2014年4月28日(月)の日経新聞の夕刊に「日本企業の休眠特許活用 米大手、売却元に収入分配」という記事がでています。
この記事、以下のような書き出しで始まります。


米特許管理会社大手のアカシア・リサーチが日本企業の抱える休眠特許の活用に乗り出す。電機・通信分野を中心に使われていない特許を買い取り、国内外で技術の供与先を探して利用料を獲得。売却元の企業には長期間、収入の一定割合を分配する。米大手の進出で休眠特許の活用に弾みがつきそうだ。

「米大手の進出で休眠特許の活用に弾みがつきそうだ。」
なんて、ずいぶんと呑気な記事ですね(苦笑)
まるで、アカシア・リサーチ社が、日本企業の休眠特許活用を活性化するための救世主のような書き方です。

しかしながら、このアカシア・リサーチ社、私も一度、米国訴訟で被告側に立たされたことがありますが、Patent Assertion Entity(=PAE)、いわゆるパテントトロールです(これまで、Non-Practicing Entity(=NPE)と呼ばれることもありましたが、最近米国では、大学等のNPEと区別するために、PAEという言葉を使うことが多くなっていますので、ここでもPAEとします。)。
それも、米国のPAEを代表するような企業です。
つまり、米国企業の米国特許権だけでは飽き足らず、米国企業から日本企業に特許権買取りの選択肢を増やしてきたということです。
日本企業の米国の休眠特許を使って、実際にビジネスを行っている企業に対して高額の和解金を含むライセンス契約を締結して収益をあげることを主な目的として訴訟を起こすというのが、PAEの本来的なビジネスです。
したがって、アカシア・リサーチ社を、日本企業の休眠特許活用を活性化するための救世主のように書くのは、ちょっと誤解を招く書き方かと。。。
まさか、日経新聞の記者は、本気でアカシア・リサーチ社のようなPAEをお手本にして、特許権の利活用を促進しようと考えているわけではないと思うのだけれど。。。

ところで、この話について、2013年にオバマ政権がPAEを問題視してから米国においてPAE対策の法案が成立に向かっており、米国ではPAE企業の市場が縮小する可能性があるため、日本企業の日本国内の休眠特許の買取りを目的にしている、つまり市場を日本に変えてきた、という見方をしている人もいるようです。
ただ、今回のアカシア・リサーチ社の話は、私には、日本企業が持つ米国休眠特許を買い取るという、買取り先の選択肢を増やしたという話であって、日本に市場を変えた、つまり日本でPAEを行うという話ではないように思います。
というのも、米国とは訴訟制度が異なり、日本では、ディスカバリー(証拠開示制度)がなく、故意侵害時の三倍賠償制度もありませんので、PAEが手持ちの証拠がなくともディスカバリーで相手方の証拠収集ができること、ディスカバリーにかかる費用の負担や敗訴時の三倍賠償をレバレッジに和解に持ち込むのは、米国に比べて難しいと思うからです。
確かに、米国企業以上に訴訟慣れしていないのが日本の企業です。日本や米国で知財訴訟を経験しているような一部の企業(そのほとんどが大企業だと思いますが。。。)を除いて、訴訟経験はおろか警告状を受け取ったこともない中小企業では、知財への意識・認識が低く、警告状を受け取ったときに、その対応に右往左往し、訴訟を避けるために和解金を支払い、ロイヤリティを支払うライセンス契約を締結することがあるかもしれません。
しかしながら、米国の弁護士と米国の公認会計士を揃えるアカシア・リサーチ社が日本においてPAEとして活動するという、そんな不慣れなことをするとは思えませんし、日本の訴訟制度から考えて、現状あげている収益に見合う成果を日本で上げることはできないと思います。

それにしても、この日経新聞の記事には、もう少し(それこそ注意喚起するような)書き方もあったのではないかな?と思ってしまいます。
日本のビジネスマン&ウーマンには、日経新聞を鵜呑みにしない、それこそ日経新聞の裏を読むくらいの力が求められているのですね(苦笑)

~ つづく ~