前回の記事は、私の悩みがストレートにでてしまい、流れが2転3転(4転?)してしまって、少し(いや、だいぶ?)読みにくかったと思います(すみません。。。)。
そこで、今日は、前回の整理から始めたいと思います。

前回の話を整理すると、ようするに、秘密情報を受領する側の立場で、秘密保持契約を締結する際に、秘密情報を「提供された一切の情報」と広く定めた契約の方が良いのか?それとも、「秘密として指定した情報」といった形で秘密情報を特定(限定)した契約の方が良いのか?*1
という問題について、
①秘密情報を開示ないし漏えいし訴訟になったケースで、情報を開示した側の損害賠償請求が認められたのは、全て不正競争防止法違反であり、単純に秘密保持契約違反のものはなかった*2
②理論的には、不正競争防止法による営業秘密の保護と秘密保持契約による秘密情報の保護は別で、それぞれ要件を満たせば保護が受けられるといっても、実際は、立証の関係で不正競争防止法による営業秘密の保護を求めることになる。
③不正競争防止法による営業秘密の保護を受けるためには、不正競争防止法2条6項のいわゆる三要件の全てを満たすことが必要になる*3
④三要件のうち最も争いの多い「秘密管理性」の要件を満たすためには、特定の情報を秘密として管理しようとする意思(秘密管理意思)が、秘密管理措置によって、明確に示され、結果として、当該秘密管理意思を容易に認識できる(認識可能性が確保される)必要がある*4
⑤従って、秘密保持契約において、秘密情報を単に「提供された一切の情報」と広く定めた場合、秘密管理意思が、秘密管理措置によって、明確に示され、結果として、当該秘密管理意思を容易に認識できる(認識可能性が確保される)状況ではないとして、不正競争防止法による保護が受けられない可能性がある。
という考え方にも十分説得力があるというものです。

だからと言って、「秘密として指定した情報」といった形で秘密情報を特定(限定)した契約文言を、わざわざ「提供された一切の情報」に修正するよう指摘や交渉をしますか?と問われると、いや、ちょっとそれは・・・。う~ん。。。
というのが前回の結論でした。


ところで、この議論をしていた時に、もう一つ話題に上がったことがあります。
それは、前回と同じく、秘密情報を受領する側の立場で、秘密保持契約において秘密情報を「提供された一切の情報」と広く定め、かつ、公知情報が秘密情報の例外として定められていない場合に、「提供された公知情報」も開示ないし漏えいしてはいけない情報にあたり、差止請求や損害賠償請求を受るか?
というものです。

こちらの方は、秘密保持契約書の文言上は、確かに「提供された一切の情報」とあり、かつ、公知情報を秘密情報の例外として定めていない以上、情報受領者による、その情報の開示ないし漏えい行為は、秘密保持契約書上禁止されている行為にあたり、従って、差止請求と損害賠償請求の対象になる、とも読めます。
ただ、これについては「公知情報を開示する行為への差止請求って、何か変だよね。それって、差止を認める実益はあるの?」とか「公知情報が開示ないし漏えいされたことによる損害って、無いでしょう?仮にあったとして、どうやって立証するの?」といった観点から、「提供された情報が公知情報の場合は、その情報の開示ないし漏えいは、秘密保持契約により禁止された行為ではない。」という結論の方が多かったです。

ただ、それでは「公知情報を秘密情報の例外として定めるよう契約交渉しないのか?」という問いについては、それはそれ、これはこれということで、ほとんどの方が「秘密保持契約書に書いてあるじゃないか」という(言いがかりみたいな)議論を避けるために、「修正交渉するかな。」という答えでした*5
まぁ、ある意味納得、というか気持ちは分かります・・・。*6


<脚注>
*1 契約書上の文言としては、例えば、『「秘密情報」とは,甲が乙に対して開示した情報のうち,「秘密情報」として明示のうえ指定したものをいう。ただし,甲は,口頭で秘密情報として開示したものについては,乙に対し,当該開示後30日以内に当該情報を明示した書面を送付するものとする。』といった感じです。
*2 私のリサーチが甘い可能性は十分にありますが・・・。そのときは、ご容赦を。そして、よろしければご教示賜りたく。。。
*3 不正競争防止法2条6項 『この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。 』
*4 営業秘密管理指針(3頁以下)
*5 単に公知情報を秘密情報の例外とするだけでなく、他にも、「秘密情報」の例外として、① 秘密保持義務を負うことなくすでに保有している情報、② 秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報、③ 相手方から提供を受けた情報によらず、独自で開発した情報、④ 本契約及び個別契約に違反することなく、かつ、受領の前後を問わず公知となった情報、という定めをおくために、修正交渉をする、という至極まっとうな意見もありました。
*6 けれども、このような契約交渉をしなかったことが原因で事故が起こる確率と契約交渉等にかかるコストの費用対効果を考えると、微妙なケースもあるのではないかなと。。。法務や知財が経済合理性をどこまで考慮すべきか、実に、難しい問題です。