必要がある。
⑤日本企業においては、法務機能が適切な経営判断の一助となっている例は少ないとの指摘がある。
ということかと思います。

国際競争力強化という観点から法務機能の在り方を検討するというのは、非常に良いことだと思います。
というのも、競争力強化という視点は、一般論として、日本企業の法務部門に足りていない視点の1つだと思からです*2
ただ、『国際』競争力の強化と限定する必要があったのか、この点は、少し疑問です。
確かに、各種規制が強化され、グローバル化・IT化が進展し、今後の産業構造・就業構造が極めて予見することが難しいほどの急激な変革期となっており、『③こうした変革期は、企業にとってグローバルにチャンスが広がっている。』という背景事情からは、『国際』競争力強化という限定がかかることは自然なことかもしれません。
しかしながら、競争力強化に向けた法務機能の在り方は、国内競争力・国際競争力を問わず必要なことだと思います。
そもそも、グローバル化、IT化という時代の変革期において、国内とか国際とか、こうした分類をすること自体が、グローバル化とIT化の本質を理解していないようにも思います。
ただし、グローバル化、IT化という時代の流れを踏まえて、すべての事業が国際競争にさらされ、したがって、すべての事業において国際競争力の強化が必要、ということであれば、国際競争力強化という表現にも納得です*3

いずれにしても、競争力強化に向けた法務機能の在り方というのは、企業における法務部門が取り組まざるを得ない喫緊の検討課題*4です。
是非、有益な議論を継続的に行って頂きたいと思っています*5


<脚注>
*1 従来は、同業種を競合と考えて、競合分析を行えば良いと考えられていたましたが、最近は、業種の壁を越えて競合分析を行う必要があると言われています。つめり、『Five Forces Analysis(5Forces)』における代替品の脅威を重視して検討することになります。
*2 外資系の企業に勤めたことはないので、実体験として、日本企業以外と比較することはできません。ただ、一般的に、日本企業における法律系機能別部門である知的財産部と比較すると、競争力や競争優位を意識せずに業務を行っている部門だと思います。
*3 いわゆるグローバル企業だけでなく、中堅企業はもちろんのこと中小企業も含め、地域に根差した企業であっても、グローバル化とIT化は事業を継続していくために対応せざるを得ない課題だと思います。
*4 知財部門は、何年も前から経営に貢献する知財部とは何かという議論をしています。もちろん、知財部門の業務の本質が、競争力の強化と密接な関係があるからですが、それにしても、日本企業の法務部門には競争力強化という視点が足りないように思います。
*5 『知的財産推進計画』のように、継続的に取り組んで欲しいです。