前回に続いて、今日は、企業規模との関係で、法務の仕事と期待されている役割がどのように違うか?についてお話です。
今日は、①<法務過疎企業(ゼロワン(0~1)企業)>と②<The 一人法務>に続いて、③500人前後の企業における法務の立ち位置からです。


③500人前後の企業における法務の立ち位置
『法務担当?法務グループ(or 法務チーム)あるよ。あの契約交渉しろとかさ、コンプライアンスがどうのこうのって、正直うるさいことばかり言ってるとこでしょ。困るんだよね。。。ビジネス分かってないしさ。
知財?たぶん、知財も法務と同じ部署の人が担当しているんじゃないかな。』

<祝!法務組織誕生>

従業員数が100人を超え、その数が業績の拡大に伴って順調に増え、500人前後くらいの企業になると、一人法務では業務量的に迅速な対応が難しくなってきます。そして、対応できる領域の面でも、複数の異なる専門性を有する法務担当者が必要になり始めます。

その結果、一人法務は卒業。法務グループや法務チーム(2名~数名)という組織の誕生です。

複数の法務担当者のいる法務組織が置かれると、法務担当者同士で案件について議論をしたり、ダブルチェックをしてもらったりと、お互いから学ぶ機会が増えてきます。
場合によっては、法務ゼネラリスト又は法務スペシャリストである上司や先輩社員がいることもあり、そういった方々から学ぶことができる恵まれた環境のところもあります。

もちろん、社長をはじめとする経営層も、前述の①<法務過疎企業(ゼロワン(0~1)企業)>や②<The 一人法務>企業とは異なり、法的な問題が各所で起こっているか、起こりつつあることを認識しており*1、予防法務という発想が定着し始めています。
したがって、法務には、単なる文書管理を超えて、法的な観点からビジネスを検証し、ビジネス部門に法的リスクを提示し、リスクヘッジやリスクコントロールの方法を提案することが求められ始めます*2
ただ、会社の経営層の一部*3には、法務の役割、特に予防法務的な活動の必要性を理解できておらず*4、ビジネスを邪魔する部署(やりたいようにやらせてくれない部署?)と法務部門を(敵視? or )苦々しく思っている人がいたりします。
このような方が経営層にいるということは、当然、管理職(中間管理職)層には、さらに多くの方が法務の役割を理解できておらず、様々な摩擦が生じます*5
このあたりの企業規模までは、なかなか法務の役割や活動といったものが理解されずに、日々の業務において苦しむ法務部員というは結構いるように思います。向上心があって、真面目に法務の仕事に取り組んでいる人ほど、辛い思いをすることもあるように思います。

このような状況は、企業という組織において、法務をどのような組織にしていくか?他部署との関わりや関係をどう構築していくか?という新しい問題を生じさせます*6
したがって、0から、法務組織を、そして、社内の法務業務の運営を考え、生み出し、作り上げていく、という楽しみがあります。
つまり、経営層や管理職層と一緒に、法務組織の構築・運営という仕事をする機会があり、そのような仕事に若いうちから関われる可能性は高いと思います。

そして、このような組織としての活動ができるようになるため、社内に与える影響も大きくなってきます。
ただ、組織である以上、組織構築・組織運営という仕事をする必要があり、そのような仕事に若いうちからかかわれる可能性が高いですが、逆に、純粋に法務担当者として、法務の仕事だけを行っていくことはできない人がほとんどだと思います*6

以上をまとめると、どちらかというと法務のゼネラリスト(やスペシャリスト)向けの企業規模ではなく、管理部門のゼネラリストになりたい方に向いている企業規模のように思います。


④1000人前後の企業における法務の立ち位置
『法務担当?日頃からお世話になっているよ。この前も、助かったよ。まっ、たまには困った担当者もいるけどね。でも、上長とおして話をすれば、たいていのことは、なんとかなるしね。
知財担当?法務が知財の相談にものってくれるよ。』

<法務ゼネラリスト>

従業員数が1000人前後になると、上場している企業も多いですし、非上場でも上場企業の子会社だったり、社会的(or 業界的)に名のとおった企業であるため、昨今のコンプライアンス重視という風潮もあって社会の厳しい目が向けられています。
したがって、社長をはじめとする経営層は、法的な問題が各所で起こっているか、起こりうることを認識しており、法務組織の重要性を認識しています*8
実際に、法的な問題が顕在化することも多くなってきており、経営層はもちろんのこと、管理職層でも、法的な紛争等に巻き込まれ、法務のアドバイスに従っておけば良かった、法務に確認しておけば良かった、ということを体験する人が多くなるのは、このくらいの規模の企業からだと思います。
その結果、法務の役割や仕事が理解され、法務部門としては、仕事がやりやすい環境であり、かつ、仕事にやりがいを感じられることが多くなってくるように思います。

また、上記のとおり法的な問題が顕在化するため、臨床法務を経験し、その経験を踏まえて、効果的な予防法務策を講じるなど、法務部門の活動が本格化していきます。

ただ、従業員数が1000人前後の企業では、法務部員は数名~多くても10名前後というところが多いように思います。
そのため、法務部門が取り扱う仕事をその専門性毎に分けて担当制にすることは難しく、基本的には、全員がその仕事をするか、短期間で仕事をローテーションすることになると思います。
また、法務部の他に知的財産部がある企業もあると思いますが、法務部が知財を取り扱っているところもそれなりにあるように思います。
したがって、契約専門、紛争専門、機関法務専門、法務相談専門、知財専門 etc という法務スペシャリスト的(or 知財スペシャリスト的)な仕事ではなく、法務に関連する仕事を広く浅くという法務ゼネラリストという仕事をしていくことになります。

また、法務部門の管理職の方々も法務経験者であったり、先輩社員もいるため、様々なことを教えてもらえるというメリットがある反面、目の前に重しがあり、能力があってもなかなか重い案件や複雑な案件、戦略的な案件を担当させてもらえないという問題があります*9

そして、ある程度、先人たちが法務部門の社内でのプレゼンスを上げてくれていて、法務の役割や立場というものが社内で浸透しており、仕組みもできあがりつつあるため、企業という組織において、法務をどのような組織にしていくか?他部署とのかかわりや関係をどう構築していくか?という問題について、0(どころか1)から考えることはほとんどないように思います。また、これらをドラスティックに変えていくことも難しくなっていると思います。
そして、組織構築・組織運営という仕事は、管理職層の仕事のため、若いうちからこのような仕事に携わることはほとんどできないように思います。

以上をまとめると、従業員数が1000人前後の企業の法務部員は、管理部門のゼネラリスト向けの企業規模ではなく、法務ゼネラリストないし法務スペシャリストになりたい方に向いている企業規模だと思います*10

~ つづく ~


<脚注>
*1 だからこそ、法務という間接部門の人員を増強するという意思決定を経営者はしているわけですね。
*2 予防法務については、こちらの記事も参考になると思います。『臨床法務、予防法務、戦略法務? ①』『臨床法務、予防法務、戦略法務? ②』
*3 例えば、営業担当役員。。。とか。
*4 取締役等の経営者になれば、少なくとも頭では法務の必要性を理解していて、ただ、感情面だけがついてこない、自身の体験として必要性を実感できていないだけの場合もあります。
*5 例えば、全ての法的な問題は、白黒はっきりさせることができるということを前提に法務に相談をしたり、また相談の結果、黒( or 黒っぽい)という回答を得ると、黒を白にするのが法務の仕事、とか言って、無理やり白と言わせようとしたり・・・。
*6 人・もの・お金(予算)といったリソースの確保や経営層との良好な関係作りなど、ようするに社内政治がそれなりに必要なってきます。
*7 法務専任というのも難しいかもしれません。知財と兼務くらいならまだ良いですが、総務や人事との兼務なんてこともありえます。その結果、管理部門のゼネラリストというキャリアを積むことが多くなります。
*8 もちろん中には、口だけコンプライアンス重視の会社もありますし、コンプライアンス重視を掲げても、実際のところ、コンプライアンス違反という問題が生じてしまうかどうかは別問題ですが・・・。
*9 あくまでも他の企業規模の法務と比較して、という比較の問題です。従業員数が数百人規模の会社と比べれば多少重しが重くなってきますが、従業員数が3000人を超えるような企業に比べれば、その重石は随分と軽いと思います。
*10 念のため補足すると、法務ゼネラリストと法務スペシャリストという言葉に明確な定義があるわけではないで、なんとなくの傾向というかイメージです。