今年の夏は、ありがたいことに、いろいろと本が読めました。
今日は、先日紹介した『技術法務のススメ-事業戦略から考える知財・契約プラクティス』に続いて、今年の夏に読んだ本の第2弾ということで、キャリアアップのための 知財実務のセオリー ―技術を権利化する戦略と実行― Practice of IP for career Dev. (ビジネスセオリー)
のご紹介です。


著者は、元ソニーのエンジニアで知財部勤務経験のある岩永利彦弁護士・弁理士です。
先日紹介した『キャリアアップのための知財実務のセオリー ―技術を権利化する戦略と実行― Practice of IP for career Dev.』の編集代表の鮫島弁護士と同じ、企業での勤務経験のある弁護士・弁理士さんです。

企業勤務経験があるというは、一般論として、企業法務知財のお仕事をされる弁護士さんや弁理士さんにとって、やはり強みなりますね。
企業という組織の実体を経験として知っているため、地に足がついたというか、企業法務・知財の悩ましさを知った上での方法論やアドバイスが非常にありがたいと思います。
先日も、ちょっと触れましたが、今の司法制度改革って、企業法務・知財のニーズという観点から考えたときには、方向性が間違っていると思います。あまり横道にそれてはいけないので、このお話はまた別の機会に。。。

さて、抽象的な話(と横道にそれそうな話)はこれくらいにして、本書の特徴的で、かつ、有益な点について具体的にお話をすると、まず1点目は、進歩性について、進歩性の基本的な考え方と具体的な進歩性の判断手順が、非常に分かりやすく、かつ、実務で使えるレベルで説明されていることです。
進歩性の判断手順のフローチャートなんかもあって、本当に使い勝手が良い本に仕上がっています。
この本で、進歩性に関する基本的なイメージを理解したうえで、実際にOJT等で進歩性の判断を行けば、効率的に進歩性の判断が(ある程度まで)できるようになると思います。
そして、2点目は、クレームチャートの作り方、使い方を、非常に分かりやすく、かつ、実務で使えるレベルで説明されていることです。
クレームチャートの作成の仕方に始まって、実務のどの場面でこのクレームチャートを使っていくのか、丁寧に説明されており、初心者でも分かるような内容の実務的な書籍は少ないように思います。
そもそも特許法に関する基本書や概説書だと、クレームチャート自体の説明がないか、あっても数行といったところではないでしょうか?(こういうのを見ると、学者と実務家の間には、やはり大きな違いがあることを実感します)。
また、本書では、一貫して「練習用箸」という発明のクレームを用いていますが、この発明が題材として良くできており、これが初心者でも発明、進歩性、そしてクレームチャートの作り方、使い方を容易に理解できるようにしていると思います。
これだけ具体的に説明して頂けると、知財部に配属された特許担当(パテントリエゾン)の新卒(新人)等に、説明する手間が省け、本書に書かれていることを共通認識(共通言語)として、実務を進められます。
会社(知財部)で、買っておいて良い本だと思います。お勧めですね。

ただ、これは、著者の方の責任ではないとも思いますが、「キャリアアップのための~」という枕言葉はどうなんでしょうね。
レクシスネクシスのビジネスセオリーシリーズには、他に株式会社ミスミグループ本社法務室ジェネラルマネジャーの瀧川英雄さんが書いた『スキルアップのための企業法務のセオリー』という本がありますが、この本と同じく「スキルアップのための~」という方が実体にはあっていると思います。
想定されている読者は、もともとは研究者等の技術職の方であって知的財産部に異動した方であり、そこで新しい知財という世界を勉強するための本、という設定です。
ですから、内容的には、そこそこの人数がいる知財部(おそらく大企業の知財部)に新しく配属された特許担当者のスキルアップのためのもので、特許権以外の他の知的財産権についてはほとんど記述がなく、知財全般を学ぶ本でもありません。
従って、これだけでは、キャリアアップは難しと思います。
それとも、研究者等の技術職の方が、特許を学ぶことで、キャリアアップに繋がる、という趣旨なのでしょうか?
まぁ、このお話は、タイトル云々ということで、本書の内容を損ねるものではありませんので、この点は誤解の無いように。。。

でも、やっぱり最後にもう一つだけ(苦笑)
これもタイトルネタなので、著者の方の責任ではないかもしれませんが、300頁中292頁が特許の話で、商標法・意匠法・不競法・著作権法の話が8頁しかないのに、『キャリアアップのための知財実務のセオリー』というのはどうなんでしょうか。
特許に偏り過ぎで知財権による事業の競争優位性が築けていない日本企業(電機メーカーだけ?)が多いことを考えると、知財=特許という偏った誤解を与えることは、やはり問題かと。。。
特許権・意匠権・商標権・著作権のそれぞれの権利の効果を十分認識し、それぞれ権利のメリット・デメリットを踏まえて、不競法や不法行為法で補強しながら、ビジネスや事業の競争優位性や差別化要因を知的財産法を利用して強化することが今の日本企業に本当に必要なことだと思っているので、その意味でちょっと残念です・・・。
まぁ、このお話も、、タイトル云々ということで、本書が特許担当者にとって有益な本であることを損ねるものではありませんので、この点は誤解の無いように。。。(笑)

<評価> ☆☆☆☆
(知財部門へ配属されたばかりの、特に技術者から知財部に異動したばかりの特許担当者向けの本として)

もし、仮に、書籍のタイトルが、『スキルアップのための特許実務のセオリー』だった場合(笑)
<評価> ☆☆☆☆☆
(知財部門へ配属されたばかりの、特に技術者から知財部に異動したばかりの特許担当者(パテントリエゾン)向けの本として)