『技術法務のススメ 事業戦略から考える知財・契約プラクティス』
今日は、内田・鮫島法律事務所の鮫島先生の編集による「技術法務のススメ-事業戦略から考える知財・契約プラクティス」の紹介です。
私が今年読んだ本の中では、今のところ、1・2を争う良書です。
BLJの「特集 法務のためのブックガイド2015」に呼ばれたら(笑)、この本をお勧めしそうです。


書籍の紹介の前に、私の職業欄に「法務知財部員」とかかせて頂いているとおり、私の職歴は、法務部 → 知財部 → 法務部知財部兼務 → 法務部 → 法務部知財部兼務という、おそらくちょっと変わった(?)ローテーションを経験しています。
というのも、法務部員と知財部員の仕事って、結構違いがありまして・・・。
法務部員や知財部員でもなければ、企業内において同じ法律系の仕事をしている同じような人たちと思われるかもしれませんが、実は、全くといっていいほど違います。
法務部員と知財部員の違いの話は、また今度することとして、結構違うことから、普通は法務部と知財部でローテーション(しかも行ったり来たり、また行ったり、挙句の果てには兼務なんて(笑))することはあまりないと思います。
このローテーションの良いところもあれば、もちろん、良くないところもいろいろとあります。
例えば、視野が広がるとか、法務と知財の両方の経験ができるというのは良い点ですが、それはそのまま専門性や法務としての経験値や知財としての経験値の不足に繋がるわけで。。。

ただ、私は、純粋に、この法務と知財が交錯する仕事が好きなので、あまり得とか損とか、強みとか弱みとかは気にしていません。
その理由は、こちらをお読みいただければと(笑)。

閑話休題。
さて、今日、ご紹介する「技術法務のススメ-事業戦略から考える知財・契約プラクティス」には、法務と知財をシームレスに融合し、戦略的なアドバイスを展開していく「技術法務」という概念を基に極めて実務的実践的なノウハウが書かれています。
もう少し具体的に説明すると、「技術法務」とは、
①技術を付加価値として事業を展開する事業体が、
②その事業を遂行するに当たって直面する様々な問題について、
③法務・知財をボーダレスに駆使するとともに、単に法的・知財的な視点のみならず、ビジネス的な観点から、
④当該事業体の経営者と議論し、アドバイスし、
⑤その事業の競争力を向上させるべく行う法律的な業務

これを弁護士さんにされてしまうと、企業内の法務部と知財部の存在意義がなくなる、そんな恐れを抱くような内容です。
特に、私のような職務経歴だと(苦笑)。
このようなお仕事をされる編集代表の鮫島弁護士は、1985年にフジクラにエンジニアとして入社後、多数の発明を生み出し、弁理士資格を取得したのちに、1992年に日本IBMの知的財産部に転職し、その後弁護士試験に合格、1999年に弁護士登録をして、現在に至っています。つまり、企業での勤務経験が11年あり、企業サイドの現場を知っているからこそできる「技術法務」というサービスなのだと思います。

話は、ちょっと横道にそれますが、日本版ロースクールって、鮫島弁護士ような弁護士を生み出すことも目的の一つとした制度を目指していたのではないのでしょうか?
鮫島先生のようなというのは、このように優秀な人という意味ではなく(もちろん優秀であるのはありがたいことですが)、20代前半で社会人を経験し、30代半ばくらいに働きながらでも2~3年きちんと勉強すれば合格するような(20代前半という記憶力の優れた時期に受験する方が有利になる暗記詰め込み型の試験ではない)司法試験に合格し、これまでの社会人経験と弁護士との専門性を同時にいかせる人材のことです。産業界が望んでいたのは、そんな法曹ではないでしょうか。
さらにいうと、旧来型の訴訟中心の弁護士業務ではない、訴訟という争いごとを顕在化させるのではなく、法律を戦略的に組み込むことで収益を上げるなど、これまでにないニーズを顕在化させることのできる弁護士です。


さて、本書に戻って、第1章 「技術法務のススメ」と第2章 「知財戦略を実現する」第1の「知財戦略 セオリ編」は、技術が競争力や差別化の源泉になっている会社の法務部員は必読です。
こういった発想は、純粋に法務の仕事だけをしていると、身につかないだけでなく、そもそも知らない、ということもあると思います。
さらに、第三章 「勝つ! リーガル・プラクティス」では、「特許ライセンス契約」「秘密保持契約」「共同開発契約」「共同出願契約」「ソフトウェアライセンス契約」「ソフトウェア開発契約」について、事業の競争力を向上させるという観点から有益なノウハウが多数書かれています。
例えば、「共同開発契約」に関して、競業禁止規定について、かなり詳細に、かつ、独占禁止法との関係も踏まえて、どこまで契約書に書くべきかが記載されている本はなかなかないと思います。
知財関連の契約では、高度な事業戦略を支える契約条項を盛り込めているか、そしてその条項が独占禁止法違反とならないかどうかが、事業戦略ひいては経営戦略に資する法務部、知財部の極めて重要な仕事だと思います。
そして、本書は、そのような意識をもって仕事に取り組んでいる法務部員と知財部員にとって非常に有益な本だと思います。
ここまで書いている実務家の本は正直少ないですね。。。でも、このレベルが本当は必要だと思うのですが・・・。

最後に。。。
是非、今度は、知財=技術(特許)だけではく、意匠権、商標権、著作権、不競法と、全ての知的財産について、「法務・知財をボーダレスに駆使する」「法務と知財をシームレスに融合し、戦略的なアドバイスを展開していく」、『知財法務』の本が出ることを期待しています。
レクシスネクシス・ジャパンさん、よろしくお願いします。

<評価> ☆☆☆☆☆
(技術が強みの企業の中級以上の法務部員向け、又は、技術が強みの企業で契約を担当する初級から中級の知財部員向けとして)