池井戸潤氏の『下町ロケット』が、10月からTBSの日曜劇場でドラマ化されます。主人公の佃航平を阿部寛さんが、佃航平さんの娘役を土屋太鳳さんが演じます。
それに合わせてか、『下町ロケット』がAmazonで電子書籍化されました。

いわゆるメディアミックス戦略ですね。


というわけで、先日お話をしたとおり、Kindle版を早速購入して(ようやく)読みました。
初の池井戸作品です*1

さて、既に多くの書評がありますので、いまさらですが、この『下町ロケット』良くできていますね。読む価値ありのお勧めの一冊です。
さすが、平成23年直木賞受賞作品といったところでしょうか。
あっと言う間に引き込まれるエンタテインメント性は言うに及ばず、日本の中小企業*2の置かれている立場、大企業*3と中小企業の関係性、そして知財(特許)訴訟など結構細かいところまで、リアリティがあると思います。


前半は、特許訴訟がメインで、後半は、契約交渉がメインのお話ですが、企業法務や知財の仕事に興味がある人にはお勧めです。
特許訴訟や契約交渉の具体的なイメージを持つという観点からも、それなりに役に立つと思います。
それに加えて、前半の知財訴訟では、佃製作所の佃社長を始めとする経営幹部層の訴訟や法律、そして弁護士(正確には、弁護士の専門性*4)に対するイメージは、(特許)訴訟をしたことがないような会社や多くの中小企業にありがちなもので、ある意味実務を良く描けていると思います。
後半の契約交渉*5でも短期的な視点、中長期的な視点、そして、経営とは何か、会社とは何か、仕事とは何かを考えさせてくれます。
法務や知財という立場から、これらについて考え、自分の考えをまとめ、そして、人に話すことができるようになることは、法務や知財の仕事をしていくことは非常に大事なことだと思っています*6

もちろん、「実社会では、そんなに上手く行かないよ」という声が聞こえてきそうですが、確かに、確率的なことを言うと、これは正しいのでしょう。おそらく多くの(ほとんどの?)会社は、佃製作所のように上手くは行かないと思います。
ただ、佃製作所のように、上手く行ってしまう会社は上手く行ってしまいますし、それもまたそれでリアリティがあるということだと思います。

ところで、先日もお話をしましたが、この『下町ロケット』に出てくる中小企業側の神谷弁護士は、『技術法務のススメ-事業戦略から考える知財・契約プラクティス』の編集代表の鮫島弁護士がモデルになっています。
より詳しいお話は、こちらをご覧頂ければと思います。
小説「下町ロケット」より 中小企業の知財戦略
こういったお話も企業法務や知財のイメージをつかむの結構役に立つのではないかと思います。

そして、ドラマ化(映像化)されることで、より具体的なイメージがつかみ易くなると思いますので、リアリティのある良い作品になることを期待しています。



<評価> ☆☆☆☆☆
(技術が強みの中堅・中小企業の法務や知財の仕事を知りたい学生やロースクール生、企業における短期的な視点、中長期的な視点、そして、経営とは何か、会社とは何か、仕事とは何かについて考えたい人に。または、小が大に勝つという爽快感をエンタテインメントとして味わいたい人に。)


<脚注>
*1 『半沢直樹』も見てないですし、『半沢直樹シリーズ』も読んでないんです。『下町ロケット』が面白かったので、池井戸作品の優先順位を上げて読んでみようかな・・・。
*2 主人公の佃航平社長の佃製作所は、年商100億円弱ですので、中堅企業研究会の定義によれば、中小企業ではなく、中堅企業ですが・・・。
*3 若干(だいぶ?)詰めの甘い大企業だとは思いますが、相手の企業が中小企業だからといって舐めてかかるという多くの大企業にありがちなことを、それ程誇張せずに、かなり良く描けていると思います。
*4 法的な問題なら、どんな法律の問題であっても弁護士さんに頼めば、それほど差はなく対応してくれる、ということはなく、弁護士さんの専門性(その土台となっている経験等)は、本当に大事だと思います。
*5 相手が大企業だからとか、契約書の変更は不可と言われているとか、最初から契約交渉を諦めてしまってはダメ。なんてことも、勉強できたりします。
*6 企業法務や知財の仕事では、社内交渉(調整?)という仕事が意外に多く、人に説得、そして納得してもらうことが結構重要だったりします。