知財関連の仕事でもしていないと、特許明細書なんて読むこともないと思いますが、特許明細書って難しいというか、午後読むと、夜はなかなか寝付けない方でも確実に眠くなりますよね。。。

ところで、このタイトルと特許明細書の間に、どういう関係があるのか?
と言いますと、ピンと来た方は、知財関連情報へのアンテナが、高そうです。


私が読んだ明細書のなかで、一番面白く印象に残っているのは、前回の「もうけを生み出す中小企業の知財戦略」でも取り上げられていた越後製菓の特許第4111382号で、その発明の名称が「餅」なのです*1

さて、越後製菓は、この特許権の侵害を理由に佐藤食品工業を提訴し、1審の東京地裁*2では敗訴したものの、知財高裁*3で逆転勝訴し、約8億円の損害賠償請求が認められました。
この越後製菓の特許第4111382号の特許明細書の何が面白いかというと、発明者(ないし弁理士)の方の「餅(それも焼き餅)」に対する尋常でない思いを感じることができる特許明細書だからです。

具体的には、
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
餅を焼いて食べる場合、加熱時の膨化によって内部の餅が外部へ突然膨れ出て下方へ流れ落ち、焼き網に付着してしまうことが多い。
【0003】
そのためこの膨化による噴き出しを恐れるために十分に餅を焼き上げることができなかったり、付きっきりで頻繁に餅をひっくり返しながら焼かなければならなかった。古来のように火鉢で餅を手元に見ながら焼く場合と異なりオーブントースターや電子レンジなどで焼くことが多い今日では、このように頻繁にひっくり返すことは現実なかなかできず、結局この突然の噴き出しによって焼き網を汚してしまっていた。
【0004】
<略>
【0005】
しかし、このような膨化は水分の多い餅では防ぐことはできず、十分に焼き上げようとすれば必ず加熱途中で突然起こるものであり、この膨化による噴き出し部位も特定できず、これを制御することはできなかった。
【0006】
そのため、この餅のどこからともなく噴き出る膨化は焼き餅においては仕方ないものとされており、それ故一度に多く食する場合は、煮て食べざるを得なく一度に沢山焼いて食べることは難しいとされていた。
【0007】
一方、米菓では餅表面に数条の切り込み(スジ溝)を入れ、膨化による噴き出しを制御しているが、同じ考えの下切餅や丸餅の表面に数条の切り込みや交差させた切り込みを入れると、この切り込みのため膨化部位が特定されると共に、切り込みが長さを有するため噴き出し力も弱くなり焼き網へ落ちて付着する程の突発噴き出しを抑制することはできるけれども、焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなり、実に忌避すべき状態となってしまい、生のつき立て餅をパックした切餅や丸餅への実用化はためらわれる。
【0008】
本発明は、このような現状から餅を焼いた時の膨化による噴き出しはやむを得ないものとされていた固定観念を打破し、切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅を提供することを目的としている。

単に餅表面に数条の切り込み(スジ溝)を入れるだけでは、焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなり、実に忌避すべき状態となってしまい、これまで生のつき立て餅をパックした切餅や丸餅への実用化はためらわれていたそうです。
切り餅の見た目をここまで考えていたなんて。。。(笑)

さらに、
【0015】
しかも本発明は、この切り込み3を単に餅の平坦上面(平坦頂面)に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく、周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり、あるいは側周表面2Aに周方向に沿って形成するため、この切り込み3の設定によって焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されると共に、焼き上がった後の焼き餅の美感も損なわない。しかも焼き上がった餅が単にこの切り込み3によって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となり、それ故今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができることとなる。
【0016】【0017】
<略>
【0018】
即ち、この持ち上がりにより、図2に示すように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態、あるいは焼きはまぐりができあがりつつあるようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状に自動的に膨化変形し、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。またほぼ均一に焼き上げることが可能となる。
【0019】
本発明の方形(直方形)の切餅の場合、立直側面たる側周表面2Aに切り込み3をこの立直側面に沿って形成することで、たとえ側周表面2Aの四面全てに連続して角環状に切り込み3をめぐらし形成しなくても、少なくとも対向側面に所定長さ以上連続して切り込み3を形成することで、膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく、この切り込み3に対して上側が持ち上がり、前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態、あるいは焼きはまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状となり、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。
【0020】
特にこの切り込み3を側周表面2Aに、小片餅体1の輪郭縁に沿った周方向に連続してほぼ四角環状に形成すれば、一層前記作用・効果が確実に発揮され、極めて画期的な餅となる。
【0021】ないし【0026】
<略>
【0027】
即ち、立直側面たる側周表面2Aに切り込み3をこの立直側面に沿って形成することで、図2に示すように、この切り込み3に対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり、前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部間に膨化した中身がサンドされている状態(やや片持ち状態に持ち上がる場合も多い)となり、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。
【0028】ないし【0031】
<略>
【0032】
【発明の効果】
本発明は上述のように構成したから、切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅となる。
【0033】
しかも本発明は、この切り込みを単なる餅の平坦上面に直線状に数本形成したり、X状や+状に交差形成したり、あるいは格子状に多数形成したりするのではなく、周方向に形成、例えば周方向に連続して形成してほぼ環状としたり、あるいは側周表面に周方向に沿って対向位置に形成すれば一層この切り込みよって焼いた時の膨化による噴き出しが抑制されると共に、焼き上がった後の焼き餅の美感も損なわず、しかも確実に焼き上がった餅は自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となり、それ故今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができこととなる画期的な餅となる。
【0034】
<略>
【0035】
特に本発明においては、方形(直方形)の切餅の場合で、立直側面たる側周表面に切り込みをこの立直側面に沿って形成することで、たとえ側周面の周面全てに連続して角環状に切り込みを形成しなくても、少なくとも対向側面に所定長さ以上連続して切り込みを形成することで、この切り込みに対して上側が膨化によって流れ落ちる程噴き出すことなく持ち上がり、しかも完全に側面に切り込みは位置し、オーブン天火の火力が弱いことなどもあり、忌避すべき形状とはならず、また前述のように最中やサンドウィッチのような上下の焼板状部で膨化した中身がサンドされている状態、あるいは焼きはまぐりができあがったようなやや片持ち状態に開いた貝のような形状となり、自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また美味しく食することができる焼き上がり形状となる。

特許査定を得るために、できるだけ発明の効果が素晴らしいことをアピールする必要があったというのはわかるのですが、何度も同じフレーズが繰り返されています。
この明細書をプロジェクトXをイメージしながら読むと、特許権者である越後製菓と発明者の星野さんは、焼き餅が、「焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅となる。」ことを夢見て、日夜努力をしていたように思えて、面白く感じてしまいました*4


<脚注>
*1 なんと越後製菓は、発明の名称を「餅」とする特許権を、これまでに全部で4件も取得しています。
*2 東京地裁平成22年11月30日判決 平成21年(ワ)第7718号特許権侵害差止等請求事件
*3 知財高裁平成23年9月7日中間判決 平成23年(ネ)第10002号 特許権侵害差止等請求控訴事件及び知財高裁平成24年3月22日判決 平成23年(ネ)第10002号 特許権侵害差止等請求控訴事件
*4 私だけでしょうか・・・。