『注解 特許権侵害判断認定基準 第2版』
年明け早々に発売された書籍で、発売とほぼ同時に購入し、読み始めてすぐに「これは紹介しなければ!」と思ったのですが、なかなか紹介できずにおりまして、4月になってひと段落ということで、ようやくのご紹介です。


本書の初版は、2006年に発売されており、私が知的財産部から法務部に異動して、特許訴訟に携わることになりそう、というときに購入しました。



そのときの初版を読んだ感想はというと、感想も何も・・・、難解で途中で挫折してしまいました・・・。
その後、法務と知財の仕事を兼務するようになって明細書を読むようになり、実務で特許訴訟に携わるようになってからは、途中で挫折せずに最後まで読め、取りあげている裁判例の豊富さとその構成の良さから徐々に本書の良さが分かってきました。

ただ、ここ4~5年は、ちょっと内容が古いな、と思うこともあり、改訂版は出版されないのかな?と思っていたところ、年明け早々に第2版が出版されるということで、(珍しく)予約購入しました。


さて、第2版ですが、結論から言うと、予約購入して大正解です。
基本的な構成は初版と変わりませんが、取りあげられている裁判例が新しくなりました。
初版は昭和39年から平成17年7月12日までの167の裁判例が取りあげられておりましたが、第2版は昭和32年から平成26年3月26日までの219の裁判例を取りあげており、しかも、頁数も初版の343頁から395頁に増加しています。
これにより、第2版のまえがきにあるとおり、初版は、『ボールスプライン事件最高裁判決(最判平成10年2月24日判決)とキルビー特許事件最高裁判決(最判平成12年4月11日判決)以前のクレーム解釈論から「ポスト・ボールスプライン事件最高裁判決のクレーム解釈論」や「ポスト・キルビー特許事件最高裁判決のクレーム解釈論」に移行する過程の判決というべきもの』であり、第2版は、『特許発明の技術的範囲について裁判例がとっている現時点での最新の考え方』を分析しています。

そして本書では、今日の裁判例は次の点に着目して「特許発明の技術的範囲」を定めている、と指摘しています。

①「特許請求の範囲」や「発明の詳細な説明」の記載のあり方を規定する特許法36条所定の「サポート要件」、「明確性要件」及び「実施可能要件」の各記載要件の判断基準が、「特許発明の技術的範囲」の認定ないしは確定のあり方をリードしていること
②特許の無効理由を解消する方法である「訂正」が認められるかどうかと、「特許請求の範囲」の記載の限定解釈とが連動関係にあること

このような内容面の充実も素晴らしいのですが、形式面でも、初版にはなかった、注が充実しており、基本的なことは本文*1とより高度なことは注という2段構成になっており、叙述にメリハリがついて非常に読みやすくになっています*2

国内での特許訴訟は減少傾向にあり*3、実際、私も国内の特許訴訟は2012年を最後に案件自体が無くなってしまいましたが、社内からの他者特許権の抵触非抵触判断の相談はそれなりにあるため、費用をかけて弁理士さんや弁護士さんに相談するかどうかを判断するという仕事はあります。
本書は、そのような仕事をする法務部員や知財部員にとって非常に有益な一冊だと思います。

<評価> ☆☆☆☆☆
(実際に、特許権の抵触非抵触判断を行っている法務部員または知財部員向けの本として。特許実務未経験者や初心者には少し難しいと思います。)

<脚注>
*1 基本的といっても入門・基礎レベルではなく、初学者には少し厳しいかもしれませんが・・・。
*2 初版も、最初に実用新案権を取得した防風灯(墓前用石造りローソク立て)という発明(正しくは「考案」)の内容が分かりやすいもので説明を始めており、内容面で分かりやすさへの配慮がなされています。第2版では防風灯を使っての説明ではなく、「ライトフライヤー号」等を具体例に挙げて説明をしていますが、個人的には、初版より分かりやすい「発明の本質と特徴」についての説明がなされていると思います。
*3 特許侵害訴訟が減少傾向にある、と書きましたが、出典は特にありません。私の経験というか、実感としてです。ただ、国内での特許出願件数が減少傾向にありますので、おそらく特許侵害訴訟も減少傾向になっているものと思います。