今年度になってから、自社のあるプロジェクトに参加しています。
参加の理由は、そのプロジェクトで検討されている事業について、知的財産の観点から、差別化を図り、競争優位性を築くためです。


『三位一体の戦略』*1の実行という意味では、このようなプロジェクトに知財部門として参加できると、とても活動しやすいことを実感しています。

さて、今日は、このプロジェクトに参加して、学んだことや感じたことを少し書きたいと思います。

まず、私が参加をしているプロジェクトの目的は、当該事業の事業戦略を立案することです。
そのため事業戦略を立案する前提として、当該事業のSWOT分析*2をすることになりました。

皆さんご存知のとおり、SWOT分析とは、戦略フレームワークの一つで、
①Strength(強み) 内部要因である自社や自社事業の強み
②Weakness(弱み) 内部要因である自社や自社事業の弱み・課題
③Opportunity(機会) 外部環境にある自社や自社事業に関する機会
④Threat(脅威) 外部環境にある自社や自社事業にとっての脅威
を分析するものです。

ところが、SWOT分析をしたことがある方なら、既にお気づきかと思いますが、事業戦略を立案する前提として当該事業のSWOT分析を行うという進め方には注意が必要です*3

というのも、実際に、プロジェクトミーティングでは、悲観的な方が多かったせいか(?)、弱みや脅威は多く出てくるのですが、強みがでてきませんでした。
それもそのはずです。
そもそも『強み』や『弱み』は相対的なものですので、①何を目的に、②誰と比較するか、で抽出された事実の位置づけが変わります。
例えば、(以前お話をしたとおり)私は、法務部と知的財産部の両方に所属したことがありますが、これは私の『強み』でしょうか?それとも『弱み』でしょうか?
「法務部と知的財産部の両方に所属したことがある」という事実から、「法務と知財の両方の業務を知っており、両方の業務ができる」という解釈を導き出し、従って、これは『強み』である、と位置付けたとします。
この位置づけは本当に正しいのでしょうか?
仮に、①「特許出願業務の強化」という目的で、②「特許出願業務を専門に行っていた知財部員」と比較した場合はどうでしょうか?
この場合、「法務部と知的財産部の両方に所属したことがある」という事実は、むしろ法務も知財も中途半端であり、知的財産部だけを経験してきた人と特許出願業務という観点で比較すれば、これは「弱み」になるかもしれません(同様に、法務部だけを経験してきた人と法務経験という観点で比較すれば「弱み」になるかもしれません。)。

従って、SWOT分析をする際には、①何ために(目的)、②誰と比較するか(競合分析)、が欠かせない重要な要素となるわけです。
もちろん、仮説として、①何ために(目的)と、②誰と比較するか(競合分析)、を決めておき、SWOT分析を行ったうえで、①何ために(目的)と、②誰と比較するか(競合分析)に修正を加え、改めてSWOT分析を行うということを行っても良いと思います*4

そうすると、少なくとも最初に①何のために?という目的を明確にし、その点の認識合わせが必要となります。
事業戦略の立案という観点から、より具体的に言うと、「どのような顧客に、どのような製品・サービスを提供するのか?」ということを明確にし、プロジェクトミーティング参加者の認識を合わせる必要があるということです。
それをせずに、SWOT分析をしても、事実を抽出することはできても、それらの事実を適切に解釈して、適切に分類することはできません。
さらに、②誰と比較するか?という観点から、競合分析をしたうえで、SWOT分析をしないと、主観的で独りよがりなSWOT分析になってしまい、あまり意味のない分析になってしまいます。

競合分析の必要性については、以前、中小企業と知的財産(戦略)【導入編②】においても、以下のとおり簡単にお話をしました。
「自社の知的財産が売上や利益にどのように貢献しているか見える化をしましょう!」と言うのは簡単ですが、実際にきちんとこのような見える化の作業を行おうとすると、競合他社の分析が不可欠のため、中小企業であっても相当のコストがかかります。
もちろん、大したコストを掛けずに、形式的にこのような自社の知的財産の見える化を行うことはできますが、それでは経営や事業に貢献している自社の知的財産を見える化することは、ほとんどできないと思います。
そして、このような形式的な自社の知的財産の見える化を行ってしまった場合、競合分析を行っていないため、独りよがりにな経営や事業に貢献する知的財産を見える化したに過ぎず、ほとんどの場合、経営や事業に貢献する知的財産戦略の立案はできないことになります*5

競合分析は、手間もかかり、自社の分析以上に難しい面があることは確かですが、競合分析なしに自社の『強み』や『弱み』を分析しても客観性に欠け、それに基づいて事業戦略を立てるのは、労多く益が少ないだけでなく、時には有害なものになってしまいますので、避けるべきだと思っています。

~つづく~


<脚注>
*1 今回のプロジェクトに参加するにあたって、改めて『三位一体の戦略』について、ちょっと深掘りしてみました。
*2 SWOT分析とは、 Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字をとったもので、「戦略策定ツール」(戦略を作る際に使われるツール)として紹介されています。もともとは経営学者のヘンリー・ミンツバーグ(Henry Mintzberg)が提唱し、ビジネス上の戦略策定プロセスとして明確になってくるのはハーバード・ビジネススクールのゼネラルマネジメント・グループのケネス・R・アンドルーズ(Kenneth Andrews)らによって書かれた『Business Policy: Text and Cases』(1965年)からだとされています。
*3 『戦略』の定義にもよりますが、SWOT分析は、「戦略」によって、ある特徴を『強み』とするか、『弱み』とするかが変わることがあるため、戦略を考えた後で戦略を評価するのにSWOT分析は適していますが、戦略を立案する際のフレームワークとしては適していない、と評価することもできます。
従って、そもそも、『事業戦略を立案する前提として、当該事業のSWOT分析を行う。』というのは、順序が逆になります。
*4 実際に、私の参加したプロジェクトでは、目的・目標・事業戦略とSWOT分析を、行ったり来たりして、修正を加えながら繰り返し行い、事業戦略を立案しました。
*5 自社が、どのような知的財産を持っているかを見える化することの目的は何でしょうか?出願できそうな発明や商標を見つけることでしょうか?管理すべき知的財産を明らかにすることでしょうか?
私は、これらは目的ではなく、手段に過ぎないと思っています。あくまで、自社ないし自社の事業が差別化要素を持ち、競争優位性を築いて、収益を上げることが目的であり、そのための手段として有効であれば、知的財産権を活用すべきだと思っています。従って、「自社の知的財産が売上や利益にどのように貢献しているか見える化」しなければ、単に形式的に「自社の知的財産の見える化」を行っても意味がないと思っています。