定期購読しているBUSINESS LAW JOURNAL(ビジネスロー・ジャーナル)2015年05月号から私が興味を持った記事のメモです*1

先月号に続いて、注目記事のトップは、長島・大野・常松法律事務所の松田弁護士の『ライセンス契約法』です。 本連載の基本的なスタンスは、第1回で示されているように、
ライセンス契約に関する総論的な解説をまずは試み、その後、ライセンス契約の実務をめぐるさまざまな個別の問題点を俯瞰的に見ていくことにしたい。その際には、今回指摘したような立法・学会の場における伝統的な法律理論に、知的財産をめぐるライセンス実務の特殊性を接合するという課題を意識する。それと同時に、ライセンス取引実務の現場で担当者が直面する問題についてその背後にある法理論を掃海するというアプローチにより、「実務的課題」と「法的理論」との積極的な架橋を心がけたい。
というものです。

これを受けて、今回も、『民法(債権法)(一般法)が規律する領域』と『知的財産権法(特別法)が規律する領域』に整理し、さらに『民法(債権法)(一般法)が規律する法律関係を整理する視点』として、民法上の「典型契約」と「非典型契約」という視点と「有償契約」と「無償契約」という視点から、ライセンス契約(の性質)の整理を試みています。 このようなアプローチは非常に興味深く、気づきも多いのですが、整理まではちょっとできていないかな?というのが正直な感想です。
というのも、まず、『ライセンス契約は「非典型契約」であり、「典型契約」を規定している「民法典中にはライセンス契約を主として念頭においた規定はない」として、基本的に民法が適用される場面が少ないこと』を示します。
次に、『しかし、民法559条は「売買の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りではない。」との規定等をあげて、民法の典型契約の規定が準用・類推適用される余地があること』を示します。
しかしながら、『ライセンス契約は売買契約等とその性質において異なる面があることを認め、従って「その有償契約の性質がこれを許さないとき」が多いとして、民法の典型契約の規定が準用・類推適用されることが少ないこと』を示します。
さらに、『ライセンス契約においては、オープン戦略の観点から「無償のライセンス契約」の重要性を説明し、有償契約にばかり注目することができないこと』を示します。。。

つまり、ぐるっと回ってもとに戻った、というところでしょうか*2

その後、「強行法規」と「任意法規」という視点からの整理を行いますが、整理の枠組みを『民法(債権法)(一般法)が規律する領域』と『知的財産権法(特別法)が規律する領域』にしたせいか、ライセンス契約において最も注意が必要な「強行法規」である独占禁止法への言及がありませんでした。
これは、ちょっと残念です。 整理の枠組みが大事なのは理解していますが、是非、今後の連載でライセンス契約と独占禁止法については具体的に紹介をして欲しいと思います。

さて、今回、最も勉強になったのは、『米国PL訴訟対策に役立つ三つの秘匿特権』という記事です*3。 実際に米国訴訟を担当していたときに、「弁護士依頼者間秘匿特権」と「ワークプロダクト法理」を使って、ディスカバリーの際に開示の対象外としたことはありますので*4、2つの秘匿特権はすぐに思いついたのですが、3つと言われて「?」となってしまいました。
3つ目は、「自己批判分析秘匿特権」*5というものだそうです。

「自己批判分析秘匿特権」とは、法令遵守に関する分析の結果について、開示することを拒否できる権利である。その趣旨は、法令遵守に関する分析を保護することによって、法令遵守そのものを促進することにある。
法令遵守が進めば、消費者の安全も図られる。自己批判分析秘匿特権が認められれば、開示を恐れることなく法令遵守に関する分析を行うことができる。

確かに、一理ありますね。。。
ただ、米国で訴訟になる可能性がある場合、社内で調査を行う場合はもちろんのこと、法律事務所等に意見書を求める場合でも、基本的に、「問題ない=白(シロ)又はほぼ白(シロ)」という回答でないかぎり、文書には残さないようにしています。
つまり、社内で調査を行う場合は、「問題ない。」という報告ができない場合は、すべて口頭での報告にしていますし、Privilegeが効くと思われる法律事務所への相談でも、「問題ない。」という結論の場合には、意見書を書いてもらいますが、そうでない場合は、電話か若しくは直接訪問して回答をもらいます*6

でも、この「自己批判分析秘匿特権(Self-critical analysis privilege)」が使えるのなら、このような対応は不要になりそうです。

しかしながら、
その法的根拠は、伝統的に判例法(コモンロー)である。連邦裁判所でも州裁判所でも、自己批判分析秘匿特権を認めた判例が存在する。一方、同秘匿特権を概括的に定めた制定法は存在しない。
<略>
その法的保護は比較的弱い。多くの判例は、絶対的な保護を与えるのではなく、保護の必要性と開示の必要性を比較衡量する。そして、保護の必要性が開示の必要性を上回る場合に限り、保護を与える。
自己批判分析秘匿特権の存在をその法域において認めるか否かについて、裁判所の判断は分かれている。
連邦最高裁判所はいまだに自己批判分析秘匿特権の存否を明確に判断していない。
そのため、各巡回区の連邦控訴裁判所の判断が分かれている。
各州の州裁判所の判断も分かれている。判断そのものが明確でない場合も少なくない。
例えば、当該案件では自己批判分析秘匿特権の存在を否定しながらも、将来の案件によってはその存在を肯定する余地を残している場合がある。
ということです。

これでは、ちょっと怖くて使えませんね。おそらく、私が、一緒にお仕事をさせて頂いた弁護士さんも、このような状況を踏まえて、この法理を持ち出さなかったのかもしれません*7
もちろん、このような文書を作成してしまった場合は、そしてそれが訴訟との関係で開示対象となりそうな文書に該当するおそれがある場合は、「自己批判分析秘匿特権」の法理を持ち出して、開示対象から外すように働きかけると思います。

このように、巡回区や州によっては、自己批判分析秘匿特権の存在が明確には認められていない。そこで、平時から、訴訟係属しそうな巡回区や州の判例法を調べるべきである。
そして、自己批判分析秘匿特権の存在を認めるか否かについて確認すべきである。

と続くのですが、いやいや、そんなコストのかかることしなくても、前述のとおり、「問題ない=白(シロ)又はほぼ白(シロ)」という結論以外の場合は、メモも含めて文書は作成しない、というのではだめなのでしょうかね?

<脚注>
 *1 手元には6月号がありますが、まずは5月号から。。。
 *2 理論面からある種の方向性を示すことには成功していると思います。これにより、ライセンス契約についてある種の説明を提供していますが、基準を示すことはまではできておらず、これだと単に論争が増えるだけの気がしています。
 *3 こちらは、フォーリー・ラードナー法律事務所の田邊政裕弁護士が執筆されています。
 *4 基本的に、米国では、知的財産権関連の訴訟を担当することが多いですが、一度だけ、米国でPL訴訟を担当したことがあります。その際に、当社の代理と話をしていても、「自己批判分析秘匿特権」という言葉でてこなかったと記憶しています。
*5 Self-critical analysis privilege; Self-evalution privilege.
*6 田邊政裕弁護士も、記事のなかでは、Privilegeが効く場合、つまり「弁護士依頼者間秘匿特権」が使えると思われる場合でも、本当に「弁護士依頼者間秘匿特権」が使えるための要件を満たすかどうかという問題があるため、『口頭の会話を利用する。』ことを勧めています(BUSINESS LAW JOURNAL 2015年05月号 54頁)。
*7 そもそも、「問題ない=白(シロ)又はほぼ白(シロ)」という結論以外の場合は、メモも含めて文書は作成していないので、そのような話が出なかった可能性の方が高い気がしています。