知的財産戦略というと、『三位一体の戦略』とか、最近では『オープン&クローズ戦略』という言葉が思い浮かんだりするのではないでしょうか。

今日は、『三位一体の戦略』について、私なりに少し深掘りをしてみたいと思います。


まず最初に、『三位一体の戦略』は、「いつ頃生まれた言葉なのか?」「その具体的な内容は何か?」「その本質は何か?」を明らかにしてみたいと思います。
次に、上記を踏まえて、研究開発部門、事業部門がなすべき活動を説明したうえで、研究開発部門と事業部門との関係で、知財部門がなすべき活動を説明したいと思います(これは次回行う予定でいます。)。
最後に、上記で説明した知財部の活動を、一般論として(個人的な経験に基づいて?)、行い易い活動と行い難い活動に分けて説明をしたいと思います(これは次々回以降に行う予定でいます)。

まず最初に、『三位一体の戦略』という言葉が、いつ頃から言われだしたのか?*1というと、少なくとも、知的財産基本法第23条に基づいて政府・知的財産戦略本部が2003年に決定した「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」(2004年の改訂後は「知的財産推進計画」が正式名称)ではすでに使われていますので、少なくとも2002年頃には、あった言葉ということになります*2

次に、この『三位一体の戦略』が意味する具体的な内容ですが、元キヤノン株式会社専務取締役で弁理士の丸島儀一先生の次の説明が知財実務をしている方にとって馴染みがあり、分かりやすように思います*3
『研究開発部門、事業部門、知財部門の3つの部門における常時の連携、融合活動を「三位一体」と呼ぶ。
「全社戦略における三位一体」は、社長をはじめとした経営トップと各部門の責任者による全社の視点を持つ部門連携である。
これに対して、「事業戦略の三位一体」は、事業の責任者をトップとし、事業単位でそれに関連する研究開発部門の担当者、知財部門の担当者、事業部門の担当者による連携である。より具体的には、事業の先読み、技術の先読み、知財の先読みの連携、融合活動である。』


丸島先生によれば、『三位一体の戦略』は、「全社戦略における三位一体」と「事業戦略における三位一体」の二つのレイヤー(階層)に分けることができるとしています。
そして、それぞれのレイヤー(階層)において共通するのは、いずれも「連携・融合」ということができると思います。
つまり「三位一体」の具体的な内容は、「連携」のための活動を行い、その活動の結果として「融合」することが「三位一体」ということだと私は考えています。

さて、ここで「三位一体」だけでなく、「戦略」についても定義をして、その関係を明らかにしておきたいと思います。
「戦略」という言葉の定義もいくつかありますが、一応、ここでは、
『戦略』とは、組織がその目標や目的、標的を達成するために行う基本的意思決定を指し、その主な内容は、
①ドメイン戦略-環境との相互作用をどういう範囲で行うか?
②資源戦略-独自能力としての経営資源をいかに獲得・蓄積・配分するか?
③競争戦略-競合者に対してどういう独自ポジションを展開するか?
としたいと思います*4

①ドメイン戦略、②資源戦略、③競争戦略について補足説明をすると、
①ドメイン戦略とは、現在どのような事業(製品・サービス等の提供)を行い、今後どのような事業(製品・サービス等の提供)を行うか?に関する基本的な意思決定であり、②資源戦略とは、他社が容易に模倣できないような方法で、ヒト(人的資源)・モノ(物的資源)・カネ(財務的資源)・情報(情報的資源)を獲得し、蓄積し、そして配分することに関する基本的な意思決定であり、③競争戦略とは、既存のライバル企業や潜在的参入企業を超えた優位性を構築し維持することに関する意思決定ということになります。

これらを踏まえて、再度、『三位一体の戦略』とは何かを整理すると、「全社戦略における三位一体」とは、「全社的な①ドメイン、②資源、③競争の基本的な意思決定をする際の、社長をはじめとした経営トップと各部門(ここでは、研究開発部門、事業部門、知財部門)の責任者による全社の視点を持った部門間の連携・融合」ということになり、また、「事業戦略における三位一体」とは、「事業単位で①ドメイン、②資源、③競争の基本的な意思決定をする際の、事業の責任者をトップとし、関連する研究開発部門の担当者、知財部門の担当者、事業部門の担当者による連携・融合」ということになると思います。

このように考えていくと、「三位一体の戦略」の本質は、戦略的な意思決定のための、意思決定に向けた、連携と融合ということになると考えます。
従って、戦略的な意思決定に影響を与えない、単に戦術的なレベルで部門間の垣根を取り壊し、連携・融合することだけで、『三位一体の戦略』が実行されている、と判断をしてはいけない、と考えます*5

~ つづく ~

<脚注>
*1 私は、この『三位一体の戦略』という言葉を生み出したのは、元キヤノン株式会社専務取締役で弁理士の丸島儀一先生だと思っていたのですが、どうやら違うみたいです。ご本人が違うというようなことをおっしゃっていたように記憶しています。改めて、お聞きする機会があれば、お聞きしてみたいと思います。
*2 2002年から『三位一体の戦略』と言われだしたのであれば、かれこれ、もう10年以上、もうすぐ15年くらい言われ続けているのですね。日本企業において、この『三位一体の戦略』がきちんと機能している企業は、かなり少ない(1割くらい?)なのではないでしょうか。
*3 丸島儀一著『知的財産戦略』(21頁)。
*4 この定義は、『戦略策定―その理論と手法』におけるチャールズ・W・ホファーとダン・シェンデルによる定義です。
*5 おそらく『三位一体の(知財)活動』を行っている企業は、それなりにあると思いますが、『三位一体の戦略』つまり、①ドメイン、②資源、③競争について意思決定をするために、または意思決定に向けて、連携し、融合しているか?となると、ほとんどの企業ができていないのではないでしょうか。
仮に、これができていたとしても、その次に、意思決定の精度という問題があります。