前回に続いて、2014年9月3日に開かれた(新)産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会の第8回の議事録についてです。
第8回議事録は、こちら


前回、今回の会合で見えてきたことは3点あるとして、そのうち1点目の今後の改正の方向性についてお話をしましたので、今日は残りの2つについてです。

その前に、議事録にもあるとおり、
「朝日新聞」が今朝の朝刊1面と6面に、こちらの職務発明に関する記事を出してございますけれども、これは率直に申し上げて誤報といっていいものでございまして、例えば政府が方針を固めたとか、方針転換をしたとか、特許庁は3日の特許制度小委員会で新方針を説明し、といったことが書いてございますが、これは全く根拠がなく、このような事実は全くございません(第8回議事録3頁)
やはり、『特許、無条件で会社のもの 社員の発明巡り政府方針転換』は、誤報だったのですね。

閑話休題。
残りの2点のうち、1点目。以下のとおり、改正の時期は、秋の臨時国会に改正案が提案される可能性があり、その場合、改正案の施行が来年になる可能性があるとのことです。
〇中野制度審議室長 今後のスケジュールについて、今、御質問が出ましたのでお答え致します。大体これまでの一般的な審議会の仕方としては、皆さんお忙しいですし、今度は制度設計というのも具体的に詰めなければいけないので、1カ月ぐらい間をあけさせていただければと思っておりまして、今は 10 月の半ばぐらいを目途に考えてございます。
〇萩原委員 当初、この秋の臨時国会というのが一つの話としてあったと思うのですけれども、10 月の中旬という話になるとそれはほとんど無理、そうすると、もし法改正ということになっても来年の通常国会という、そういう御認識の上でのスケジュールということでよろしいですか。
〇中野制度審議室長 必ずしもそうではございません。審議会としては 10 月の中旬に、次は可能であれば骨子案というようなことをお見せできればと思って、また検討したら論点が出てきてしまうとあれですけれども、さっき委員長からありましたように、加速的にやるようにという御指示もありましたので、急いでやりますので、10 月中旬に骨子案ということであれば、臨時国会も全く不可能ではないとは思っておりますが、そこのところはまだどこの国会に出すかとか、そういうことは決まってはおりません。(第8回議事録48頁)
ただ、この点については、10月17日に開催された第9回の会議で異なるスケジュール感が表明されているかもしれません。最近の国会の(複数の閣僚の辞任という混乱)状況を見ていると、来年の通常国会に提案され、再来年に施行という可能性が高い気がしています。

さて、個人的には、(いろんな意味で)一番興味深かったのですが、最後の3点目、知財法学者と民法学者の争いです。
〇井上委員 むしろ私は山本先生のお考えを伺いたいと思っております。山本先生が知的労力の成果について奪うことのできない権利があるとおっしゃるのは、例えば憲法上の基本権として何かあるというふうなお考えなのか、それとも自然権的なものでお考えなのか、あるいはその自然権が憲法上の基本権と評価されるとお考えなのか。山本先生は、民法と憲法の関係についてこれまで奥深い研究をされてきておられるわけですが、私は門外漢なものですから、お考えをお聞かせいただきたいと思います。
ただ少なくともいえるのは、大渕先生のおっしゃったことの繰り返しになりますけれども、特許あるいは知財の世界では、様々な類型の知的創作の成果のあらゆるものに対して権利が与えられるという考え方は採られていないことは実定法をみれば明らかであって、産業政策的な観点から保護対象が選別されています。これだけは確かだと思うので、このような実定法の現在の姿と、立法によって奪うことのできない「知的成果に対する報い」というお考えとの関係をぜひ教えていただきたいというところでございます。よろしくお願いいたします。(第8回議事録29-30頁)
知財法の学者から民法学者への質問ですね。
これを簡略化して2項対立的に説明してしまうと、産業界(知財法学者)から労働者(民法・労働法学者)への質問でもあります。
この説明は正確性にはかけると思いますが、分かりやすくするという意味では許される視点の立て方かと思います。
(2項対立的な問題の立て方については、小委員会で批判的に捉えられていますが・・・。)

これに対して、
〇大渕委員長 ごく簡単に。今の井上先生のはわかりやすかったので、今度はわかりやすくお願いします。(第8回議事録30頁)
早速、知財法学者の委員長(大渕哲也教授)から、民法学者(山本敬三教授)へのプレッシャーです(笑)。

〇山本委員 井上委員がお聞きになろうとされたような考え方、つまり発明をする人には知的な労働によって利益を受ける権利があり、それが憲法上も財産権であるという考え方からは、このような法定対価請求権を撤廃することとするならば、少なくとも憲法上疑義が生じると考える可能性もあるだろうと思います。しかし、それと全く同じではないとの考え方もあり得ます。それは、世の中の人々が、やはりこれは権利であって、奪うことのできないものであると受け止めているものがあるとするならば、それも憲法上の財産権というかどうかは別として、やはり奪ってはならない権利だと認められることもあるのだろうと思います。事務局がどのような意図でお書きになられたかわかりませんけれども、私なりの読み方をするならば、長年にわたって国が特許法を通じて一定の対価を取得できる権利があると認めてきた。このような権利が長年にわたって定着している。裁判例が出てきたのは比較的最近のことかもしれませんけれども、最高裁判例も、さまざまな条件を付け加えた上ですけれども、一定の権利があるということを正面から認めている。
このような状況下で、人々の中では、やはりこれは奪ってはいけない権利なのだという認識が深まった可能性があると思います。
そうだとするならば、B1型が特にそうなのでしょうけれども、それを完全に撤廃するというような立法を行うと、ここで書かれているような懸念がやはり出てこざるを得ないのだろうと思います。(第8回議事録30-31頁)


これに対する大渕委員長の発言が、結構な感じで・・・(笑)
〇大渕委員長 ありがとうございました。
今やB1を支持している人もあまりいないので、やや議論する気力がわいてこないのでありますけれども、要するに今の御趣旨は、B1だったらこういう問題が起きるということのようですが・・・、
知財法学者と民法学者の対立を通り越して、何か私怨でも・・・。
いや、もしかすると東大系法学対京大系法学の争い?などと個人的には思ってしまいました(苦笑)。

さて、このように言われてしまった山本教授、それでも大渕委員長の発言にもめげずなのか、踏まえてなのか、別の論点から議論を展開します。
〇山本委員 論点②が全く議論されないまま終わるのはまずいだろうと思って発言をさせていただきます。せっかく問題提起していただいているので、やはり議論すべきだろうと思います。
特許法上の法定対価請求権を撤廃するとどうなるかということですが、訴訟にまでなるのは、やはり非常に極端なケースで問題になりやすいのだろうと思います。つまり、一方の側が非常に悪質であるようなケースが訴訟となりやすい。そのようなケースでは、従業者に一定の救済を与えなければならないという感覚が生まれる可能性があるだろうと思います。
その際には、やはり民法の規定を使わざるを得ない。以前に、全部契約に委ねた場合には、民法 90 条の公序良俗違反に関する規定で有効・無効を判断することになるので、不安定になるということを申し上げたことがありますが、まったく規定が置かれないことになりますと、恐らく、民法の不当利得ないしは不法行為に関する規定によって一定の救済
を与えることが考えられるだろうと思います。先ほど申し上げましたように、これまで長期にわたって国が特許法を通じて一定の権利があることを認めてきた。そして実際に、目の前の悪質なケースでは、発明をした従業者の貢献が非常に大きいのに、何の報いもない状態にあるとなると、憲法は少し置くとしましても、何らかの民法上保護に値する利益が侵害されているという構成がとられる可能性があります。その上で、不当利得に基づく請求、あるいは故意・過失を認定して損害賠償請求が認められるという可能性があるように思います。
ただ、私は、これは望ましくない状態だろうと思います。といいますのは、そこでいう不当利得とは一体何か、その利得の算定をどうするのか、損害とは何か、損害の額をどう算定するかということを考えますと、容易に答えが出ない問題なのですが、しかし、訴訟では一定の解決を導かなければならない。これは非常に好ましくない状態でして、現行法では 35 条があるので、このような事態が生じてないともいえるわけです。
その意味では、改正を考える際には、これは民法に投げないでいただきたい。むしろ明確で安定的な結論が導かれるような制度を改正法にもおいても定めていただきたいというのが、②についての民法の専門家からの意見だということです。(第8回議事録39頁)
「改正を考える際には、これは民法に投げないでいただきたい。むしろ明確で安定的な結論が導かれるような制度を改正法にもおいても定めていただきたい」という発言の評価は、今回は保留させて頂きたいと思いますが、山本教授は、特許法35条を特許法上の法定対価請求権を撤廃するという方向で改正した場合でも、民法の不当利得ないし不法行為という方法で発明者の救済が図られるということが、そのお考えの前提にあるようです。

これに対して、別の知財法学者から突っ込みが入ります(苦笑)。
〇茶園委員 論点②について山本委員がおっしゃったことに対してですが、仮に現行の法定の対価請求権を撤廃するとした場合に、現在の従業者帰属のままであれば、従業者に帰属していた特許を受ける権利を使用者へ移転させますので、通常はそこで何らかの対価を払わなければならないと考えられます。現行法がそうですから。ですから、その場合に契約等で一切金銭を支払わないといった契約を定めたとしても、それが公序良俗違反等の様々な問題をはらむことになるであろうと思います。そのため、従業者帰属のままで法定の対価請求権を撤廃するということは、今以上に不明確性が発生しますから、望ましくないと思います。他方、法人帰属という制度に変えた場合は、そもそも特許を受ける権利は使用者に帰属するわけですから、これは論点①に関わりますけれども、仮に何らの請求権も認めないというようにした場合は、そこで話は終わることになるのではないでしょうか。
特許を受ける権利は原始的に法人に帰属するわけですから、そこで民法の一般条項等の問題は生じないのではないかと思います。
もちろんそのような制度改正がおかしいとかいうことで訴訟が起こされる場合があり得るでしょうけれども。(第8回議事録41頁)


たまりかねた民法学者は、とうとう言ってしまいます。
〇山本委員 特許法の枠内で考えておられるからそうなるのだろうと思います。特許を受ける権利、あるいは特許権は、確かに特許法の枠内での権利だろうと思います。私が申し上げているのは、これが唯一正しい答えではなく、争いがあると思うのですけれども、特許法以前に何か財産的な利益を受ける権利というものが観念される可能性がある。特に非常に悪質なケースだと、そのような利益が侵害されていると見る余地がある。それを不当利得の返還請求ないし不法行為に基づく損害賠償請求として認めていくということであって、特許法の世界で、特許を受ける権利が原始的に法人に帰属することになれば、従業者にはおよそ何の権利・利益もなくなるという考え方は、一つの考え方ですけれども、必然ではなく、そうでないからこそ論点①や論点②が問題になっているのだということを御理解いただければと思います。(第8回議事録41ー42頁)


しかし、多勢に無勢。
〇井上委員 手短に済ませますけれども、先ほど民法と知財法の関係ということで山本先生から御発言がありましたが、競走馬パブリシティ事件最高裁判決などもあり、知財法が実定法として認めてないものについて、民法上、不法行為なり何なりですんなり権利が認められるかというのはそう簡単ではないのかなという気がしております。
山本先生からは、長きにわたって実定法上、ある権利が存続してきた場合、その権利を保護すべきだという「社会の共通認識」が既に醸成されているから、その権利を奪うような法改正を行うことは簡単にはできなくなるというお話がありました。しかし、民法のような領域での慣習的な物権のようなものと少し違うのではないでしょうか。知財法の分野は産業政策的な観点から立法がなされており、改正を検討する審議会も民法を扱う法制審などとは、スピード感も、目的意識も相当違うようなに思います。そうしたことからもわかるように、知財法は、民法のような基礎的な法制度とはかなり性格が異なる分野です。
「社会の共通認識」を根拠に、ある時点で採用された特定の政策について、その後の政策変更の余地を狭めることには慎重であるべきなのではないかと考えています。。(第8回議事録41ー42頁)
ある意味、貴方の方こそ、民法という狭い世界に閉じこもっているのではありませんか?と。ちゃんと、最高裁の判例を読んでいますか?と。私には、かなり厳しい突っ込みに感じました。

そして、最後に知財法学者の大渕委員長から止めを刺されます。
〇大渕委員長 先ほどと同様に知財学者としては当然視されている話ですけれども、これは特許法の自由保障機能ともいわれていますけれども、特許法上、保護が与えられるという面と、特許法上、許容されているものは基本的にはパブリックドメインだから自由だということがありますが、余り軽々にではなくという御趣旨だと思いますけれども、特許法上保護されてないということは知的財産法的には、反面では、パブリックドメインであって自由にできるのが大原則ということですので、それとあまり異なることを言われるのは、私としても一言言わざるを得なくなるということであります。
それから、先ほどのように共通認識があるから法的レベルまで高められているというよりは、もう実態としてあるべきだからという議論だとわかるのですけれども、既にあるから既得権みたいと言われると、それも一法律家としてはやはり抵抗感があるので、その点だけ表明しておけばと思います。(第8回議事録43-44頁)


大渕教授のお気持ちはわかるのですが、立場上委員長であり、議長である大渕教授がここまで言ってしまうと、議論が続かなくなってしまうのではないか、ちょっと心配になってきました。
時間的な問題もあり、もうこの辺で終わりにしないと、臨時国会に間に合わない、ということで、委員長として議長としての役割を務めた、ということでしょうか。。。

いずれにしても、前回紹介したように、特許法35条職務発明規定の改正の方向性は、大渕説である『B3-新日本型』で固まった、ということになりそうです。
後は、ガイドラインの作成のみというところでしょうか。