以前、『技術法務のススメ』でも少し書きましたが、改めて、今日は日本版ロースクールに求められているものと(私が勝手に考えているものと)、そこから導きだされる(私が勝手に考えている)新しい司法試験制度についてです。


今日、この話を書こうと思ったのは、先週末、以下の書籍を読んだことがきかっけです。


この本の著者である、松島淳也弁護士と伊藤雅浩弁護士は、お二人とも弁護士になる前に、企業に所属してビジネスをした経験があります。
松島弁護士は富士通でマイクロプロセッサーの開発や電子商取引システムの開発等に携わったのちに、伊藤弁護士はアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)等でERPパッケージソフト、基幹系情報システムの導入企画・設計等の開発業務やITコンサルティング業務に携わったのちに、それぞれ過去の社会人経験を生かした弁護士になっています。

本書でも、松島・伊藤両弁護士のバックグラウンドが十分に生かされていると思います。

本書の書評は、また別に機会に行うとして、改めて、今日は『日本版ロースクールに求められているもの』と、そこから導きだされる『新しい司法試験制度』についてお話をしたいと思います*1

まず、日本版ロースクールって、松島・伊藤両弁護士ような弁護士を生み出すことを、その目的の一つとして制度設計していたのではないのでしょうか?
松島・伊藤両弁護士ような弁護士というのは、単に優秀な人という意味ではなく、20代前半で社会人を経験し、30代半ばくらいに働きながらでも優秀な方が2~3年きちんと勉強すれば合格するような(20代前半という記憶力の優れた時期に受験する方が有利になる暗記詰め込み型の試験ではない)司法試験に合格し、これまでの社会人経験と弁護士との専門性を同時にいかせる人材のことです。
また、例えば、日本語と英語又は英語以外の外国語を必要な範囲のビジネスレベルで使いこなし、日本法以外の法律にも日本法を踏まえたうえで説明ができ、外国法弁護士事務所とのインターフェイスになれるような弁護士さんなども、期待されていた新しい弁護士像ではなかったのでしょうか?
産業界が望んでいたのは、そんな法曹だと思いますし、それは決してスーパーマンのような特別な方だけが弁護士になれるような制度ではありません*2

さらにいうと、旧来型の訴訟中心の弁護士業務ではない、訴訟という争いごとを顕在化させる業務だけでなく、法律を経営戦略や事業戦略に組み込むことで収益を上げるといった、これまでにないニーズを顕在化させることのできる弁護士さんが、今の日本には、多く必要だと、産業界の法務知財経験者は思うわけです*3

このことは、以前、『技術法務のススメ』でも少し触れました。

以上は、産業界*4から見た新たな弁護士像という要望ですので、これを個人の方の代理人弁護士まで広げた方が良いと言うつもりはありません。
特に、刑事訴訟などのその人の一生に大きな影響を与える訴訟に、例えば、IT企業での社会人経験が必要だ、などと言うつもりは全くありません。
むしろ、司法試験の合格者が1000人であろうと、500人であろうと、はたまた100人であろうと、そして、司法試験の合格後、1年ではなく2年の司法修習を優秀な成績で終了していたとしても、それだけで、私のこれからの人生を、一生を左右するような刑事事件の弁護をお願いすることには躊躇を覚えます。
ある意味、自分の人生を預けるようなものですから、少なくとも5年、いや10年くらいは社会に出て揉まれ、かつ、10年くらいは刑事訴訟を専門的に経験した実績のある弁護士さんに自分の弁護をお願いしたいと思います。

また、個人と法人では、良い弁護士さんかどうかを見極める力にも差があります。
日頃法律とは無縁の、例えば、私の両親が何らかの法律問題に直面したときなどは、多数の弁護士さんの中から、一定程度の経験と実績のある弁護士さんであることが容易にわかる仕組みの中で、安心して弁護士さんを選んで欲しいと思います。
つまり、例えば、弁護士資格更新のため、専門性毎の継続研修等を義務付け、弁護士会等からその専門性について認定を受け、その結果を公表する仕組みが必要だと思っています。

以上をまとめたうえで、制度設計をすると、
①司法試験は、2年間法科大学院で勉強し、法科大学院の試験を受けて単位を取得し卒業したものであれば、ほぼ100%司法試験に合格できる、という程度のレベルの試験とする*5
②司法試験に合格すると、法人から法律相談を受け、法人の代理人として訴訟代理ができる。
③単独で、個人から法律相談を受け、又は個人の代理人として訴訟代理をするためには、実務経験5年以上で、かつ、当該分野の専門性について弁護士会から専門弁護士であることの認定を受ける必要がある。
④専門性の認定には、一定の実務研修を受け、認定試験に合格することを条件とする。
⑤専門性の認定については、一定の実務研修を受けることを条件とした3年毎の更新制度を設ける。
⑥弁護士資格自体にも、一定の実務研修を受けることを条件とした5年毎の更新制度を設ける。
⑦これらの資格更新情報等は、弁護士会のホームページ等で閲覧することができる。
⑧弁護士は受任にあたって資格更新情報等について顧客に説明する義務を負う。
ということになります。

決して上記のような仕組み固執するつもりはありません。ただ、2段階の参入障壁を作って個人の権利利益の保護と弁護士の職域の保護を図ってはどうか?という思いはあります。
2段階の参入障壁を作るという基本的な制度設計を崩さなければ、上記以外にも、様々な制度設計が可能だと思います。

例えば、③の実務経験5年以上というのを、弁護士実務経験が5年以上ある方が、6年目以降、専門性の認定を受けた弁護士と共同で法律相談を受け訴訟代理をすることができるようになり、その期間が5年以上になると、通算で10年目以降は、単独で法律相談と訴訟代理が行えるようになるという制度にしても良いと思います。

産業界は、法律が使える人を欲しています。これは疑う余地もありません。
ただ、企業が、法律にだけに詳しい人を、積極的に、しかも高額な人件費で採用することはありえません。
欲しいのは、利益を生み出すことができる人です。
そして、今、日本に足りない人材は、利益を生み出すことに、法律が使える人です。法律を理解したうえで、事業戦略に従った交渉ができ、契約を締結できる人です。
間違っても、訴訟ができる人だと勘違いしてはいけないと思っています*6


<脚注>
*1 いずれも私が勝手に考えているものであり、誰も聞いていないかもしれないけど・・・。まぁ、聞いてやって下さいな。
*2 お医者さんで、かつ、弁護士さんで、医療過誤訴訟などを適切に受任できる、なんていうのも、日本版ロースクール設立当初に挙げられていた新しい弁護士像だったように記憶しています。そして、それはスーパーマンのような特別な人を想定したものではなかったように記憶しています。
*3 これは、弁理士さんにも言えることです。ただ、弁理士会は、この点を踏まえて、知財コンサルという新たな業務を切り開こうとしています。
*4 「産業界」と言っても、一企業人の要望にすぎませんが・・・。すみません。。。
*5 これが、「20代前半で社会人を経験し、30代半ばくらいに働きながらでも2~3年きちんと勉強すれば合格する。」というレベルに合致しているかは分かりませんが・・・。たぶん、合格するでしょう。。。
*6 そして、コンプライアンスや法的リスクヘッジという面でしか法律を使うことができないのであれば、その需要はあっという間に満たされてしまいます。
何故なら、専門職を採用するというコストをかけてまで、本当に、コンプライアンスや法的リスクヘッジが必要な会社は、限られているから。。。