2014年11月19日に開かれた第10回(新)産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会の議事録についてです。

第10回議事録は、こちら

若干遅れ気味ですが、今年も引き続き、本小委員会の動きをフォローしていきたいと思っています。


さて、今回の主な審議内容は、「産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会とりまとめ案」についてです。

とりまとめ案を私なりに要約すると、『「選択制」って、審議会迷走しすぎ?!』
もとい、
①発明の”対価”としてではなく”インセンティブ”として、発明成果に対する報いとなる経済上の利益(金銭以外のものを含む)従業者等に付与する義務を課すことを法定する
②使用者等は、インセンティブ施策について、政府が策定したガイドライン(後述⑥)の手続に従って、従業者等との調整を行う
その上で、
③職務発明に関する「特許を受ける権利」については、現行制度を改め、初めから使用者等に帰属させる
ただし、
特許を受ける権利の従業者等帰属を希望する法人(特許を受ける権利を研究者に帰属させることが適切な大学や研究機関や、特定の組織に専従せずに個人として活動する優れた研究者を引きつけるために特許を受ける権利の従業者等帰属を経営戦略として選択する企業等)については、従前通り、それを可能とする。
⑤職務発明に関する契約・勤務規則等を有しない法人に対しては、特許を受ける権利が当該法人に自動的に帰属することで、当該法人に所属する発明者の権利が不当に扱われ、使用者等と従業者等の間のトラブルの原因となることのないようにする。
政府は、インセンティブ施策についての使用者等と従業者等の調整の手続(従業者等との協議や意見聴取等)に関するガイドラインを策定する。
ガイドラインの策定にあたっては、研究活動に対するインセンティブについて民間における創意工夫が発揮されるよう、民間の自主性を尊重する。また、業種ごとの研究開発の多様な実態、経済社会情勢の変化を踏まえたものとする。
ということになります。

ただ、上記②、⑦にあるガイドラインもそうなのですが、実務レベルでの運用面まで考えると、全体的によく分からない「とりまとめ案」だというのが正直な感想です。

例えば、今回の「とりまとめ案」から、『職務発明に関する「特許を受ける権利」は原始的使用者等帰属』の方向性が明確に示されたと評している方もいらっしゃるようです(もしかすると、ポジショントーク?かもしれませんが・・・。)。
確かに、第10回の以下の議事録の質疑応答を見ていると、そのようにも理解できます。

○茶園委員 最後のことについて聞きたいことがあります。
先ほどの質問でもありましたけれども、ガイドラインに合わないと不合理だということになりますが、その場合、どのような結果となるのかがよく分かりません。使用者帰属ではあるが、不合理なものの存在を認めるということになって、現行の35条5項と同じようにするならば、相当対価が支払われることになるのか、あるいは経済上の利益なのだけれども、相当対価とは違うものが支払われることになるのでしょうか。
後者については、相当対価とは異なる経済的利益を法に定めることは困難ではないかと思います。そこで、ガイドラインに従って合理的と考えられるような手続が定められていることを使用者帰属の要件にするというようにすれば、先ほど言った不合理な使用者帰属のものは存在しないということになります。このようなものの妥当性はともかく、使用者帰属としておいたうえで、ガイドラインに従わないものがあった場合に従業者のために何らかのセーフティネットを設けるということは難しいのではないかと思っております。
以上です。
○大渕委員長 今の件に関連して、御説明をしておいたほうがよいと思われます。
前回、御欠席になったかもしれませんけれども、山本敬三先生が非常に的確に言われたとおりであります。帰属が不安定化するのは極めて問題であると思います。今言われたのは、6月18日にあった(4)のような話ではないかと思います。あのときも御欠席だったかもしれませんけれども、一定の条件を満たしたものだけが帰属というようになると、帰属が非常に不安定化するから、いろいろな意味でよくないというのは前回までにコンセンサスがあったと思います。そこのところはそのような前提で議論が進んできていると思います。(第10回議事録18-19頁)

しかしながら、第10回の議事録の質疑応答の全体を見てみると、玉虫色というか、原始的使用者帰属の方向性が示されたとまではいえないと思います(知財部等があって既に一定レベル職務発明規程等が整備された大企業等では、実質的に原始的使用者等帰属となるため、原始的使用者等帰属の方向性が示されたとも言えなくもないのですが・・・。世の中全体を見たら、そんな企業はごくごく一部なわけで・・・。そういう意味でも玉虫色ですね。)。

○矢野委員 先ほど西委員から法人が定めれば法人帰属になるという御発言があったような気がして、アラッと思いましたので、確認させていただきたいのです。
「第二に」というところの段落を見ますと、初めから使用者等に帰属するものとすると。
その次に、これにより二重譲渡とか共有に係る場合の帰属の不安定性といった問題は解消されるとありましたので、特に定めなかった場合は初めから法人帰属になる。ただし、全部をそうするわけではなくて、その次に書いてあるように、従業者帰属を希望する場合はそういうこともできると、そういう制度だというふうにこちらは読ませていただいたのです。しかし、先ほどの西委員の取り方と私と違うのかなと思いまして、この点について…
…。特に定めなくても初めから使用者等に帰属するという理解でよろしいでしょうか。
○中野制度審議室長 定めなくてもというのは、何を定めなくてはですか。
○矢野委員 要するに、デフォルトがどうなるかというところです。何がというのは帰属です。
○中野制度審議室長 そこについては、「第二」の下のほうで書いてある契約・勤務規則等を有しなくて知財管理をできる見込みがない企業について、自動的に特許を受ける権利が帰属するということがあるとまずいというふうに、ここにちょっと書いてございます。
デフォルトがどっちかという言い方が適切かどうかわかりませんけれども、何もしなかった場合、管理する気も、何もやる気がないのに法人帰属になるというのは問題だという意見が前回、伊原先生からも出ましたし、御紹介した日本商工会議所の意見からも出ましたので、この点は十分考慮した制度設計にしなければならないと思います。
ただ、デフォルトというか、本来、そう書いてあるわけではないんですけれども、特許法の職務発明制度は法人帰属か個人帰属かということ以前に、職務発明規程は作ってちゃんと管理するということが原則というか、基本として想定していますので、ちゃんとやってくれるところは初めから法人帰属になって、権利の不安定性の問題とか二重譲渡の問題はないんですけれども、職務発明も作れないとか、そういう考えも持たないところについてはセーフティネットとして、自動的に法人帰属になるということを避けなければならないと考えております
○大渕委員長 これはまだ決め切っていないので今回のまとめ案には書いていないのですけれども、前回、帰属を法人にするのか、個人にするのかというのは各社、各大学のポリシーとしてありますから、一定の意思表示ないし宣言をさせて、要するに、知財管理をやるつもりがある会社は法人帰属という宣言ないし意思表示をしていただければ、それがデフォルトになるし、そうでなくて、一般的に個人に残したり、スーパー研究者に残は残す、ということが可能となるものであります。大学にも両方のニーズがありますので、そこを何か工夫をして宣言のようなものをさせることによって、どなたか選択制と言われましたけれども、そのような形とすることによって賄おうとしています。それで全て先ほどの問題はなくなって、法人帰属にしたい会社はその宣言をしていただければ済むだけの話です。そうでなければ宣言をしないようにしていただくという、そこのところで工夫をしようと思っています。(第10回議事録23-25頁)

つまり、(意思表示による)選択制というものであって、原始的法人(使用者等)帰属を原則とする、という方向性が示されたわけではないと思います。

しかしながら、選択制ということになると、制度全体としては『「二重譲渡」「特許を受ける権利が共有に係る場合の帰属の不安定性」といった問題は、これによって解消される。(「とりまとめ案」3頁)』ことにはならないと思います。

○土田委員 事務局の御説明によれば、特許を受ける権利の帰属はいわば選択制になるわけですね。
つまり、改正法がどういう制度設計になるかといえば、使用者等は当然に、自動的に特許を受ける権利が帰属するのでなくて、契約や勤務規則等で定めることによって帰属する。
つまり、契約・勤務規則等が介在することが必要なわけですね。言ってみれば、権利の帰属は使用者でも発明者でもどちらでもよくて、契約・勤務規則次第ということになります。先ほどから出ているとおり、原則と例外についてのデフォルトはないわけです。私は、先ほど委員長がおっしゃったように、本来のデフォルトは法人帰属であって、契約・勤務規則によっては発明者に帰属させることができるという制度が合理的だと思います。以前、弁理士会が言われていた(a案)ですけれども。
なぜそうした制度設計ができないのかについては、まだ理解できないところがあって、例えば中小企業であるとか、3ページの契約・勤務規則を有しない法人に対して特許を受ける権利を当該法人に自動的に帰属させると、発明者の権利が不当に制限されるという点については、権利の帰属の問題として扱わなければいけないのかという点がなお腑に落ちません。権利については法人帰属にした上で、その場合の発明者の権利保障については、
従来から申し上げているし、今回も出ているとおり、それとは別に報いというものの権利義務を認めて、そのレベルできちんと保障することができないのかという疑問です。
要するに、本日の御説明では、権利帰属のところはどうしても不安定さが残ってしまうし、特許法の35条は一体何を原則にしているのかということが問われてしまうと思うので、帰属のところはむしろデフォルトをすっぱり決めて、それとは別の方法で契約・勤務規則を作らない法人については対処するという政策がないのかどうか。私は、それはまだあるのではないかという気がするものですから、そこは疑問です。(第10回議事録28-29頁)

そして、そもそも産業政策として、これで良いのか?という疑問もあります。
実際に、委員からは以下のような意見もでています。
○井上委員 関連することから申し上げますと、矢野委員がおっしゃったように、中小企業は本当に大丈夫なのかということは私も心配しております。勤務規則の定めも置いていないような中小企業は、今は無風状態なので、このままにしてほしいという意見書が日商から出てきたのだと思うのですが、潜在的なリスクは現実にあるのではないかという気もするわけです。
特許法の知識がない経営者が対価を支払わずに、当然会社に権利があると考えて権利化して活用しているということもあるかもしれません。権利化しないで営業秘密として活用しているという場合であれば、解釈としては、特許を受ける権利を承継しているという解釈になりうるわけですが、その場合も対価を支払っていないということもあります。現実に、現行法の下でも本当は訴訟のリスクを抱えている。ただ、今のところは、実際にそう
いう事案がそれほど目立つ形では出てきていないということもあるのではないかと思います。
また、仮に予約承継の定め等がなく従業者に権利が残っている場合に、従業者を通じて技術を外に流出させてしまった、あるいは従業者が移って技術そのものを持っていってしまったという場合に果たしてどうなるのか。これは二重譲渡にも関係してきますし、営業秘密の保護の問題にもなります。不正競争防止法上の営業秘密に当たれば、一定の保護を受けることはできますが、技術の内容が一旦オープンになってしまいますと、差し止めはできません。損害賠償限りの救済になってしまいます。中小企業は非常に危ない状況に置き去りにされてしまうのではないかという懸念を持っております。本当にデフォルトを従業者帰属として置いて大丈夫なのか。どうお考えでしょうか。(第10回議事録25-26頁)


○矢野委員 リスクを承知の上で、あえて従業者帰属がいいという形で選ぶ方は、それで全然問題ないと思うのです。
ただ、一番心配なのが、こちらでも挙げていただいたような問題があるのを知らないで、そういうリスクを知らないで、そのまま何もしない中小企業がいると思うのです。その方たちは、この状態ですと、リスクの中に置き去りにされてしまう。それでいいのかというところなのです。そういう方も同じように、今持っている潜在リスクから一緒に救うためには、何も意思表示をしなかったときは、要するに、デフォルトは法人帰属にして、従業員帰属のほうが良いところはそちらにしていただく。自分で、意思表示でやっていただくほうが、産業政策上といいますか、基本的にさっきも述べていただいたように、発明者と会社は一体だと思うのですね。会社がうまくいけば、そこの従業者も幸せになるわけですので、知らない方たちをリスクの中に置き去りにするのは非常に危険ではないかと思いました。

○中村委員 これは合っているかどうかわかりませんけれども、私、中小企業なので、こういった方もいるということでお話ししたいと思います。
今回、「会社に帰属する。発明者は社員とする」というのは非常に賛成です。そういった規程もないし発明もあまり出てこないような中小企業の社員は非常に不幸だと思います
ですので、今回分かりやすいガイドラインが出たら、私はありがたい。
私も経験がありますが、会社はこういうことをやったら相当いい方向にいくのだと思っても、実際に特許を取ろう、発明をしようとするとお金がかかります。そして、それを書くに当たって専門用語がなかなかうまく書けない。そういった意味で、いろいろな負担があるので萎縮している。結局特許なんかとっても意味ないと思っている社員が中小には多いのではないかと思います。
今回、わかりやすいガイドラインがもし出来たとしたら、社員は会社の社長に「社長、こんな考えを持っているのだけど、こういうガイドラインで、こうやると、うまくいきそうですよ」と言うことができます。
ですから、中小企業の閃きの出る社員からどんどん発明が出されるような環境を作ってあげられる。分かりやすいガイドラインができたら最高かなと考えて期待しています。そこのところがうまくいったら、社長と社員との間で「ああそうか。こういうふうなルールで、こうなるのか」と理解し合えます。中小では現場で真っ黒になって作業している時に、発明の書類を書いていると、「おまえ、何をやっているんだ」ということを言われて、「実は」と萎縮してしまっている現実もあります。そういうことが中小企業では非常に多いのではないか。また他の側面として、大手企業と打ち合わせの時に、「こうやるといいですよ」と言うと、それがヒントになって発明が相手企業に漏れてしまうこともあります。
こういう現状があると私は思うので、私の会社では社内の職務発明規程を作成いたしましたが、そういう規程を作成することで困っている中小企業があるなら、わかりやすいガイドラインは大変助かると思います。そういったガイドラインが出されたら「そのガイドラインに乗って、この発明を出しましょう」ということになり中小企業内でのわだかまりもなくなり非常にいいかなと思います。そういうガイドラインを作っていただきたいなと思います。(第10回議事録26-27頁)


その後も、委員方々が、原則(デフォルト)原始的法人(使用者等)帰属が良いとか、いや、原則(デフォルト)原始的従業者帰属が良いとか、それぞれの思うところを発言しており、若干収拾がつかない状況になっているように思います。。。

社内の制度でもそうですが、軋轢を避けて、いわゆる折衷説みたいなのを採用すると、上手く行かないことが多いように思います。
というのも、折衷説を採用すると、制度の利用者が自身にとって好都合な解釈(法律学にはない、いわゆる好都合解釈)を使って、楽な方楽な方に流れていくことが多いように思います。

現状に囚われ過ぎず、100年とは言いませんが、少なくとも10年いや20年後の日本の将来を見据えて、法改正をして欲しいものです。

個人的には、ビジネスの世界においては、日本はもう少し契約社会になった方が良い(日本にとってその方がいろいろとメリットがある)と思いますので、基本的には契約で処理した方が良いように思っています。
今回の論点において登場する社員は、会社に利益をもたらすような発明を生み出せる人なのですから、企業側と良い緊張関係のもとで、お互いにとって有益な結論を導くことも可能な気がします。
もちろん、不毛な契約交渉になる可能性もあると思いますが、それを少しでも減らしていく知恵が、(国ではなく)企業すなわち経営者と社員に求められているように思います。