本当は、別のエントリーをする予定でしたが、いろいろと考えさせられることがあって、エントリーの順番を変更しました。

というわけで、今日は『企業法務部&知的財産部の存在意義と役割」という、かなり大上段なお話で(すみませんで)す。


何故、今日このような記事を書こうと思ったのか?というと、まぁ、いろんな考え方や価値観があっても良いかな!?と思うことがあり、せっかくの機会なので、こんな考え方や価値観もあるよ、ということを書いておこうかな、と思ったからです。

では、早速、企業法務部&知的財産部の存在意義と役割について。
結論としては、企業法務部は法律や法制度を使って、知的財産部は知的財産法や知的財産制度を使って、定性的な観点からは『企業が世の中で実現したい価値が実現されるようにすること。』、定量的な観点からは『企業の経営計画(ないしは、事業計画)が実現されるようにすること。』が存在意義であり役割だと思っています。

理念的には、定性的な観点も、定量的な観点も、基本的には実現できたのか、それともできなかったのか、判断ができますし、できなかった場合は、その原因が法務部や知的財産部の仕事内容にあるのかどうかを判断することもできます。
もちろん、「理念的」にと書いたとおり、実際には、実現できなかった原因が法務部や知的財産部の仕事内容にあったかどうか分かりにくい場合はあります。

しかしながら、以下のように分かりやすい場合も多々あります。

1) 新規事業について法律上(独禁法、下請法、景表法、個人情報保護法、知的財産法、労働法、刑法、各種業法etc)の違法性ないしリスクについて、問題は無いと答えたにもかかわらず結果的に違法となり、新規事業が中止、その結果、事業計画ないし経営計画が未達になった。

2) 新規参入の際の競合分析において、競合の強みが知的財産権等によって保護されているか調査をせず、また、自社の強みが知的財産権によって保護されるか確認をせずに参入して、競争優位を築けずに価格競争に陥り、その結果、事業計画ないし経営計画が未達になった(または、事業撤退となった)。

3) 上記1または2について、そもそも法務部や知的財産部が関与する、または事業部から法務部ないし知的財産部に相談する仕組みが整っていなかった。

4) 1の逆パターンとして、法務部ないし知的財産部が誤って違法(又は侵害)でないものを違法(又は侵害)と評価し、事業部が法的リスクを回避するために、あるビジネスを実行しなかった、または中止し、その結果、事業計画ないし経営計画が未達になったが、他社が同じことを行い、合法であることが判明した(前提として、客観的には、グレーゾーンではない場合)。

5) 一定の法的リスクを織り込んで事業を進めた際に、当初見込んでいた法的リスクが顕在化し、かつ、リスクコントロールに失敗したため、(和解交渉や訴訟の結果が)想定の範囲内に収まらず、事業部、法務部ないし知的財産部の年度予算を超えるコストがかかり、その結果、事業計画ないし経営計画が未達になった。

6) 新規ビジネスであり、当初3年間は赤字、仮に4年目に(単年度)黒字化ができなかった場合は、5年目に撤退するという事業計画であったが、4年目に黒字化できず、5年目に撤退しようとしたところ、契約書がこの計画を織り込んでおらず契約上損害賠償責任を負うことなく撤退できなかったため、予想外の出費が発生し、その結果、経営計画が未達になった。

また、あまりないことだと思いますが、
7) 株主総会や取締役会等の機関法務に瑕疵があり、やり直しになり、余計なコストがかかり、経営計画が未達になった。

なお、個人的には、次の8)のケースも分かりやすい場合に含めたいかと・・・(次の悩ましいケースに分類した方が本当は適切かもしれませんが・・・。)。

8) ベンチャー企業や中小企業とのリスクがある取引において、契約書上、保証条項(第三者の知財権の非侵害保証条項を含む)や損害賠償条項のみならず違約金条項を入れたが、現実的な金銭による回収可能性の検討は行わなかったところ、リスクが顕在化してしまい、かつ、金銭による損害の回復ができず、その結果、事業計画ないし経営計画が未達になった。

悩ましいケースとしては、
9) 取引内容に、自社に経験がない、または、経験の浅い業務(債務)の履行が含まれていたにも関わらず、契約書上取引相手の損害賠償請求や瑕疵担保請求等に対して制限をかけることができず(かつ、保険等の代替案やその他のリスクヘッジ策も提示できず)、実際に債務不履行が生じ、赤字事業となり、その結果、事業計画ないし経営計画が未達になった。

10) 1)と4)の中間のようなパターンで、法務部ないし知的財産部が法的リスクを過大に評価してしまい、事業部が法的リスクを回避するために、あるビジネスを実行しなかった、または中止し、その結果、事業計画ないし経営計画が未達になったが、競合他社が同種同規模のビジネスを行い、現時点まで、違法との結論がでておらず、得られた可能性のある収益が得られなかった。その結果、事業計画ないし経営計画が未達になった。

11) 10)のケースにおいて、後日参入することとなったが、参入企業が増えて社会問題化し、結局違法となり、その結果、事業計画ないし経営計画が未達になった。。。

12) BtoC取引で、法律上違法性はなかったため、事業部の施策に問題ない旨回答したが、顧客に不評で炎上し、ビジネス自体を中止することになり、その結果、事業計画ないし経営計画が未達になった。
・・・・・このような観点から法務部や知的財産部の仕事を整理すると他にもいろいろとあると思います。

上記の場合は、売上責任を負っているビジネスサイド(事業部)が最終的な判断権限を持っていることを考えると、法務部や知的財産部に責任はないと言ってしまうこともある(むしろ多い?)かと思います。
建前としての責任論は、ビジネスサイド(事業部)が責任主体ですので、本来法務部ないし知的財産部に責任はないと思いますが、かと言って、全く責任がない、という感じで言い切ってしまうと、それはそれで度が過ぎる、つまり、法務部や知的財産部が単なる評論家になってしまい、「言うべきことは言った、あとはよろしく。」みたいなことになるのも、それはそれで違うかな、と思います。
そういう意味では、正しい判断をさせる責任が、企業法務部ないし知的財産部にはあると思います。
すくなくとも、社外の弁護士や弁理士といった各種の社外専門家と異なり、自分が所属している組織であり、お給料も頂いているのですから(会社の業績と個人のお給料は連動しているのですから。たぶん・・・。)、この「正しい判断をさせる責任」は、企業法務部や知的財産部にはあると思います。
この点が、企業法務部や知的財産部と社外の弁護士さんや弁理士さんとの大きな違いではないでしょうか。

つまり、企業法務部や知的財産部の存在意義と役割とは、法的に正しい判断をすることではなく、経営戦略ないし事業戦略を達成できるように、判断権者に法的な問題について正しい判断をさせること、と言い換えることができると思っています。
従って、法的な問題について判断権者に正しい判断をさせるために、必要なときに必要な範囲で、法的に正しい知識を持ち合わせていればよく、それは自分自身でも、他の法務部員ないし知的財産部員でも、社外の弁護士さんや弁理士さんといった専門家でも良いと思います。この点は、組織毎に組織としての成長と適材適所のバランスを考えながら、対応すべきことだと思っています。
もちろん、日常的に発生する問題で、スピードが要求されるものであれば、自分自身が法的に正しい知識を身につけた方がよい場合もあるでしょうし、そもそも他の法務部員ないし知的財産部員や社外の弁護士さんや弁理士さんの発言が理解できないのは問題ですし、発言の正しさを(ある程度)検証できるような知識や能力は必要です。
しかしながら、何でもかんでも知っていないといけないと思って、あれやこれやと知識を得ることに時間と労力を使うことは(本当の天才は除いて)やめた方が良いと思っています。
特に、法務部門や知的財産部門で役職が上がって管理職になっていく方は、あれやこれやと知識を得ることに時間と労力を使うことは止めるべきだと思っています(もちろん、ある程度は、必要ですし、2つ3つの分野で秀でていることは、いろいろな意味で必要だと思いますが。)。
管理職になったからといって、すぐにこの点の意識や発想を変えるのが難しいのは良く分かっているつもりです。ただ、それでもやはり意識と発想の転換が必要です。
そうしないと、ほとんどの場合、法務部ないし知的財産部の組織力が弱くなっていってしまうと思うからです。
(このお話は、また別の機会にできればと思っています。)。