前回、いわゆる大企業の知財戦略とか知的財産の利活用に関する考え方や方法は、中小企業では通用しない、という話をしました。

特に、経営者の方が知的財産の重要性に気がついていない、知財戦略の重要性に理解を示してくれない企業において、知的財産に関する活動は単なるコストと認識されていたりします。


何故なら、このような経営者の方は、知的財産がどのように経営に貢献するのか、つまり、知的財産が売上や利益にどのように貢献しているのか、見えていないからです。
もし、経営者の方にこれが見えているのであれば、当然知的財産の重要性に気がついているでしょうし、知財戦略の重要性に理解を示すはずです。

そこで、まず取り組まなければならないのは、知的財産が売上や利益にどのように貢献しているのか、それを見える化することです*1

ここで最初に行うことは自社の知的財産の見える化ではなく、同じくらいの規模の(できれば同業)他社の知的財産活用の成功事例を見せることです。
というのも、「自社の知的財産が売上や利益にどのように貢献しているか見える化をしましょう!」と言うのは簡単ですが、実際にきちんとこのような見える化の作業を行おうとすると、競合他社の分析が不可欠のため、中小企業であっても相当のコストがかかります*2
もちろん、大したコストを掛けずに、形式的にこのような自社の知的財産の見える化を行うことはできますが、それでは経営や事業に貢献している自社の知的財産を見える化することは、ほとんどできないと思います。
そして、このような形式的な自社の知的財産の見える化を行ってしまった場合、競合分析を行っていないため、独りよがりにな経営や事業に貢献する知的財産を見える化したに過ぎず、ほとんどの場合、経営や事業に貢献する知的財産戦略の立案はできないことになります。

従って、中小企業とは言え、競合分析をきちんと行ったうえで、全社的にこれを行う必要があり、このようなコストを上回るメリットを経営者に見せなければ、本当に必要な『自社の知的財産が売上や利益にどのように貢献しているかの見える化』を行うことについて、経営者の承認は得られません*3

といわけで、最初に行うことは自社の知的財産の見える化ではなく、同じくらいの規模の(できれば同業)他社の知的財産活用の成功事例を見せることです。

~つづく~


<脚注>
*1 ここでは『「知的財産」が売上や利益にどのように貢献しているのか、それを見える化する』としており、「知的財産権」の見える化ではないことが重要です。当たり前のことですが、権利化できるものや権利化されたものだけが売上や利益に貢献するわけではなく、権利化できないものや権利化されていないものであっても、売上や利益に貢献しているものはあります。いわゆる「知的財産権」に限定するのはもちろんのこと、特許権に限定して考えてしまうことも、かえって中小企業にとってデメリットを生じさせてしまう可能性が高いです。
*2 競合分析を適切に行うには、それなりノウハウが必要ですし、コンサル等に外注するとなれば費用が発生します。このような点でも、中小企業と大企業で差がでる可能性があり、注意が必要です。
*3 このようなコストを上回るメリットを見せずとも、「先生」といった権威を使って、承認させるという方法はありえます。が、そういう経営者は、別の意味で、気に入った「先生」のお言葉でないと納得しないとか、気に入った「先生」のお言葉を都合よく解釈するなどといったことがあり、別の手間がかかります。。。