久しぶりになってしまいましたが、定期購読しているBUSINESS LAW JOURNAL (ビジネスロー・ジャーナル) 2015年03月号から私が興味を持った記事のメモです。


仕事柄、BUSINESS LAW JOURNAL 2015年03月号の新連載『ライセンス契約法』は、個人的に興味深い内容で、これからとても楽しみです。

今回は、「第1回 連載開始にあたって」ということで、総論的なお話でしたが、『ライセンス取引における「実務的課題」と「法的理論」との架橋』という今後の連載に向けた狙いが、これまでにない感じでとても興味深いです。

具体的には、
ひな形の条項解説という形式ではなく、ライセンス契約に関する総論的な解説をまずは試み、その後、ライセンス契約の実務をめぐるさまざまな個別の問題点を俯瞰的に見ていくことにしたい。その際には、今回指摘したような立法・学会の場における伝統的な法律理論に、知的財産をめぐるライセンス実務の特殊性を接合するという課題を意識する。それと同時に、ライセンス取引実務の現場で担当者が直面する問題についてその背後にある法理論を掃海するというアプローチにより、「実務的課題」と「法的理論」との積極的な架橋を心がけたい。
ということで、日頃から実務(それも企業法務の実務)どっぷりだと忘れて(無視して?)しまいがちな(伝統的な)法律理論に触れて頂ける*1ということで、とても勉強になりそうです。

ただ、ちょっと気になる記述もありまして、それは、
取引の内容を社内で最も熟知し、取引の条件等の交渉に出席した企業のビジネス担当者がその交渉の結果を忠実に書き起こした議事録は、仮に会議における合意内容が漏れなく書いてあったとしても、良い契約書とは残念ながら異なる。(第1段落)
良い契約書を作成するという作業は、契約書にあえて定めを置かなくても当該取引に適用のある法律関係を熟知し、それを下地として次のような作業を行うことである。(第2段落)
①契約書に規定を置くことで法律のデフォルトの規定の内容を塗り替えることができる部分は、必要に応じて規定を置く
②法律に何らの定めもなく、契約書に規定を置かなければ意図した法律関係が発生しない場合には、そのような法律関係を発生させる旨の規定を詳しく用意する
③契約書に規定を置いても法律上の規定の効果を変更できない部分(強行法規に反する部分)は、何らかの代替策を考える(第3段落)
の部分です。

理由は、まず、第1段落目は、ここでは何故「良い契約書とは残念ながら異なる。」のか、その理由が直接的には示されていません。
おそらく、第3段落目の③の強行法規との関係が、「合意内容が漏れなく書いてあったとしても、良い契約書とは残念ながら異なる」理由のひとつかと思います*2
確かに、この指摘は「合意内容が漏れなく書いてある契約書」の問題点だと思います。ただ、ビジネスを行うものとして(企業法務も含めて)、コンプライアンスが重視されるこのご時世、最低限何が強行法規に触れるような合意内容かは理解しておく必要がありますので*3、「強行法規に反しない範囲で、合意内容が漏れなく書いてある契約書が良い契約書」となる可能性はあると思います。
何故なら、「契約書は、一体誰が使うものなのか?」という視点で考えたとき、最初は、やはり、ビジネスサイドの担当者が使うものだと思うからです。
その意味で、契約書は、まずはビジネスの当事者の行為規範だと思います。というのも、数えきれないほど多数の取引が行われ、その取引のために作成された契約書が裁判規範として機能するのは、極めてレアケース*4だと思うからです。

このような観点から考えたとき、第2段落目の『良い契約書を作成するという作業は、契約書にあえて定めを置かなくても当該取引に適用のある法律関係を熟知し、それを下地として次のような作業を行うことである。』というのは、弁護士さんをはじめとする法律実務家にとっては、そのとおりかもしませんが、実際に、ビジネスの現場で契約書を扱う人に、これを要求することは、現実的ではない難しい注文だと思います*5

この点に関連して、いつも思うことが、弁護士さんや法科大学院卒業生の数についてです。
つまり、日本における弁護士さんの数や法科大学院卒業生の数が、それこそ劇的に増えて、ビジネスの世界の至るところに、法的な素養を持った方がいらっしゃるようになれば、『良い契約書を作成するという作業は、契約書にあえて定めを置かなくても当該取引に適用のある法律関係を熟知し、それを下地として次のような作業を行うことである。』ということも可能かもしれませんが、弁護士さんの数をこれまでに比べて減らしていくのであれば、目指すべき方向性としてちょっと無理があるのではないでしょうか*6

さらにいうと、『ライセンス契約』は、何も国内に限った話ではなく、国際的な契約も多いため、その場合契約準拠法が日本法というケースばかりではなく*7、海外法、しかも、最近は、米国法・英国法だけでなく、中国法やASEAN諸国の法律と多岐にわたるため、『良い契約書を作成するという作業は、契約書にあえて定めを置かなくても当該取引に適用のある法律関係を熟知し、それを下地として次のような作業を行うこと。』なんて不可能ではないでしょうか?

そこで、現実的な解としては、例え、選択された準拠法のもとで強行法規違反になるリスクはあるにしても、『合意内容が漏れなく書いてある契約書が、良い契約書』になるのではないでしょうか。
もちろん、世界中の弁護士さんや例え弁護士さんでなくても、世界各国の法律を熟知した法的素養を持つ方が、至るところに溢れていれば別ですが・・・。

というわけで、
『良い契約書を作成するという作業は、契約書にあえて定めを置かなくても当該取引に適用のある法律関係を熟知し、それを下地として次のような作業を行うことである。(第2段落)
①契約書に規定を置くことで法律のデフォルトの規定の内容を塗り替えることができる部分は、必要に応じて規定を置く
②法律に何らの定めもなく、契約書に規定を置かなければ意図した法律関係が発生しない場合には、そのような法律関係を発生させる旨の規定を詳しく用意する
というのは、現実的な解ではなく、現実的な解としては、日本以外の国の法律を準拠法とする場合はもちろんのこと、日本法を準拠法とする場合であっても、可能な範囲で強行法規に注意しつつ、できるだけ「合意内容が漏れなく書いてある契約書」を作成することが現実的な解ではないかな、と思った次第です。


<脚注>
*1 日本国内だけでなく、海外の法理論についてもご紹介頂けるとありがたいです。なお、本連載の筆者は、New York University School of Law 修了(LLM)で、Paul, Weiss, Riflind, Wharton & Garrison LLP に勤務経験のある長島・大野・常松法律事務所の松田俊治弁護士ということで期待が持てます。
*2 その他の理由としては、契約書が裁判規範としての役割を果たすときのことを踏まえて、権利義務を明確にする形で作成されていること、があると思います。
*3 日本法においても何が強行法規であるかを判別することは結構難しいとは思います。まして、海外法となると・・・・・。
*4 個人的な経験(但し、4社の合計)に基づくものですが、約40000件の契約書中1件の確率で、訴訟において契約書が問題になる計算です。
*5 企業に法務部があっても、会社が締結する契約の全てを法務部(ないし弁護士等の法的素養がある人)が作成ないしチェックするという企業は、かなり少ないのではないでしょうか。
*6 もしくは、損害賠償金額をアメリカ並みに高額化し、それと合わせて訴訟費用も高額化した上で、日本における弁護士さんの数や法科大学院卒業生の数を増やすのであれば、可能なことだと思います。
*7 今回の連載は、日本法を準拠法とした連載になるかもしれませんが・・・。