法務の仕事内容というお話は、色々なところでされていると思いますので、今日は、それとはちょっと違った、企業規模との関係で、法務の仕事と期待されている役割がどのように違うか?についてお話をしてみたいと思います。


少しでも、法学部生やロースクール生、そして企業法務の仕事に興味がある方の参考になればと思っています*1

といっても、最初にお断りを。。。
法務の仕事内容や企業において法務が求められている役割というのは、それこそ千差万別で、企業毎に違います*2
これから私が書くことは、私自身の3社の法務経験と日頃とてもお世話になっている法務の方のご経験と、さらには様々なところから聞こえてきたことに基づいたお話です。
つまり、私の経験の範囲内と経験をもとにした推測の範囲のお話です。従って、これを一般化、抽象化することは、かえって真実と異なってしまう可能性の方が高いかもしれません。

ただ、何の基準も視点もないと、比較検討することが難しくなるのも事実です。従って、今日お話をすることは、「もしかすると、そんな傾向があるかも?!」と思ってお読み頂き、就職活動(や転職活動)の際に、皆さん自身に確かめて頂けたらと思っています。

それでは、前置きが長くなりましたが、企業規模と法務の仕事についてのお話です。
結論から言うと、企業規模は法務の置かれている立場や企業における役割に大きな影響を与えています。
という、ごくあたり前の話になります。
そして、企業規模が小さい場合は、「上場しているか?若しくは上場する気でいるか?」ということが、法務の置かれている立場や企業における役割にとても影響を与えます*3
というお話です。

まず、企業規模ですが、従業員数を基準に、次の5つに分けてみたいと思います。
①100人未満、②300人前後、③500人前後、④1000人前後、⑤3000人以上
この数字は、説明のために作った「ざっくりとした、これくらいかな。」というイメージです。あくまで、説明の便宜のため、この①~⑤の人数による企業規模に分けて説明したいと思います。
そして、これに「上場しているか?若しくは上場する気でいるか?」という観点を加味して、企業における法務の仕事内容と法務が求められている役割をお話していきます*4

①100人未満の企業における法務の立ち位置と役割
『法務担当?何それ??契約書とか会社の書類(文書?)を管理してくれるひと???
知財担当???さらに言っていることの意味が良く分かりませんが。。。』

<法務過疎企業(ゼロワン(0~1)企業)>

正直、このサイズの企業に選任の法務担当者がいることはかなり稀です。いない会社がほとんどです。
仮に、いたとしても、いわゆる一人法務なため、法務スペシャリストである上司や先輩社員から学ぶことはできませんし、なによりも問題なのが、社長をはじめ、経営層が、法務という仕事がどんな仕事であるか、(基本的に)理解していません。
従って、取引先に「契約書を締結しましょう。」と言われて締結した契約書が増えてきて、(紛失した契約書もあったりして)「そろそろ契約書の管理をしないといけないかな~。」となって、文書管理の一環として契約(管理)担当者が置かれ、それを法務の仕事と考えている企業が多いように思います。
社長を含めた経営層は、予防法務*5という発想はほとんどなく、何か法律的な問題が起これば(起こればですよ。そして、たいていの場合、そのようなことは起こりません。)、弁護士さんを探して相談すれば良いと思っています*6
従って、経営層は、専任のいわゆる法務担当者という役割ではなく、単なる文書や書類管理が法務役割と考えて*7、そのような仕事を担当させていると思います。

よって、このような会社に、法律を使った仕事がしたい、法務のスペシャリストになりたい、と思って入社することは、基本的にお勧めしません*8

例外的に、経営者が、何らかの理由で*9、法務に関する意識が高く、法務の後ろ盾になってくれるという特殊な場合は、状況が異なります。
ただ、経営者の法務意識が高いかどうかは、通常、外から見ても分かりません。。。
外から見て分かる、そのような例外にあたる一般的な傾向としては、その企業が『上場している。若しくは、上場を目指している。』ということがあると思います。
このサイズで上場している場合は、純粋持株会社、いわゆるホールディングスなどの場合が多く、株主総会事務等の機関法務や組織再編、M&Aといった、それこそインハウスローヤーを採用して行うような法務業務を行っている可能性が高く、場合によっては、国際法務(渉外法務)を行うこともあると思います。
法務の人員は、イメージとしては少数精鋭で4~5人、多くても10人弱程度です。
企業における法務の置かれている立場は強く、重要なポジションで、経営層からも法務のスペシャリストとしての役割を期待されていると思います。
同じように、急速に成長している、例えば、IPOを目指しているベンチャー企業のようなところで、IPOの実現可能性が高い企業の法務も、法務過疎企業(ゼロワン(0~1)企業)ということはなく、法務の人員は、イメージとしては2~3人程度(ただし、純粋な法務ではなく、総務や人事等との兼務という場合もあり、実際は1~1.5人程度の場合もあります。)で、株式上場経験があるなど機関法務に関する能力と経験を有した有能な法務部員がいる可能性が高く、こちらも会社における法務の置かれている立場はそれなりに強く、経営層からも法務のスペシャリストとしての役割を期待されていると思います。

機関法務系のスペシャリストになりたい方には、その意味で、成長できる機会の多い企業である可能性が高いです。
ただし、実務未経験で採用してくれる企業がどのくらいあるのか(ほとんどない?!)、という別の問題はありますが・・・。


②300人前後の企業における法務の立ち位置
『法務担当?うちにもいるよ。契約書を作って、というと作ってくれたり、契約書とか文書の管理しているひとだよね。
知財担当???う~ん、知財担当はいたかな?えーっと、いないかな・・・。たぶん。。。』

<The 一人法務>

100人以上300人前後の企業から、徐々に、選任の法務担当者が置かれ始めると思います。
いわゆる一人法務というやつです。法務スペシャリストである上司や先輩社員はいないため、そういった方から学ぶことができないのは、<法務過疎企業(ゼロワン(0~1)企業)>と基本的には同じです。むしろ、中途半端な知識や経験に基づいて、指示がなされたり、評価されたりします。
前述の<法務過疎企業(ゼロワン(0~1)企業)>と同様に問題なのが、社長をはじめ、経営層が、法務という仕事がどんな仕事であるか、基本的に理解していません。
まだまだ、社長を含めた経営層に、予防法務という発想はほとんどなく、何か法律的な問題が起これば(起こればですよ)、弁護士さんを探して相談すれば良いと思っています。
ただ、社員が100人を超えるくらいになると、様々な人が集ってきているため、100人未満のときよりも、法的な問題が起こる可能性は数段高まっています。
そのため、経営層は、契約書の管理だけではなく、契約書を含めた文書を作成すること、そして法的な問題が起きたときには、弁護士事務所と連携して問題解決をしてくれることを望んでいます*10

このように、<The 一人法務>は、基本的に、<法務過疎企業(ゼロワン(0~1)企業)>の法務と同じく、法務スペシャリストである上司や先輩社員から学ぶことはできませんし、なによりも問題なのが、社長をはじめ、経営層が、法務という仕事がどんな仕事であるか、理解していません。
従って、経営層は、専任のいわゆる法務担当者という役割ではなく、単なる文書や書類管理が法務役割と考えて、そのような仕事を担当させていると思います。
そして、何か法的な問題が起これば、社内の法務担当者よりも、社外の弁護士さんの意見のみを尊重して問題解決を図ることが多いため、法務担当者は社外の弁護士さんとの窓口という位置づけであることが多いように思います。
ただ、法的な問題が起こる可能性は、<法務過疎企業(ゼロワン(0~1)企業)>よりも数段に多く、実際に、問題が起これば、予防法務への意識も高まっていきます。
よって、このような会社に、法律を使った仕事がしたい、法務のスペシャリストになりたい、と思って入社することは、どのくらい法的な問題が起こるか?ということによって、希望する仕事が得られる会社なのかどうかが変わってくると思います。。
そして、やはり、、それなりにお勧めできるのは、<法務過疎企業(ゼロワン(0~1)企業)>のところでお話をしたように、経営者が、何らかの理由で*9、法務に関する意識が高く、法務の後ろ盾になってくれるという特殊な場合です。
ただ、経営者の法務意識が高いかどうかは、通常、外から見ても分からないというのは同じで、外から見て分かる、そのような例外にあたる一般的な傾向としては、その企業が『上場している。若しくは、上場を目指している。』ということがあると思います。
このような会社であれば、経営者の予防法務への意識もそれなりに高いため、法務の役割も予防法務を中心に明確化され、法務として良い経験を積める可能性があります。

~ つづく ~


<脚注>
*1 「こんなはずではなかった・・・。」というミスマッチがなくなることは、就職する側にとってはもちろんのこと、就職される側(採用する側)にとってもメリットがあります。採用コスト、就業環境の準備コスト(就業スペースやPC等の準備)、そして、教育コストなど、企業によって差はありますが、それでも、これらのコストを「0(ゼロ)」にできない以上、採用後に1~3年以内に辞められるのは、費用対効果が見合わないと思っています。
*2 企業毎の歴史、業界、業種、置かれている立場、経営理念、社風、そして企業規模など、様々なことが影響しあって、企業毎に違ってきます。
*3 上場している、若しくは、上場しようとしている会社の場合、上場基準や上場審査という形で、内部統制などコンプライアンス体制の整備が要求されているため、社内における法務の相対的な地位が高まります。
*4 そして何よりも、経営者の価値観や考え方が一番影響を与えるのですが、こればかりは、一緒に仕事をしてみないと、経営者の価値観や考え方を理解することは非常に難しいため、今回は、あえて考慮要素から除きました。なお、仮に、理解できた(と思った)としても、経営者自身も変わって行きますので、アップデートが必要という問題もあります。
*5 予防法務については、こちらの記事も参考になると思います。『臨床法務、予防法務、戦略法務? ①』『臨床法務、予防法務、戦略法務? ②』
*6 顧問弁護士がいる可能性はあります。その場合は、法務の相談や契約書のレビューや作成を丸投げしていることもあります。
*7 なお、契約書管理の重要性を否定するつもりは全くありません。法務の責任で契約書の管理を行うか、事業部の責任で契約書の管理を行うか、考え方はいくつかありますが、いずれにしても契約書の管理は非常に重要です。
*8 仕事ができるという意味で、本当に優秀だと、上に重しが無い分、自由に仕組みや制度を作り上げて、最初から自分を伸ばす経験をすることができる可能性があります。私は、どちらかというと、こういうチャレンジが好きですが、本当に優秀でないと、かなり厳しいと思います。
*9 例えば、法学部卒若しくは法科大学院卒、または弁護士資格を持っている経営者とか、法的な問題が顕在化して、倒産の危機を経験したことがあるといった、法律関係で、かなりの痛い目にあった極めてレアな経営者の場合です。
*10 ただ、案件によっては、直接経営層が弁護士事務所に相談をして、経験ある法務担当者が対応する場合よりも面倒なことを引き起こすことがあったりします。