前回前々回に続いて、今日は、企業規模との関係で、法務の仕事と期待されている役割がどのように違うか?についての最終回です。

⑤3000人以上の企業における法務の立ち位置
『法務?ちゃんと確認してもらっているよ。何かしようとすると、上長から、法務には確認したか?って聞かれるしね。ちょっと相談しにくい雰囲気(担当者?)のときもあるけど、大きなプロジェクトとか、新しいプロジェクトなんかだと、法務の見解がないと、決裁通らないしね。
知財?法務と別に専門部署があるよ。
法務と知財の区別もそうだけど、法務でも、どこ(誰)に相談すべきか良く分からなくて、困ることがあるかな。自分の上長みたいにもう少し上手に法務と知財を活用できるといいんだけどね。*1

<法務スペシャリストの誕生>

従業員数が3000人以上になると、上場企業それも東証一部上場企業のように*2、日本を代表するような企業が多くなりますし、非上場でも有名企業だったり、複数の子会社を傘下に持っていたりして、コンプライアンスに対する意識は非常に高いのが通常です。
そして、現地法人を設立して海外展開を行うなど、その事業は日本国内に留まりません。

したがって、社長をはじめとする経営層は、日本国内と同じくらいに、また、企業によっては日本国内よりも海外での法的な問題に関心があり、海外も含めて法務部門の重要性を認識し、その専門性に期待をしています*3

その期待に応えるために、法務部門の人数は、これまでとは比較にならないほど多くなります。
そして人数の増加に合わせて、法務部門内での仕事の専門分化が進んでいくことが通常です。企業によって、その専門分化の仕方は異なりますが、例えば、国内と海外に分けた上で、更に、契約、機関法務、渉外関係、法務相談、争訟等に分けられることもあります
所属している企業が特定の業界のリーディングカンパニーである場合には、業界特有の法的問題に精通し、また、最先端の法的問題に対応することもあり、非常に専門性の高い仕事をすることになります。
実際、複数の企業法務系の弁護士さん(最低でも実務経験10年以上の方)とお話をしているときに、企業内の法務担当者の中には、専門の弁護士さんもかなわないくらい、特定分野の法律知識と法律実務知識を有する方がいる、という話を聴くこともあります*4

したがって、このような規模の企業の法務担当者の場合、本人の努力次第では、特定分野において一流(or 超一流)の法律実務担当者、つまり、法務スペシャリストになることが可能な環境だと思います。
そして、有名企業に所属する法務スペシャリストであると社会的に認識されると、業界団体における役職についたり、執筆依頼があったり、国家試験等の試験委員の就任依頼といったこともありますし、また、大学教授等の道が開けていくという可能性もあります*5

その反面、なかなか業務の幅を広げることが難しい場合が多いように思います。
例えば、国内法務グループに配属され、契約担当者となった場合に、1年目は秘密保持契約のレビューだけをしていたなんて話はよくあります。
そして、2年目は売買契約、3年目は委託契約という具合に取り扱う契約書の種類を広げていくといった話もよくあります*6
教育体制が整っている、と言えば聞こえがいいですが、スタートのところで、いわゆる中堅企業や中小企業の法務担当者と経験値という意味で差がついてしまうこともあります*7

契約業務のように段階を追って業務範囲を広げられる場合は、まだ良いですが、これまでに聞いた話で最も印象深いのは、某東証一部上場の法務部長さんとお話をしていたときに、新人法務部員を手っ取り早く戦力にするために、景表法だけ勉強させて、3年くらいずーっと、リリースや宣伝広告物、商品パッケージ等の景表法のチェックをさせる、という話を聞いたことがあります。
年功序列の給与体系の会社ならまだしも、成果主義や能力主義の企業でこれをされると、他と比較して成果を出して、お給料を上げることが難しくなります。
これは同じ法務部門内において仕事を変えていく場合にも当てはまります。競争が激しい分、したいと思っていた仕事ができない、仕事を変えられない、ということもあります。
また、管理職(中間管理職)の中には、成果主義が強く浸透している企業の場合、仕事内容を変えることで短期的に業務効率が落ち、チームに負荷がかかり、成果が落ちるため、仕事内容を変えたり、異動させることを避けたがる人もいます*8

したがって、このような事態を避けるためにも、当初からキャリアプランを考えておくことは非常に重要ですし、また、定期的、強制的にローテーションしている組織(企業)であるかの確認は不可欠だと思います*9

それから、従業員数1000人前後の企業でお話をしたように、ある程度、先人たちが法務部門の社内でのプレゼンスを上げてくれていて、法務の役割や立場というものが社内で浸透しており、ほぼできあがっているため、企業という組織において、法務をどのような組織にしていくか?他部署とのかかわりや関係をどう構築していくか?という問題について関与することも、そして変えていくこともは、ほとんどできないとように思います。
したがって、ある程度の年齢にならないと、組織構築・組織運営という仕事に携わることはほとんどできないように思います。

以上から、従業員数が3000人を超える企業の法務部員は、法務スペシャリストになれる可能性が高く、また、海外法務を経験できる可能性が高いです。
また、組織的なローテーションを取り入れているところは、そのローテーションの幅に応じて、法務ゼネラリストないし管理部門のゼネラリストになれる可能性もあります。
場合によっては、事業部で仕事をすることもできます。


最後に。
これまで見てきたように、企業の規模や上場・非上場といった違いにより、法務の仕事や期待されている役割は異なりますが、あくまでもこれは一例であり、私が思う一般的な傾向です。

また、法務ゼネラリストと法務スペシャリストという言葉に明確な定義があるわけではないで、なんとなくの傾向というか私が持っているイメージです。法務ゼネラリストは、幅広く企業法務全般を取り扱うため、広く浅い知識になることが多く、そのため、分野毎に専門の社外の弁護士さんに依頼をすることが多いと思います。
法務スペシャリストになると、通常は、自分ひとりで仕事が解決できますし、大きなプロジェクトや新しいプロジェクトに関連する場合など特別な場合に、その特定分野の専門の弁護士さんと協働して仕事を行ったり、時には、自身の考えを、法的な見地から批判的に見てもらう、ということもあると思います*10
なお、これも極めて個人的な経験に基づくものですが、法務ゼネラリストや管理部門ゼネラリストの方が、企業内でのキャリアとしては、経営層になれる可能性は高いように思います。

したがって、どのような法務の仕事をしたいか、どのような法務になりたいかを考え、企業規模や上場・非上場という観点を加味したうえで、どの企業を選ぶか検討されると良いと思います。


<脚注>
*1 あくまでも一例です。それも理想的な(笑)。従業員数3000人以上の企業でも、社内における法務のプレゼンスは低く、形式的・名目的コンプライアンス重視の姿勢しか打ち出していない企業もあります。。。
*2 ここでは単に「東証一部上場企業」=「有名企業」という意味で、使っています。
*3 たぶん。。。例外がないとは、いいませんが・・・。ただ、これまで見てきた規模の企業と比較した場合は、明らかに、経営層の法務部門への期待は高いです。
*4 単なる、謙遜(?)かもしれませんが・・・。
*5 有名企業であれば、従業員数3000人を超えなくても、これら道が開けることもあると思います。
*6 学校ではないので、厳密に1年経たないと卒業できない、すなわち、次のステップの仕事に進めないということはないと思いますが、それでもある程度できるようになったと先輩社員や上長から評価されないと、次のステップの仕事に進めない、ということは本当に良くあることです。
*7 30歳前の法務部員の中途採用面接をしていて、広く浅くという観点での経験値の差を感じることはあります。つまり、前職では、業務範囲を決めて、ゆっくりと時間をかけて教育してくれている場合、そうでない企業(多くの場合、前職よりも規模が小さい企業)への転職後、前職と比較して、ゆっくり順を追って仕事をさせてくれ、という仕事に対する姿勢が態度に現れ、転職後の数年間は苦戦するケースをよく見かけます。ただ、個人の資質によるところが大きく、すぐに業務に対する貪欲さとか、雑食性といった仕事に対するスタンスが変わる方もいます。
*8 私は、このような考えの管理職は、自分の首を絞めていると思うのですが、実際、いますよね。。。仕事を固定してしまうと、能力のある担当者の芽を摘むことになりますし、仕事が人に依存したり、ついて回ると、その人に何かあったときに(例えば、転職とか・・・。)、かなり困ったことになると思うのですが・・・。他方で、「単一の仕事ばかりさせておけば、経験不足で容易に転職できなくなるので、そんな心配しなくても大丈夫」と同僚の管理職に言われてときには、「こいつは悪魔か?」と思ったものです。
*9 また、ローテーションがある企業の場合、ローテーションの幅がどこまでかも確認する必要があります。法務部門内なのか、法務ないし知財部門なのか、それよりも広く管理部門なのか、はたまた事業部まで異動するのかなど・・・。
*10 すごく上から目線な企業法務の方もいます。。。昔、そんな(自称?)「法務スペシャリスト」の上司と弁護士事務所に訪問して、ひやひやしたことを覚えています。。。