『視野を広げる』と聞くと、どんなイメージを持ちますか?

『ある場所から見て、見えている範囲が狭いので、広くする。』というイメージを持つ方が多いのではないでしょうか。
辞書で『視野』を調べると、
①外界の一点を凝視するとき、その点を中心として見える範囲。
②物事を考えたり判断したりする範囲。
という説明がされていますので、先ほどの『視野を広げる』の説明は辞書的には正しいと思います。


仕事をしていると、『視野を広げなきゃ』って思うこと、良くありますよね。
ちょっと視野を広げれば「見えてくること」ってありますし、後になって「何故、あの時、気がつかなかったのか?!」なんてこともありますよね(もちろん、私もあります。。。)。

ただ、視野を広げれば、本当に気がついたのでしょうか?
そうとばかりも言えないように思います。
むしろ、「ある点を中心として見える範囲を広げた」だけでは、気がつかないことの方が多いと思います。

例えば、少し前に『複眼思考』なんていう言葉も話題になりました。
『複眼思考』そのものは辞書に載っていませんでしたが、『複眼的』という言葉は辞書に載っており、①いろいろな立場・視点から物事を見たり考えたりするさま、という説明がされていました。
従って『複眼的思考』とは、『いろいろな立場・視点から物事を考えること』ということになりそうです。
『視野を広げる』ことと『複眼的思考』の大きな違いは、『ある点(視点)から見える範囲を広げていくのか(『視野を広げる』)、それとも『視点自体を複数持ち、その結果として、見える範囲を広げていくのか(『複眼的思考をする』)』ということだと思います。
視点の設定が間違っていれば、その間違った視点から視野を広げても、見落としてはいけない大事なポイントまで視野が広がらない可能性がありますし、視点(の次元)が違えばそもそも見えてこない可能性もあります。
正しい視点を見つけ出すためにも、『複眼的』に考えて、より適切な視点を見つけることが大事になります。
言い換えると、『視野を広げる』ことの効果を最大限生かそうとすれば、まずは、『複眼的思考』ができるようになる必要があるということです。

では、どうすれば、複眼的な思考ができるようになるのか?ですが、個人的には、やはり、『立場を変えてものを見ること』ができるかどうかが重要だと思っています。そして、その際に「以前、別の立場で考えた際に生じた感情を、一旦、捨てること」が重要だと思います。『思考』と『感情』を分けられなければ、立場を変えて客観的に考えているつもりでも、『感情』に囚われて、立場を変えられていないことがあります。
『思考』と『感情』を上手分けられない場合、時間を置くとか、一度、全く別のことをするなど、「感情」が薄らぎよりニュートラルになるような行動を間に挟むのが効果的だと思っています。

さらに『複眼的思考』ができるようになると、立場を変えるだけでなく、自由に視点を設定し、複数の視点間を行ったり来たりするようになるそうです*1

さて、ここからは私の経験に基づくものなので、一般化はできないかもしれませんが、それなりの規模の会社で法務部と知財部が分かれている企業の法務部員には、『複眼的思考』をする際に足りなくなる視点があるように思います*2
それは、時間的な広がりというか、時間軸の長さです。時間軸、つまり、どのくらい先のことまで考えるか、1年先か、2~3年か、5年か、10年か、10年以上先まで『視野を広げる』かどうかということです。
知財系の仕事を除く法務系の仕事だけをしている法務歴10年以上の法務部員でも、先を見ていると言っても、普通は1年くらいで、長くものを考える人でも2~3年くらい先のことを考えて仕事をしていれば良い方ではないでしょうか。5年以上先を考えて仕事をする人は、あまりいない気がします*3
なお、ここでの仕事というのは、自身のキャリアや、組織や体制をどうするということではなく、今担当している仕事そのものについて2~3年後や5年後までのことを考えて判断し、対応しているか?ということです。

これに対して、知財歴10年を超えてくる知財部員だと、短くても2~3年、通常であれば5年くらいは先のことを考えながら判断し、対応している人が多いように思います。
また、知財戦略系の仕事になれば、10年以上先を考えて仕事をされているかたも多いように思います*4
そういう意味で、同じ法律系(?)管理部門でも法務部と知財部とでは、この時間軸に対する感覚の違いから、話がかみ合わないことがあったります。

ただ、個人的には、このブログの過去記事にもあるとおり、今後、法務部は経営戦略や事業戦略を理解し、その実現を支援するための部署に、そしてその先には、経営戦略や事業戦略の立案そのものに貢献するための部署にならざるを得ないと思いますので、経営戦略や事業戦略と同じ「時間的な広がり」や「時間軸」を意識し、仕事を行っていく必要があるように思います。

○ テクニカルシンギュラリティと契約法務④
○ 事業戦略(事業計画)と契約
○ 企業法務部&知的財産部の存在意義と役割


<脚注>
*1 後述のとおり、「自由に」とは、3次元の世界で360度どの方向にも「自由に」ということに加えて、時間(時点)も「自由に」という意味を持つべきだと考えています。
*2 規模が大きい企業の場合、部門として法務部と知財部が分かれることが多く、その場合、各人の専門性が高くなるというメリットがある一方、自身の専門性の幅が狭くなるというデメリットがあります。このデメリットを解消するためには法務部内はもちろんのこと、法務部と知財部といった他部門間のローテーションが必要となりますが、ローテーションにも各種の弊害があるため、最近は、法務部と知財部を融合させた上で、最適な規模を模索した方が良い気がしています。
*3 仮に、5年以上先のことを考えて仕事をしている人がいたとしても、多くの法務部において、そのことがあまり評価されていない気がします。
*4 業界によっては、10年は長すぎで、5年くらいが限度というところもあると思います。