2014年4月14日に開かれた(新)産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会の第3回の議事録が本日アップロードされました。
議事録は、こちら

今回は、日本経団連、日本知的財産協会、電子情報技術産業協会、製薬協の産業界4団体のプレゼンからスタートです。

産業界4団体の主張は、いたって明確。
①特許を受ける権利を原始的法人帰属
②発明をした従業員の対価請求権の廃止
の2点です。
理由というか、主張の根拠は、
①については、従業員帰属の問題点として、従業員による特許を受ける権利の二重譲渡の問題への解決策になる、
②については、発明者のみならず事業に貢献した者に、貢献度に応じた報償を行うことができ、企業の実情、実態に応じた最適なインセンティブ施策をとることができる、
ということでした。
①については、営業秘密の漏えい問題、特に、退職(転職)に伴う営業秘密の漏えい問題と同様に、転職の際に、転職先の企業へのお土産として、職務発明にかかる特許を受ける権利を転職先の企業に自由発明であると偽って譲渡し、転職先企業が先に特許出願をしてしまう、という問題です。
②については、インセンティブの原資に限りがある以上、法律で一定の原資の振り分け(発明報奨金等の支払いの法的強制)があると、その分だけ、企業の実情、実態に応じた最適なインセンティブ施策をとることができなくなる、という問題です(他に、特許法上の発明者だけ、優遇される不公平が生じ、チームワークが乱れる、という問題点も指摘されていました。)。

産業界の主張がこのようなものになるというのは、想定の範囲内でした。
ただ、本小委員会の結論もこの産業界の主張と同じである、と個人的に思っていた私には、産業界4団体のプレゼン後になされた多数の質疑応答は、想定外でした。

○茶園委員 先ほどのプレゼンテーションについて2点お聞きしたいことがあります。1点目は今、土田委員がおっしゃられた2つの問題の前半の方に関わるもので、二重譲渡問題についてですけれども、この問題が存在していることは十分に理解できます。しかしながら、仮にこの二重譲渡のような問題が起こっても、その解決方法として法人帰属にすることに実効性があるのでしょうか。法人帰属にしたとしても、相手方の特許出願が、いわば盗まれたものだということを証明しなければなりません。自分の職務発明はこういう発明があったということは証明できても、相手方の出願に係る発明が独立の発明ではなくて盗まれたものだということを証明しなければ、法人帰属にしても結局法的に何らかの請求もできないのではないかと思うのですけれども、それはなかなか現実には難しいのではないでしょうか。難しいから対応策を講じる必要はないと言っているわけではないのですけれども、実効性という点についてどのようにお考えかというのをお聞きしたいと思います。
2点目は、これまた先ほど土田委員がおっしゃられたことに関係するのですけれども、現在は発明者に対して対価請求を認めていますから、発明者が100 だとすると、発明者ではない人はいかにその人が発明が行われることに寄与したとしても法的にはゼロということになります。先ほどの御説明では、今の発明はかなりチームワークで行われていて、特許法上の発明者以外の人も相当にその発明に関与している場合があり、発明者だけに対して請求権を認めるとチームワークを阻害するということでした。そうだとしますと、先ほど述べられた、企業による自由なインセンティブ施策をとることができるようになったとして、そして、特許法上の発明者ではない人についてもインセンティブ施策を行うとしますと、その場合には特許法上の発明者というのはどういう位置付けになるのでしょうか。ワン・オブ・ゼムという、そのチームの中の一人ということになるのか、もちろんそケース・バイ・ケースで場合によって様々となると思いますが自由なインセンティブ施策における発明者の位置付けについて具体的なお考えがありましたらお聞かせください。(議事録18-19頁)


○土田委員 先ほどから大渕委員長が遠回しにおっしゃったり、私も遠回しに言っていたのですが、議論が進んだのでコメントしますと、一方で現行法があるのに対して、今日の産業界のペーパーは、180 度変更せよという話ですよ。法人帰属にして、発明者の請求権も廃止するという提案です。しかし、もう一つ、先ほどから議論が少し進んできて出てきているのは、その間の中間的な制度設計はないかということです。例えば法人帰属にした場合にも、先ほど言ったとおり発明者の報償請求権あるいは大渕委員長の言われているような発明規程作成の義務づけといった幾つかの制度設計はありうると思うのですね。すべて今日の産業界の御提案にのって報償請求権の概念もなくした場合には、さっきから話が出ているとおり人事考課の世界になります。人事考課は、井上委員がおっしゃったように基本的には企業の裁量権なのであって、その場合は従来の堅牢な特許法の規律はなくなるわけですから、発明者の処遇は後退すると思います。今、日本も雇用の流動化の社会になって、発明者が処遇に不満であれば退職の自由があるという御発言がありましたが、日本はそういう世界ではないと思います。少なくとも、そうあるべきかもしれないけれども、現実の世界はそうではないわけです。
そうすると、現状起きている問題点、先ほど言われたような、もう少し自由度のあるインセンティブ制度の施策をさせてほしいとか、発明者・非発明者間のアンバランスの問題があるのはよくわかるのですが、それに対する法的規律の在り方をどう考えるかはまた別の問題だと思います。そこを全くフリーハンドにしてしまっていいのかというと、少なくとも従業者の処遇は後退する可能性が高いわけです。しかし他方で、企業の自由なインセンティブに任せると、先ほど長澤さん(和田委員代理)がおっしゃったように、アンバランスの問題は確かに是正されるわけですね。そうすると、企業の柔軟な特許戦略を認めつつ、同時に、発明者に一定の処遇をするという立法政策、すなわち、現行法を100%維持するか、それとも完全に廃止するかという選択肢とは別に、中間的な立法政策があると思います。先ほど私が言った幾つかの提案はそういう政策です。ただし、この提案に対しては先ほど御発言があったように、発明者の報償請求権を廃止して、人事考課ないし賃金に全部解消してしまう政策を採用したとしても特許法上そこに何か問題があるのかという疑問が生じます。つまり、発明者に対して賃金とは別に特許法独自の保護を与えるべき合理的理由があるのかどうかという問題で、この点は確かに議論しなければいけないと思います。その点が重要で、企業の現実に抱えている問題とかアンバランスの問題はよく理解できますけれども、そこから一足飛びに現行法をすべて廃止するという結論を導くのはやはり乱暴だと思います。ですから、特許法あるいは職務発明の趣旨なり存在意義ですね、そこのところを議論した上で結論を出さないといけないと考えています。(議事録28-30頁)


○土井委員 御質問、ありがとうございます。私どもも、発明者一人だけがよければいいという考えではなく、チームワークをきちんと維持するためにもチームで行ったものに対してしかるべき処遇をするべきであることは理解はしております。しかしながら、権利の帰属とチームとしての不公平感をなくすことは別の問題だと思っております。たしかに、法律ではその発明者のみを保していますが、現行制度の下でも、企業の経営判断によりチームに対してきちんと処遇を行えるような制度設計をするという方法もありますし、また、法的に保護する発明者の定義を広げるという議論もあるのかもしれません。いずれにしても、法人帰属としなくても、今の制度を維持しつつ、チームに対して適切な処遇ができる方法を考えることはできると思います。(議事録36頁)


一連の議論の流れを聞いて(読んで)いて思ったことは、まず、今回の第3回特許制度小委員会は、今後の小委員会の流れを決める重要な会議であったような気がしています。
また、個別の話に関しては、産業界4団体の主張のうち、「①特許を受ける権利を原始的法人帰属として、これにより従業員による特許を受ける権利の二重譲渡の問題を解決する。」というのは、大企業寄りの意見が中心になりがちな産業界にあって、大企業よりも中小企業に益の多い主張だと思いました。
そもそも、中小企業では、知的財産(発明)取扱規程のようなものがない企業が多いと思います。仮にあっても従業員がした職務発明が会社にきちんと届けられているのか、疑問です。
したがって、「発明」とは何かを理解していない会社が、そもそも二重譲渡に気がつくのか?という問題があると思います。
つまり、本来発明として特許権をとることができるものが、いろいろな形で社外に流出してしまっているのが、日本の中小企業の実態ではないかと思っているということです。
したがって、このような実態がある中小企業の方が、特許を受ける権利を原始的法人帰属にするメリットが大きいのではないかと思いました。
もちろん、特許を受ける権利を原始的に法人帰属としたとしても、公知技術化による技術の社外流出は避けることはできませんので、中小企業経営者の意識改革は必要だと思います。
また、確かに、特許を受ける権利を原始的に法人帰属としたからといって、特許を受ける権利の二重譲渡の問題の解決が容易になるかというと、茶園教授の言うように難しいところがあると思います。

次に、②発明をした従業員の対価請求権の廃止の主張ですが、これは、先日少しコメントをしたとおり、産業界の主張には、ちょっと賛同できないところがあります。
私自身、理念系としては、産業界の主張に賛成です。
ただ、本当に、世界に誇れるような具体的な制度と仕組みを作り、できるだけ公正・公平・透明に運用できるのか?というと甚だ疑問なわけです。

「会社独自のイノベーションを起こすための制度をつくるために、今回のこの職務発明につきましては、いわゆる企業で生まれた発明につきましては法人帰属にしていただいて、それに対する報酬については企業の経営者に日本の産業界のかじ取りを任せていただきたい。(第1回議事録30頁)

と言われましても、「はい、そうですか。それではよろしくお願いします。」と言えるような実績はないのでは?だから、優秀な社員を引き留められず、海外から優秀な社員を集められず、厳しい競争を強いられているのでは?と疑問に思うわけです。

それなら、むしろ、法律で一定の権利を発明者等に与えた方が納得感も高まりますし、そのうえで、各企業が、そして経営者が、その会社らしい社員のインセンティブとなる制度を設ければ良いように思います。
まぁ、確かに、極めて個人的なことですが、「相当の対価」の算出の手間とか、不安定さとかは、是非軽減されるような方向性で法改正があると嬉しいのですが・・・(笑)。