ところどころで紹介されている『日立評論』
最新号の2015年4月号は、『特集 社会イノベーション事業を支える知的財産』と題して、1冊丸々「知的財産特集」ということで私も興味深く拝読しました。

最初は、『Overview 事業成長を支える日立の知的財産戦略』にあった一説のご紹介から。


ところで,ここで言う知財には,特許権・意匠権・商標権に加え,著作権や営業秘密なども含まれる。
例えば,ビッグデータ解析を巡っては,顧客のオリジナルデータ(資産),その加工から得られたデータや知見(ノウハウ),そこから生まれたソリューション(ノウハウ・ソフトウェア・発明)の取り扱いも知財上の課題となりうる。このように知財に求められる役割が拡大するとともに,関連知財の種類も拡大することを受け,日立製作所は2015年4月より,知財部門の組織名称を知的財産権本部から知的財産本部へと改めた。

日本を代表する企業、日立グループ*1の知的財産戦略においても、改めて、組織としての知的財産部門を再定義する必要がある、ということですね。
重要な点は2点かと。
まず1点目は、『知財には,特許権・意匠権・商標権に加え,著作権や営業秘密なども含まれる。』としたうえで、さらにノウハウとそしてデータまで加えています。
『事業成長を支える知的財産戦略』という文脈において、『知的財産』をどのように定義するか?と言われれば、「知的財産権=特許権」としてしまうのではなく*2、それこそ広く知的財産全般の利活用を念頭においた定義をする必要があります*3
続いて2点目は、『このように知財に求められる役割が拡大するとともに,関連知財の種類も拡大することを受け,日立製作所は2015年4月より,知財部門の組織名称を知的財産権本部から知的財産本部へと改めた。』の部分です。
これは、結構重要なことだと思います。
私は、組織や実務において、「名」は非常に重要だと思っています*4
「名は、体をあらわす。」とはよく言ったもので、組織を変えるとき、そして実務を変えるときに、「名前」や「名称」と言った形式面は非常に重要で、「名前」や「名称」の変更とそこに込められた意味を人が語るときに組織の変革が始まることが多いように思います。

少し話が横道にそれますが、私の好きな小説の一つに*5、菊池寛の『形』という短編小説があります。
確か中学生の国語の教科書にも載っている(載っていた?)ので、読まれた方も多いのではないでしょうか。
年を重ねて読み返したときに、新しい発見や気づきのある、良い小説だと思います。かなり短い小説なので、皆さん良かったらどうぞ。





閑話休題。
さて、このような組織改正を行った日立グループの知的財産本部ですが、その改革は始まったばかりかもしれません。
というのも、Hitachi Field Navigator という日立グループの事業紹介をしているサイトがあるのですが、こちらの知的財産本部に名称変更する前の知的財産権本部のサイトでは、職種紹介として、以下のようなパテントエンジニアの仕事のみ紹介されています。

パテントエンジニア
(1)各担当事業の知財戦略立案と実行
(2)自社事業を保護し、他社との係争にも耐えうる特許の取得
詳細は「トピックス欄」をご覧ください。
とあり、

そして、その「トピックス欄」には、
パテントエンジニアとは
パテントエンジニアの主な業務は、(1)各担当事業の知財戦略立案と実行、(2)自社事業を保護し、他社との係争にも耐えうる特許の取得に集約されます。いずれの業務にも、担当事業と技術への理解、各国における法律知識、表現力(特に論理的な文章力)などが要求されます。加えて、知財活動のグローバル化に伴い、海外代理人へ技術内容や特許性の説明・議論する機会が増加しており、高い語学力が不可欠となっています。そして、パテントエンジニアにとって最も重要なものが、発明部門や事業部門などとのコミュニケーション能力です。コミュニケーションを通じて発明の本質を明らかにし、「どのような特許に仕立てて事業に貢献するか」という道筋をつくることで、優れた特許を取得し、知財ポートフォリオ構築活動を推進することができるのです。

このあたりの記述がパテント(=特許)中心から脱却したときに、本当の意味で、知的財産権本部が知的財産本部に変わったと言えるときなのかもしれません*6

ただし、私が日立グループを良く知らないだけ、という可能性があります。
というのも、今回の知的財産特集の中で、異彩を放つ記事があります。それは、『デザイン活動の変遷とこれに関わる知財活動』です。
この記事は、「知的財産=特許」という枠を超え、本当の意味で知的財産を活用していることを実例をとおして紹介している記事で非常に優れており、これが本当の日立グループの知財戦略の姿かもしれないからです。

注目点を要約すると、
日立製作所デザイン本部(2015年3月時点の部署名)における知的財産(以下,「知財」と記す。)活動(図1参照)は,1957年の創立当初から1980年代まで,家電などのコンシューマ製品や機器の外観の特徴を意匠権で保護することが主流であった。
その後,ユーザーニーズの多様化とともに製品が多機能化し,使い勝手の工夫や機能的な特徴が製品の重要な訴求ポイントになると,使いやすさを実現するための構造を特許権で保護することにより,製品の競争力維持に貢献することが効果的な知財戦略となった。このため,デザイン本部は比較的早い時期からデザインを特許権で保護する活動に知的財産権本部※)とともに取り組んできた。
1990年代半ば以降,急速な情報化に伴い,操作画面の直感的な把握や視認性向上のためのユーザビリティデザインや,人と機器との双方向による操作性を追求したインタラクションデザインを強化してきた。こういった情報のデザインについては,グラフィックを意匠権で保護し,画面遷移や情報構造の概念を特許権で保護する,意匠権,特許権両面での戦略を取ってきた。
<略>
グラフィカルな特徴を意匠権で保護し,操作性や情報構造,画面遷移の考え方を特許権で保護する,意匠権,
特許権両面の知財戦略によって,顕現性の高い知的財産権ポートフォリオを構築した。
<略>
知財活動においては,意匠権や特許権に加え,商標権による保護を戦略の一つとしている。コンサルタント企業やシンクタンクが自社の手法を商標登録しているケースもあり,デザイン手法やツールの対外的なアピールとしても有効と考えた。
以下,デザイン本部の代表的なデザイン手法,ツールの商標権を含めた知財活動を紹介する。

この記事は、日立製作所デザイン本部(2015年3月時点の部署名)が、デザインという観点からどのように知的財産および知的財産権を活用してきたか、意匠権をスタートに、特許権そして商標権と知的財産権の活用の範囲を広げてきたことが、具体例を交えて説明されており、個人的には、これは今後あるべき知的財産戦略の姿の一つであり、日本企業が行っていかなければならない知的財産活動だと思っています*7
日立製作所デザイン本部も日立製作所知的財産権本部も2015年3月時点の部署名ということですので、2015年4月にこの二つの本部が一緒になって、知的財産本部という組織になっていたとしたら、今後の日立グループの知的財産戦略は注目ですね。


<脚注>
*1 日立グループの知的財産本部は、部員数260名と、桁違いの大きさです。日立グループの知的財産本部の詳細は、こちら
*2 特許権の権利としての有用性とはまった時の権利の強さを否定するものではありません。あくまでも知的財産と知的財産権の性質に応じた利活用をすべき、ということです。
*3 この点は、以前、『キャリアアップのための知財実務のセオリー』を紹介した際にもコメントしましたので、今日はこのくらいに。。。興味がある方はこちらもどうぞ。
*4 法律学では、『単にネーミングの問題』と言って「名前」や「名称」よりも「その内容や実質」を重視することがありますが、これはあくまでも議論が抽象的になったり、空虚になることに対してアンチテーゼとして、重要で意味のあることだと理解しています。
*5 たぶん、ベスト5に入るかも?!それにしても、法律関連(?)書以外の本を紹介するのは今回が初めてですかね。
*6 同じく『日立評論』2015年4月号には、『事業を守る攻めの知的財産活動』という記事があり、その内容は示唆に富んでおり、非常に有益な記事だと思いますが、ここでも『特許をはじめとする知的財産権によるサポートが必要不可欠である。そのため,特許などの取得とその積極的な活用を行っている。』としつつも、結局のところ、特許の活用方法の説明に終始しており、大きな組織だけに本当に変わることの難しさを物語っているような気がしました。
*7 他には、マーケティングという観点からの知的財産戦略の再構築が知的財産戦略のあるべき姿の一つだと思っています。いつか書いてみたいと思っています(いつになるか分かりませんが・・・。)。