引き続き「中小企業と知的財産(戦略)」の話題ということで、今日は最近読み返した中小企業と知的財産に関する書籍の紹介です。


知財戦略の本というと、丸島先生のキヤノン特許部隊 (光文社新書)
「知的財産戦略」が有名ですが、基本的に大企業向けのもので、中小企業においてそのまま使えるか?というと、難しいところがあります*1

その点、本書は、中小企業における知財活用の成功事例を紹介しつつ、知財戦略とは何かについて書かれており、知財と知財戦略の重要性には気づきつつある(若しくは、気づいている)中小企業において、これから知財活動を積極的に行いたい企業の知財担当者向けの書籍だと思います。
その意味では、Amazonの書評では、厳しいコメントが一つついていますが*2、使い方次第では、それほど悪くない本だと思います。

というのも、本書は、以下のような書き出しではじまります。
中小企業は独自の技術やアイデアをもっと生かせば大企業と渡り合える。
様々な成功事例をもとに知財からもうけを生み出すポイントを解き明かす。

優れた技術やアイデアを持ち、権利化しながらも、肝心の利益につなげられていない中小企業は多い。
しかしこれからは、価格競争力や製品開発力で大企業に劣る企業は、知財を戦略的に活用できなければ生き残れない。
そこで本書では、知財部などのリソースを持たない中小企業が、どうすれば知財戦略を立案・実行できるのかを解説する。ニッチな市場を狙った技術開発と権利化、ライセンス料で稼ぐための権利化、他社の知財を活用した製品開発など、各企業の強みによって知財の活かし方は多彩。
具体的な成功事例をもとに、もうけを生み出すポイントを明らかにする。

知的財産の重要性が高まっていますが、せっかく取得した知的財産権を「経営に活用していない」
「活用したいができていない」という中小企業は少なくありません。
その一方で、知財をうまく活用し、大きな利益を生み出している企業もあります。

「具体的な成功事例をもとに、もうけを生み出すポイントを明らかにする。」というのは、私も大賛成です。
そして、できれば定性的な成功事例ではなく、定量的な成功事例をもとに、もうけを生み出すポイントを明らかにして欲しいところですが、なかなかそこまでの話はありませんでした。
定性的な成功事例よりも定量的な成功事例が良いというのは、その方が経営者に知財戦略の重要性を理解させ易いからで、既に知財と知財戦略の重要性には気づきつつある(若しくは、気づいている)経営者に対しては、定性的な成功事例の紹介で十分だと思います。
それに、知財戦略の本質は、定性的なものだと思うからです*2。
そういう意味で、第3章の『成功事例から学ぶ、知財を経営資産にする中小企業の戦略』は、それなりに参考になると思います。

ただ、全体をとおしては、思いついたままに書いたというか、構成というか整理の仕方が不十分なところがあって、そのままでは使いづらいところがあるように思います。

それは、以下のような章立てを見てもらえれば分かります。
◎もくじ◎
第1章 優れた技術があっても知財で稼げない中小企業の現実
 ・知識不足、経験不足で活用が進まない中小企業の知財
 ・中小企業が訴訟を起こしても勝てない、利益にならない
 ・中国企業の日本での出願、訴訟がこれから本格化する
 ・知財戦略がなければ、どんなに優れた商品も利益に結びつかない
第2章 知財戦略は商品を開発する前からすでに始まっている
 ・戦略性に欠ける中小企業の知財活用
 ・経営者の知財意識の低さも問題のタネ
 ・下請けに甘んじる企業は知財を活用できない
 ・グローバル市場で生き残るために、知財戦略を踏まえて事業展開が求められる
 ・企業に求められる知財活用のセンス
 ・権利化の戦略的判断を間違えるからコストが無駄になる
 ・本当に特許を取得するかどうかを検討する
 ・広く権利を取得しないと、ライバル企業の模倣を防げない
第3章 成功事例から学ぶ、知財を経営資産にする中小企業の戦略
 ・ライバル企業を特許権取得で圧倒する~越後製菓
 ・製品の開発前からビジネスモデルを考える~エルム ほか
第4章 知財戦略はアウトソーシングで強化する時代へ
 ・中小企業の知財を強くする4つのステップ
 ・中小企業の知財活動のチェックポイント ほか

章毎の繋がりがあまりなく、ストーリー性に欠けていて、特に第4章の「知財戦略はアウトソーシングで強化する時代へ」は、その前の3章との脈絡がなく*3、唐突すぎるというか、宣伝なの?という感じがちょっとマイナスポイントかなと。
さらに、第4章の『中小企業の知財を強くする4つのステップ』と『中小企業の知財活動のチェックポイント』も、4つのステップとチェックポイントの時系列的な優先度が?なところもマイナスポイントかなと。
つまり、4つのステップとチェックポイントの時系列があまり意識されておらず、順番が実務的でないように思います。
例えば、4つのステップは、以下のとおりです。
①自社の強みとなる技術を見極める
②社内に知財マインド植え付ける
③知的財産権獲得のスピードを重視する
④市場を分析し、将来を予測する

私なら、少なくとも、④の「市場を分析し、将来を予測する」をした後に、①の「自社の強みとなる技術を見極める」の順番がより実務にマッチしていると思いますし、「自社の知的財産の見える化(棚卸)」というステップと、そのステップを①の「自社の強みとなる技術を見極める」と連動させる形で行う方が良いと思います*4

というわけで、読み手にそれなりの能力を要求する本書ですが、情報を整理して使えば*5、Amazonの書評ほど悪くはないかと。



<評価> ☆☆☆
(定性的な知財戦略の成功事例が知りたい中小企業の知財担当者向けの本として)


<脚注>
*1 丸島先生の「知財、この人にきく (Vol.1)」では、中小企業の知財と知財戦略に関して、大企業との違いや中小企業の優位性について述べています。
*2 事例紹介が多いのがこの本の良さかと。 ただし、成功事例の紹介だけで良いなら、こちらでも入手できます。
*3 第3章の「成功事例から学ぶ、知財を経営資産にする中小企業の戦略」の中には、知財戦略をアウトソーシングして成功した企業の紹介がなかったりします・・・。
*4 このあたりは、機会を見つけて、私なりに整理をしたいと思います。いつか、また。。。できれば。。。
*5 情報を整理して使わないといけない本って、あんまりよくないか。。。結局、私の評価も、☆3ですし・・・。