2014年10月17日に開かれた(新)産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会の第9回の議事録が2014年11月19日にアップロードされました。
第9回議事録は、こちら


今回、事務局から「職務発明制度の見直しの方向性(案)」が示されました。
これは、これまでの議論を踏まえてどう見直していくかについての事務局としての案の骨子であり、今回の小委員会では、主にこちらが審議されました。

骨子の概要は、以下のとおりです。
(1)従業者等に対して、現行の法定対価請求権又はそれと同等の権利を保障する。
(2)政府は、法的な予見可能性を高めるため、関係者の意見を聴いて、インセンティブ施策についての使用者等と従業者等の調整(従業者等との協議や意見聴取等)に関するガイドラインを策定する。

※ ガイドラインは、以下の性格のものを想定する。
①研究活動に対するインセンティブは、企業ごとの創意工夫が発揮されるよう、企業の自主性を尊重する。
②業種ごとの研究開発の多様な実態、経済社会情勢の変化を踏まえる。
(3)職務発明に関する特許を受ける権利については、初めから法人帰属とする。

※ ただし、以下の点を考慮した柔軟な制度とする。
①従業者帰属を希望する法人(大学・研究機関等)の不利益とならないものとする。
②職務発明に関する適切な取り決めのない法人に対して特許を受ける権利が自動的に帰属することで、当該法人に所属する発明者の権利が不当に扱われることのないものとする。


先日の記事で紹介した大渕説、もとい平成26年2月に一般財団法人知的財産研究所から出された『企業等における特許法第35条の制度運用に係る課題及びその解決方法に関する調査研究報告書』の『B3-新日本型』と実質的には同じであると理解していますが、記述の順番が異なっています。
骨子において、最初に記述されているのは、「(1)従業者等に対して、現行の法定対価請求権又はそれと同等の権利を保障する。」という従業者等への配慮ですが、『B3-新日本型』は、「①特許を受ける権利は原始的に使用者に帰属。」という法人側(使用者側)への配慮です。

この違いは、これまでの議論を踏まえて、特許を受ける権利が原始的法人帰属になった場合でも、「発明者の利益が実質的に切り下げられないこと。」という従業員側の主張に配慮したことから生じた結果だと思います。
もちろん、産業界側も、「発明者のインセンティブ確保」は、「企業の競争力強化」の観点からも必要である、という立場(少なくとも表向きは、その立場)ですので、基本的には、受け入れられる方向性だと思います。

ただ、問題は、「何をもって『現行の法定対価請求権又はそれと同等の権利』と評価するかだと思います。
そして、やはり、今回の小委員会でもこの点が主な争点になっています。

〇土井委員 今回の制度見直しは従業者への利益の切り下げを目的とするものではないし、結果としてそうなってはいけないということはこれまでも確認してきました。そういう意味でも現行の法定対価請求権は維持すべきであると考えております。また、仮に現行の法定対価請求権ではなく、「現行の法定対価請求権と同等の権利」ということで権利の名称が変わったとしても、その性格は変わるものではないと考えておりますし、現行と比べて実質的に同等の権利が確保されるべきであると考えております。したがって、この(1)の表現というのは必ず残していただきたいと思います。(第9回議事録17頁)

土井委員のお立場(日本労働組合総連合会経済政策局部長)から発言の意図は分かっているつもりですが、そして、今後、詳細を議論するつもりなのかもしれませんが、「現行と比べて実質的に同等の権利が確保されるべき」ということを、具体的にどのようにお考えなのか気になりますね。
まず、「現行」というのが、平成16年改正前の特許法35条なのか、それとも改正後の特許法35条なのか?ということなのですが、議事録の16・30・39頁の発言から見ると、平成16年改正後の特許法35条を前提にしているようです。
つまり、これは、中村教授の青色発光ダイオード(404特許)に関する職務発明訴訟で、東京地裁が約600億円の一部請求として200億円を認め、最終的に東京高裁が約8億円(遅延損害金込み)で和解勧告をしたときの特許法(平成16年改正前)35条と実質的に同等ということではなく、平成16年改正後の特許法35条と実質的に同等と言っているということになります。
そして、小委員会の議事録を読む限りでは、平成16年改正後の特許法35条に基づいた職務発明訴訟は未だないとのことです(土井委員自身がそのように発言しています。(第9回議事録16頁))。

平成16年改正後の特許法35条は、法定の対価請求権が認められていますが、これによって具体的に対価が判断されたものがないにもかかわらず、それと「実質的に同等」という意味が私には良く分かりません。
要するに、「改正するな」と言いたいということなのでしょうかね?(そう言っていると思われる発言は議事録内にあります。)。

個人的な見解を言わせてもらいますと、本当に労働者代表という立場で小委員会に参加するなら、現行(平成16年特許法改正)より従業員有利になる対案を出してはどうでしょうか?
土井委員の対案の方が、「発明者のインセンティブ」が今まで以上に確保され、かつ、「企業の競争力強化」にも繋がる「Win-Win」になる(少なくともそう見える)、というものを出せば良いわけです。
知的財産戦略本部や知的財産推進計画が悪い、そこで改正と決まると、官僚の点数稼ぎのために改正しないということはできない、というようなことを言っておられる方もいるようですが、仮にそうだとしても決まっているのは改正するということだけで、改正の方向性や内容まで決まっていたわけではなく(実際に、当初産業界が想定していたような改正の方向性にはならなかったのですから)、議論の立て方を自ら2項対立にしてしまった時点で、綱引き状態となり、その交渉は力が弱い方が譲らざるを得ない落としどころに向かって行くわけです。
小委員会のメンバーを見た時点で、相対的に小委員会における自身の力関係は把握できるはずです。
こういうことを日本労働組合総連合会(経済政策局部長)に求める、というのは酷なんでしょうかね?

~ つづく ~