前回は、SWOT分析を行う上で注意すべき点を説明して終わってしまいましたが、改めて、SWOT分析と知的財産戦略、特に、SWOT分析を行った後に、知的財産戦略を立案することの重要性についてお話をしたいと思います。


結論から言ってしまうと、SWOT分析を行うときは、同時に知的財産戦略も立案しましょう、そうしないと、SWOT分析を短期間に繰り返して行わなければならず、中長期的に利用できる事業戦略を立案することが難しくなるから、ということです。
以下、その理由を説明していきます。

前回、SWOT分析とは、戦略フレームワークの一つで、
①Strength(強み) 内部要因である自社や自社事業の強み
②Weakness(弱み) 内部要因である自社や自社事業の弱み・課題
③Opportunity(機会) 外部環境にある自社や自社事業に関する機会
④Threat(脅威) 外部環境にある自社や自社事業にとっての脅威
を分析するもの、というお話をしました。

通常、SWOT分析をして現状を把握したのちに、クロスSWOT分析を行って対応すべき課題を抽出し、そこから戦略オプションを明らかにします。
クロスSWOT分析とは、SWOT分析をベースとして、内部要因の『強み』と『弱み』、外部環境の『機会』と『脅威』をクロスさせ、様々な戦略オプションを検討する手法です。

具体的には、
『強み』×『機会』 = ≪強みを生かす戦略≫
→ 「強み」によって「機会」を最大限に活用するために取り組むべきことは何か?

『強み』×『脅威』 = ≪縮小する戦略≫
→ 「強み」によって「脅威」による悪影響を回避するために取り組むべきことは何か?

『弱み』×『機会』 = ≪弱みを克服する戦略≫
→ 「弱み」によって「機会」を逃さないために取り組むべきことは何か?

『弱み』×『脅威』 = ≪徹底する戦略≫
→ 「弱み」と「脅威」による最悪の結果を回避するために取り組むべきことは何か?
を検討して行きます。

クロスSWOT分析では自社の現状分析を元に、それぞれ4つの戦略オプションを検討することができます。
これらの戦略オプションから自社の大きな戦略の方向性を絞り込み、戦術の次元に落とし込み、次なる手を打っていきます。

さて、私の経験からすると、事業部門が、SWOT分析からクロスSWOT分析をおこなっていく過程に、知的財産権を活用するという観点が抜けていることが多く*1、最も効果的な*2戦略オプションを検討することができていないか、仮に効果的な戦略オプションを検討することができ、それに基づいて事業戦略立案し、戦術に落とし込んだものの、その効果が持続しないということが起きているように思います。

つまり、SWOT分析をした際に、
①自社ないし自社事業の『強み』と思っていたことが知的財産権*3を保有することができなかったために模倣されていき、いつの間にか『強み』でなくなってしまったり、
②『機会』と思っていたことが、知的財産権で参入障壁を築けなかったために、あっという間にレッド・オーシャン化してしまい『機会』がなくなってしまったり、
③知的財産権の継続的な取得に向けた活動を行えなかったために、いつまでたっても自社ないし自社事業の『弱み』を解消できず、
④知的財産権の継続的な取得に向けた活動をおこなえず、有効に活用することができなかったために、『脅威』に対する対策が不十分で、『脅威』がそのまま現実のものとなり、市場からの撤退を余儀なくされてしまう、
といったことが時間の経過とともに起きているように思います。

もう少し具体的にSWOT分析と知的財産の関係を説明をすると、例えば、丸島儀一教授は、著者の『知的財産戦略』の中で、『守りの権利』と『攻めの権利』という考え方を提唱されています*4



『守りの権利』と『攻めの権利』を、特許権を前提に説明をすると、
『守りの特許権』
①事業を守り、強くするために使う特許権
②事業の基となるコア技術の特許権
③侵害訴訟で勝つことを意識して形成する特許権
④競合他社に利用させない特許権

『攻めの特許権』、
①自社ないし自社事業の弱みを解消するために使う特許権
②主にコア技術以外の技術に関する特許権
③他社が使いたくなるような技術に関する特許権
④他社に脅威を与えることを意識した特許権
⑤クロスライセンスにより自社の研究開発や事業活動の自由を確保するための特許権
となります。

これをSWOT分析に当てはめると*5
①『強み』は、『守りの特許権』を使って、自社ないし自社事業の『強み』を継続的に強化し、
②『弱み』は、『攻めの特許権』を使って、クロスライセンスにより自社の研究開発の自由や事業活動の自由を確保し、自社ないし自社事業の『弱み』を継続的に減少させていき、
③『機会』は、『守りの特許権』を使って、参入障壁を継続的に築き上げ、できるだけレッド・オーシャン化やコモディティ化を先延ばしし、
④『脅威』は、『攻めの特許権』を使って、クロスライセンス等により、他社の参入障壁を継続的に崩していく。
ということになります。

同じようにクロスSWOT分析に当てはめると、より経営戦略や事業戦略を立案する際に、知的財産を活用することのメリットが分かりやすくなると思います*6
『強み』×『機会』
→ 「強み」によって「機会」を最大限に活用するために取り組むべきことは何か?
⇒ 『守りの特許権』を使って、事業を守り、強くし、機会を逃さず、また、参入障壁を継続的に築き上げ、できるだけ市場のレッド・オーシャン化やコモディティ化を先延ばしする。

『強み』×『脅威』
→ 「強み」によって「脅威」による悪影響を回避するために取り組むべきことは何か?
⇒ 『守りの特許権』を使って事業を守り、強くするために使う特許権や競合他社に利用させない特許権で、自社ないし自社事業の『強み』を継続的に強化し、『攻めの特許権』を使って、他社の参入障壁を継続的に崩していく。

『弱み』×『機会』
→ 「弱み」によって「機会」を逃さないために取り組むべきことは何か?
⇒ 『攻めの特許権』を使って、自社の研究開発の自由や事業活動の自由を確保し、自社ないし自社事業の『弱み』を継続的に減少させ、市場に参入する。

『弱み』×『脅威』
→ 「弱み」と「脅威」により最悪の結果となることを回避するために取り組むべきことは何か?
⇒ 『攻めの特許権』を使って、自社の研究開発の自由や事業活動の自由を確保し、自社ないし自社事業の『弱み』を継続的に減少させ市場に参入し、『攻めの特許権』を使って、他社の参入障壁を継続的に崩していく。
ということになります。

いかがでしょうか。
知財は、このような形で経営戦略や事業戦略に貢献することができると思います。
経営層や事業部のトップと、SWOT分析やクロスSWOT分析をおこない、そこに知的財産を絡めて、経営戦略や事業戦略を一緒に立案してはどうでしょうか?*7


<脚注>
*1 もちろん、知的財産を活用するという観点が抜けている事業部門が悪い訳ではなく、この観点を事業部門に意識させたり、知的財産をSWOT分析の中で活用するのは知財部門が行うべき仕事です。
*2 独占禁止法の唯一(といっていいほど)の例外が知的財産権の行使であり、かつ、国家権力を利用することができる知的財産権の有効活用は、最も効果的な戦略オプションのはずですが、何故かこの点はあまり理解されていない気がします。。。
*3 以下、知的財産権には、ノウハウを含む意味で使用します。
*4 丸島儀一著 『知的財産戦略』「第1章 知的財産経営とは何か(44頁)」および「第4章 事業戦略に適った知的財産権の形成戦略(140-156頁)。
*5 このSWOT分析においては、外部要因の『脅威』は、主に競合他社との関係で検討を行います。
*6 このクロスSWOT分析においても、外部要因の『脅威』は、主に競合他社との関係で検討を行います。
*7 えぇ、もちろん、そんな簡単に、経営層や事業部のトップと話ができないことは理解しています・・・。組織が大きくなればなるほど。。。
まぁ、そのくらいの気持ちというか、気概をもって、仕事ができたら・・・、という希望でもあります。