基本的には、前回と同じような話なのですが、外国(米国)企業と契約交渉をしていて感心することがあります。
今回は、そのときのお話と、対策についてです。


当社が、とある外国企業の販売店になるというビジネスの契約交渉において、外国企業から契約期間を自動更新無しの1年として欲しいと言われました。
もちろん、当社としても、初めて取引をする相手方ですし、外国の企業ですので、この条項に同意します。
また、こちらから販売店になりたいと話を持ち掛けたケースは別にして、たいていの場合、当社がマンパワーの無い外国企業に代わって外国企業の製品やサービスを売るわけですから、その他の条項については、当社に有利な契約条件とすることが多いと思います。

その後、契約の有効期間が切れる数カ月前に、次回の契約条件について交渉の場が持たれることになりました。
両社とも、基本的には、このビジネスに満足をしており、契約を継続したいと思っています。
この時の契約交渉では、これまでのビジネスで明らかになった運用上の問題、例えば、ビジネスの実体に契約書を合わせるような修正をする、ということが多いと思います。
ところが、たまに保証条項や瑕疵担保条項を当初の契約条件よりも外国企業に有利に修正するという契約交渉がなされるときもあります。
「1年近くビジネスをしてきて品質等に特に問題がなかったのだから、条件を緩和してほしい。」と言った感じです。
もちろん、売れ行きによっては、その条件を飲むこともありますし、価格交渉とバーターにして、その条件を飲むこともあります。
そして、今回のお話のキーポイントである契約期間について、外国企業から3年を契約期間とする条件が提示されました。
こちらとしては、1年近くビジネスをしてきて、特に問題もなく、当社のお客様からも好評なため、3年契約に同意したとします。。。

さて、次回の、3年後の契約交渉ですが、どちらが有利でしょうか?

契約期間の3年が満了する1か月前に、外国企業から新しい契約書が送られてきました。
これまでよりも、当社への販売価格が上がっており、かつ、いくつかの契約条件が先方に有利に変更されていました。
そして、一言、基本的には、変更は不可であると申し添えられていました。。。
まず、前提として、このビジネスは毎年5%以上の売上増となっており、当社としては、今後も継続したいビジネスであったとします。
仮に上記のような前提であったとしても、法務サイドとしては、当然受け入れらない条件、ということになるのですが、実は、この受け入れられないの温度感がビジネスサイドと結構異なることがあります。
それは何故かというと、法務サイドの頭の中に事業計画(収支計画)が無く(または、あったとしても売上責任を負っていないため事業計画(収支計画)への責任意識が希薄で)、ビジネスサイドには、それに対する意識があることが原因です。
もちろん、ビジネスサイドとしても、当社の販売価格が上がったことは、受け入れられない条件ではありますが、若干の値上げであれば、営業努力で解消できる可能性があるのに比べて、もし契約自体がなくなってしまったときには、このビジネスに関する今期の売上が0(ゼロ)になってしまうからです。
そうなると、ビジネスサイドとしては、当社への販売価格の値上がり分を少しでも抑える方向で交渉するため、過去4年間の販売でリスクが顕在化しなかった他の契約条件を受け入れて、それをバーターとして値上がり分の価格交渉に移ります。
そして、たいていの場合、綱引きをした結果、当社への販売価格の値上がり分について、若干当社の要望が受け入れられて、例えば、10%の値上げが5%でまとまったりします。
当社のビジネスサイドとしては、5%の値上げであれば、顧客に価格を転嫁できるかもしれないし、営業努力でカバーできるかもしないので、Win-Winの交渉ができたと喜びます(苦笑)。

先方は、当社への価格以外の契約条件を有利に変更し、かつ、もともと5%の値上げで、事業計画(収支計画)的には問題がなかったのにもかかわらず・・・。

少し発想を転換してみましょう。
取引自体が無くなって困るのは、当社だけなのでしょうか?
実は、事業計画(収支計画)という観点から見た場合、取引先も当社と同じ状況のはずです。
かと言って、担当レベルで、「そんな条件なら、もう取引はしない。」とも言えず、また、部課長レベルでも通常はチキンレース(お互い取引終了に向かって猛スピードで突っ走ること)は避けるためゼロサムゲームはせずに、結局取引先から出された条件を如何に受け入れ可能な条件に戻すかという不利な立場から条件交渉をすることになってしまいます。

これを避けるためには、3回目の契約交渉時に、こちらから「当社への販売価格の値下げと契約条件の自社有利変更を先に申し入れる。」という方法が考えられます。
こうすることで全く逆の立場で交渉を進めることができます。
ところが、自動更新条項に慣れ親しんでしまっている日本企業は、ビジネスが上手く行っているのであれば契約更新時には何もしない、ということが多いです。
私の方から、「今度の契約更新の際に、値下げ交渉をしてはどうですか?」と振っても、「何故?上手く行っているのに?(値下げなんて切り出して、関係を悪くしたくない。。。)」というビジネスサイドの方は、未だに結構います。
中には、腑に落ちない顔をしつつも、「言っていることはわかるけど、なんて交渉すれば良いの?」と聞いてくれる方もいます。
さて皆さんなら、どのようなアドバイスをしますか?

私は、次のようなアドバイスをすることが多いです。
「年々売り上げが拡大しています。今年は前年比で5%の売上増を見込んでいます。是非とも、この目標を達成したいと思っているので、少し販促活動をしたいと思います。そのための経費を捻出するために、当社への販売価格を○%下げて頂けますでしょうか?下げて頂いた分は、基本的に販促費に回し、売上を増加させたいと思います。そうすることで当社経営陣に貴社が当社にとって重要なビジネスパートナーであることを認識させることができ、貴社の担当をさせて頂いている私にもメリットがありますし、貴社にとっても損な話ではないと思いますが、如何でしょうか?」
仮に、もっと強気な交渉ができるのであれば、「当社は、年々売り上げを拡大させています。今年も前年比で5%の売上増を見込んでいます。是非とも、ボリュームディスカウントをして頂けないでしょうか。例えば、当社への販売価格を○%下げて頂けますでようか?」
これを取引先に受け入れて頂けなくても、続いて「それでは、前年比で5%未満の売上増を達成した場合は、ボリュームディスカウント○%、5%以上の場合ボリュームディスカウント○%というのはどうでしょうか?」
といった感じです。
最悪、全く譲歩してもらえなかったとしても、おそらくこれまでと同様の条件で契約が継続することになるだけだと思います。
そして、最後に「分かりました。今回は諦めます。ただ、今度の契約交渉時には、改めてご検討頂けますでしょうか?」とダメ押しして、次回の契約交渉も、こちらから申し出ることで引き続き有利な立場から契約交渉を始めることができる可能性が高くなると思います。

こうすることで、値下げ交渉に巻き込まれず(仮に巻き込まれてもこれまでと同じ契約条件またはほぼ同じ契約条件となり)、事業計画を達成しやすい契約交渉ができるようになります。
というわけで、是非、事業計画や収支計画を意識して、事業計画や収支計画の実現を支援する契約書を作れる法務部員を目指しましょう(笑)。