前回に引き続き、第7回(新)産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会議事録からです。
一連の議事録を読んでいて、なるほどね、と納得したことがありました。


それは、後藤晃 政策研究大学院大学教授の次のような発言です。
○後藤委員 例えば、社会的に国全体にとってそれは非常に大事なことだからやれというのであれば、それはそれで国が関与する立派な理由になると思いますけれども、もしそうであれば、企業にそれをやらせるのではなくて、国が何か報奨金を払うということもあり得るわけです。(第4回議事録25頁)

○後藤委員 国の競争力に貢献した、産業の発展に貢献したという話がさっきあったのですけれども、もしそういう国の発展に貢献したから何か御褒美を与えるというのであれば、これは前にも申し上げたことですが、それは国が表彰したり、賞金を上げたりすべき話で、それを企業にかわりにやらせるというのはおかしな話ではないかと思います。(第5回議事録25頁)

○後藤委員 この制度を検討するときにぜひとも考えるべきなのは、長期的な視点に立って、どういう制度にすればイノベーションが一番進むのかという視点から考えていただきたい、ということです。今の制度を変えると、誰が得して誰が損するかという話ではなくて、20 年とか30 年の長期的な将来を見渡した上で、どういう制度が一番望ましいのか。
<中略>
イノベーションというのがいかに大事かということを、釈迦に説法かもしれませんけれども、よく考えた上で、イノベーションにかかわった人たちには十分に報いることは当然のこととして必要なことであろうと思います。
<中略>
企業が自主的にいろいろなインセンティブ策を講じるということで、それでも足りなければ国が表彰制度をすべきだということを私は前から言っているわけですけれども、この前ちょっと人に教えていただいたことで、そういう制度が実は日本には既に存在しています。私の言っていることは決して突飛なことではありません。原子力基本法の19 条に、「政府は、原子力に関する特許出願に係る発明又は特許発明に関し、予算の範囲内において奨励金または賞金を交付することができる。」というふうに書いてあるんです。
これ実際どう運用されているかよくわかりませんけれども、こういうことが既に存在しているわけですから、全然日本の法体系なり行政の中で、異質なものを提案しているわけではないということを御理解いただきたい。
もう一つ付加的な情報としては、ヨーロッパ特許庁で、これは皆さん御存じの方が多いと思いますが、Inventor Award というのをやっていて、これは発明者の世界のオスカーだと言われているそうですが、最近、初めて日本のデンソーの技術者の方が、二次元のバーコードを開発した方たちがもらわれたそうで非常に大きな話題になっています。EPOの場合はお金が全然出ていないかもしれませんけれども、そういうこともあります。日本でも、皆さん御存じの発明協会でそういうことを行っているわけですから、こういうやり方も現実のものとして、案を考えるときには検討の中に入れていただきたいと思います。(第7回議事録27頁)


少し長くなりましたが、後藤教授のご意見を私なりに要約すると、日本が国際競争力をつけるために、政策的にイノベーションを生み出す必要があるなら、その報奨金の支払い義務を企業にだけ負わせるのでは、政策としては不十分ではないか、ということだと思います。
そして、このような考え方は決して突飛なことではなく、実際に、原子力基本法19 条で、「政府は、原子力に関する特許出願に係る発明又は特許発明に関し、予算の範囲内において奨励金または賞金を交付することができる。」とされている、そうです(実例が、原子力基本法というのは気になりますが・・・。)。

いずれにしましても、国を挙げて、イノベーションが生まれやすい環境作りが必要ということが重要であることには変わりがないと思います。

最後に、これまでの議論を踏まえて現時点での私個人の見解としては、「(研究という)業務」と「(特許権を与えられるレベルの)発明」を切り分けて、そのうえで、発明の対価というか報奨金は、結局のところ、出願書類作成にかかる労務の対価だけと考えて、相当の対価を算定することとし、この算定基準と支払いの基準を明確化した社内規程を作成することを条件に、特許を受ける権利を原始的に法人帰属とする、というが良いのではないかと思っています。
出願書類作成にかかる労務の対価であれば、基本的には、給与を時給に換算して、出願書類作成にかかった時間を掛ければ、相当の対価を算出することができますので、予測可能性は高まると思います。
そして、このような相当の対価を支払わなかった場合や算定基準と支払いの基準を明確化した社内規程を作成しなかった場合は、現行の特許法35条を適用するとします。

この考え方は、第2回の議事録にあった北森教授の以下の発言に、かなり影響を受けています。
特許の価値というのは変わっていくということです。発明したときは大したことなくても、え、これがこんな価値生むのということはよくあり得ること。そういったことも少し御考慮いただければと思います。
それから、一般論ですが、ここの(この委員会の)議論の中で例えば研究者がインセンティブとして問題を解決することが第一だと。それは研究という業務に対してはそうかもしれません。だけどそれを特許、発明に関するインセンティブと混同してはいけない。研究という業務と発明というものに対して、ここではクリアに分けて御議論いただかないと、時々一緒になっているように思います。(第2回議事録38頁)

「発明」だけで、当然にビジネスが上手くいくわけではありません。
そもそも、「発明」が「特許権」にならなければ、権利行使もできません。
また、どんな形でも「特許権」になれば、必ずビジネスに有益な権利行使ができるようになるわけでもありません(ここは、特許担当の知財部員や弁理士さんの腕の見せ所でもあります)。。
議事録でも議論されていた、オープン&クローズ戦略という観点から、「発明」を「ノウハウ」として秘匿する場合もあるでしょうから、「ノウハウ」の場合は「特許権」になった場合に比べて、相当の対価の算定はさらに困難になります。

イノベーションとは、特許法上の「発明」や「特許を受ける権利」を生み出すことだけから生じるのではなく、広く研究によって生まれてくる新たな知見や技術的思想から生じるものです。イノベーションという観点から、特許法上の「発明」や「特許を受ける権利」に焦点を当てた議論をするのは、視野が狭すぎる気がします。
そして、働きやすい環境や自己実現できる環境は、何も研究者に限った話ではなく、働く人全てに通じるものですし、「特許を受ける権利」の譲渡対価が適切かどうかだけで、研究者の労働条件や労働環境がより良いものになっていくと考えるのは、短絡的であり、早計ではないでしょうか。