前回に続いて、2020年東京五輪エンブレム問題に関する雑感です。
今日は、③何故、「著作物性が問題となっている著作物の創作時までに」なのかについてです。

前回、著作物性の判断も、類似性の判断も、「著作物性が問題となっている著作物の創作時までに」という基準が重要である、という指摘をしました。
ところが、実際は、このような指摘はあまり意識されておらず、今回の一連の2020年東京五輪エンブレム問題においても、この点(創作時判断)をあまり重要視(どころか意識も)せずに、著作物性がないとか、著作物性が低いので、その著作物の保護範囲も狭く、従って、類似の著作物でない、という判断が数多くされているように思います。

しかしながら、これらの判断時点を著作物性が問題となっている著作物の創作時とすることは、以下の理由から非常に重要だと考えています。

①創作当時には類似のデザインが存在せず、独創的・創作的であったデザインが、後に独創的・創作的であったデザインに依拠して作成されたデザインや模倣品が出回ることで、創作性が失われるということは、理論的にはありえない。
②あるデザインの創作後に、同一または類似のデザインが独自に創作されたからといって、先に創作された当該デザインの創作性が失われることも、理論的にはありえない。


したがって、当該デザインの創作当時に、既に、独自に創作された類似のデザインが多数存在していたことの立証が必要になるはずです*1
そして、この立証は、結構な時間と労力が必要ですし、あまりに創作時が古くなると、証拠集めに苦労します。

おそらく、この説明は、特許制度を理解している方には、すんなり理解されると思います。
何故なら、特許の新規性や進歩性は出願時に判断されており、これと基本的には同じ考え方だからです*2

というわけで、改めて、佐野研二郎氏がデザインした2020年東京五輪エンブレム(ロゴ)とオリビエ・ドビ氏がデザインしたベルギー・リエージュ劇場のロゴが著作権法上類似していると言えるかどうか、そして、著作権侵害が成立するのかについては、現時点では、私には、分かりません。
何故なら、それだけの調査を創作時にまで遡って、私自身はしていないからです。。。*3


<脚注>
*1 デザインの創作後に類似のデザインが独自に多数創作されたことが、ありふれた表現ないしは表現の選択の幅が少なかったことを立証する間接事実となるかどうかについては、これを認めることは、あまり好ましくはないように思いますが、現時点では、私自身も完全には否定しておりません。
*2 ところが、知財の専門家と言っても、著作権のみを専門にしていると、実は、意外とこのこと(特許の話)を認識されていない方がちらほらといるような気が・・・。
*3 一体どれくらいの知財、それも著作権の専門家の方々が、思いつきや教科書レベル(感情論?!)ではなく、きちんと調査をした上で、著作物性や類似性に関してコメントをしていたのでしょうか・・・。