前回に続いて、今日は、『三位一体の戦略』について、研究開発部門と事業部門がなすべき活動を具体的に説明したうえで、研究開発部門と事業部門との関係で、知財部門がなすべき活動について深掘りして行きたいと思います。


まず、『三位一体の戦略』とは、『戦略』なのですから、意思決定のための、意思決定に向けた、部門間の連携・融合を行うもの、であることが必要になります。
そして、何についての意思決定かというと、①ドメイン(戦略)、②資源(戦略)、③競争(戦略)に関する(中長期的な)意思決定ということになります。

以上を踏まえて、研究開発部門と事業部門がなすべき活動を具体的に説明していきたいと思います。
『事業部門の戦略』とは、すなわち『事業戦略』であり、
①ドメイン戦略、すなわち現在どのような事業(製品・サービス等の提供)を行い、今後どのような事業(製品・サービス等の提供)を行うかに関する基本的な意思決定*1
②資源戦略、すなわちヒト(人的資源)・モノ(物的資源)・カネ(財務的資源)・情報(情報的資源)*2他社が容易に模倣できないような方法*3でこれらの資源を獲得し、蓄積し、そして配分することに関する基本的な意思決定、
③競争戦略、すなわち既存のライバル企業や潜在的参入企業を超えた優位性*4を構築し維持することに関する意思決定
を行うことになります。

また、『研究開発部門の戦略』とは、すなわち『研究開発戦略』であり、事業戦略によって決定された現在又は将来の事業領域において必要となる研究開発を、
①ドメイン戦略、すなわち現在どのような研究を行い、今後どのような研究を行うかに関する基本的な意思決定、
②資源戦略、すなわち他社が容易に模倣できないような研究開発を行う際の、ヒト(人的資源)・モノ(物的資源)・カネ(財務的資源)・情報(情報的資源)を獲得し、蓄積し、そして配分することに関する基本的な意思決定
、③競争戦略、すなわち既存のライバル企業や潜在的参入企業を超えた優位性を構築し維持する研究開発を行うことに関する意思決定
を行うことになります。

さて、このように『事業戦略』と『研究開発戦略』を定義したとき、『事業部門の戦略』と『研究開発部門の戦略』との関係で、知財部門がなすべき活動とは、何か?というのが、今日の最も重要なテーマになります。
結論からいうと、知財部門がなすべき活動とは、事業部門と研究開発部門が、①ドメイン戦略、②資源戦略、③競争戦略を構築する際に、つまり、これらに関する意思決定を行う際に、役立つ活動を行うことになります。

具体的には、
①ドメイン戦略においては、ドメインを決定する際に、参入障壁となっている他社の知的財産および知的財産権の質量を調査・報告し、他方で、自社の知的財産および知的財産権の質量を調査し、どのような参入障壁を構築できるかの意思決定に関与し、
②資源戦略においては、他社が容易に模倣できないような、ヒト(人的資源)=ノウハウ(営業秘密)、情報(情報的資源)=知的財産(権)をどのように獲得し、蓄積し、そして活用するかの意思決定に関与し、
③競争戦略においては、既存のライバル企業や潜在的参入企業を超えた優位性を構築し維持する知的財産および知的財産権の獲得、蓄積、活用に関する意思決定に関与する、ということになります。
また、このようにみていくと知的財産部門の戦略は、事業部門と研究開発部門の戦略と無関係に決定することができないことも分かってきます。

結局のところ、『三位一体の戦略』とは、事業部門・研究開発部門・知財部門が、それぞれの戦略を決定する際に、つまり、①ドメイン戦略、②資源戦略、③競争戦略という意思決定をする際に、それぞれの部門が意思決定に役立つ情報を収集し、他の部門への情報提供をとおして、お互いの意思決定に良い影響をあたえること、だとも言えます*5


さて、次回は、上記で説明した知財部の活動のうち、一般論として(個人的な経験に基づいて?)、行い易い活動と行い難い活動に分けて説明をしたいと思います。

~ つづく ~

<脚注>
*1 私の個人的な経験を踏まえると、ドメイン戦略において、今後どのような事業(製品・サービス等の提供)を行うかに関する基本的な意思決定を行うことは、かなり難しいです。それは、今後、新たに行う事業(製品・サービス等の提供)が成功するかどうかの判断を含んでいるからだと思います。また、新たなドメインにヒト(人的資源)・モノ(物的資源)・カネ(財務的資源)・情報(情報的資源)をどのように配分するかに関する基本的な意思決定を行うこと、そしてその意思決定を正しく行うことはさらに難しいと言えます。
*2 情報(情報的資源)には、知識、ノウハウ、技術、信用、デザイン、著作物といった知的財産や知的資産が含まれます。
*3 「他社が容易に模倣できないような方法で」ということが、そもそも考えられていない②資源戦略が多いものと思われます。そして、①ドメイン戦略、②資源戦略、③競争戦略のうち、この②資源戦略の場面において、最も容易に知的財産戦略を生かすことができるように思います。
*4 個人的な経験を踏まえると、この競争戦略における「他社との優位性」の比較が非常に難しいです。というのも、自社の情報はある程度正確に把握することができても、他社の情報を収集し、正確に把握することが難しいため、自社の優位性を見つけるための比較が正確にできないからです。
*5 このように考えていくと、実は、多くの企業の知的財産部は、『三位一体の戦略』における『知財戦略』ではなく、『知財戦術』活動、すなわち、意思決定された後に、目的や目標を達成、実現するための活動を行っていることが多いように思います。組織的な問題もあって、意思決定に関与し、影響を与えることが難しい場合(若しくは、難しいポジションにいること)が多いのは理解できますが、意思決定に影響を与えられないと、『知財(戦術)活動』自体が非効果的、非効率、無意味なだけでなく、経営にとって有害となることもあります。実際、多くの特許出願をしても、事業の優位性を構築ないし維持できず、多額の赤字を出してしまうと大手メーカーもあります。