先週の月曜日(2014年3月17日)の日経新聞の法務面に次のような見出しの記事がありました。

「インフラ輸出、契約力が重み」

渋谷高弘編集委員の記事は、次のように始まります。

大手ゼネコンやプラント建設会社などのインフラ関連企業が海外事業のリスク管理に苦戦している。途中で追加工事などが必要になり、契約内容や代金回収を巡ってトラブルとなる例が目立つ。日本が交通機関や発電所といったインフラ輸出の拡大を目指すなか、関連企業も法的リスクを減らす「契約力」をいかに高めるかが問われている。

この記事の内容をあまり一般化するつもりはありませんが、それでも今回の記事の内容から、日本企業の法律や契約に対する認識、ひいては企業法務に対する認識をある程度理解することができる気がしています。
そして、この記事に書かれていることが、英語ができるとかできないとか、そういうこと以前に、日本企業が世界で戦えない原因のひとつになっているような気がしてなりません。

例えば、
<受注優先がアダ>
受注側はどう対処すべきか。海外のプラント実務に詳しい千代田化工建設の大胡隆・法務セクション部長は「リスク管理にたけた欧米企業は受注時、発注側を怒らせるほど粘り強く契約見直しを折衝する。残ったリスクは迷わず契約金額に上乗せする」と話す。

という話がでてきます。

まぁ、たいていの法務部員は、『リスクを取った分は、当然契約金額に計上すべき』と考えますし、そのように事業部にアドバイスをすると思います。
でも、このアドバイス、ほとんどの日本企業において、(ほとんど)意味がないと思います。
というのも、今回ご紹介した記事にも<受注優先がアダ>と書かれているように、日本企業の事業部(ビジネスサイド)は受注するため、詳細な条件を決める前に価格を決めてしまうことが通常だからです。
さらに、プラント建設などの継続的な取引であれば、取引の途中で価格を変更できるような契約条件を付けるように、アドバイスするのが普通の法務部員だと思いますし、実際に、そのようなアドバイスはなされていたと思います。

しかしながら、大手ゼネコンやプラント建設会社が、
設計変更の場合、価格面の合意を待たずに施工する義務が契約に盛りこまれていた。

となってしてしまうのは、法務の契約力が低くて問題になっているのではなく、事業部等のビジネスサイドのみならず経営者までもが、法律や契約を軽視し、そして法務を軽視しているから生じてしまう問題だと思っています。
(法務の能力が低くて、そもそもアドバイスできないとか、重視されるようにアドバイスするのが能力の高い法務である、という両極端の話は、ここでは一旦、おいておきたいと思います。)。

そして、その原因の多くは日本社会における権威主義・形式主義・前例踏襲主義とそれに伴う思考停止だと思っています。
でも、個人的には、原因の一部は日本の(大手)企業の法務部にもあると思っています。

その原因とは、具体的には、以下のようなことです。
1 取引の実態にあっていないにも関わらず、口座開設のために、(自社に有利な)取引基本契約の締結を強制すること。
2 自社に有利な契約書を雛形化し、事業部に対して、雛形どおりの契約書を締結する場合は、法務部門を通さずに事業部の判断のみで契約を締結可能とすること。
3 ビジネス上の力関係を前面に押し出し、まずは自社に有利な契約書の雛形は変えられないの1点張りで、取引先に雛形どおりの契約書の締結を強要すること。

上記のいずれもが、通常は、契約業務の効率化という観点から社内において正当化されるため、このようなことを行う企業は多いと思います。
もちろん、気持ちは、わかります。
事業部から遅い遅いと言われる(大手)企業の法務が、そのリスクが現実化するリスクはさておき、自社の法的なリスクをヘッジ(かつ、法務が責任逃れ)をするために、予め自社に有利な契約を変更不可で、相手方に提示し、相手方が受け入れてくれれば、それはもう事業部のみならず法務も楽ですよね。。。
そして実は、その取引先となる中小企業の担当者も、取引先の大手企業の担当者が『この契約書を締結しないと取引できない。』とか、『この契約書を締結しないと取引しない。他の会社は、みんなこの契約書を締結している。』と言われてしまうと、目先の売り上げをあげるために(この契約条件が後に自分の首を絞めることになることに気が付かず、もしくは、仮に気が付いていても、先のことはそのとき改めて考えればよいと、戦略なく先延ばしして)、法務に対して『取引先は、変更不可と言っているので、このまま契約を締結したい。』とか、『取引先は、変更不可と言っているので、(自分は読んでいないけど)法務が確認してどうしてもこの契約条件では、会社として契約が締結できないというところがあれば、指摘して下さい。上長には、法務がダメと言っているので、この取引はできなくなりました、と報告します。』みたいな(苦笑)ことが始まると、日本の社会全体が不幸ですよね。
これでは、いつまでたっても日本企業の契約力はあがりません。
日本国内では、安易に流れ形式的に契約書を締結するだけで、契約力を培う訓練の場が極端に少なくなってしまっているのですから。

世界を見据えて、法務だけでなく事業部等のビジネスサイドが契約力を磨くためにも、日本国内の契約交渉でも一方的なリスクヘッジのための契約書をビジネス上の力関係にものを言わせて締結するのではなく、お互いに譲れるもの、譲れないもの、譲った場合のバーターとなる条件の設定、譲った場合の本当のリスクの認識と、そのリスクヘッジ策およびリスクコントロール策を真剣に考えていかないと、日本全体の契約力は上がっていかないように思います。

ちなみに、私の個人的な経験からは、大手ゼネコンや電機メーカー系は、ほとんど交渉になりません(交渉させてもらえません)。もちろん、たまたま契約先の企業が交渉を受け付けない会社だった可能性もありますが。
それから、私の個人的な経験だけでなく、おそらく皆さん同じ認識だと思いますが、日本で一番交渉にならない(交渉させてもらえない)のは、官公庁ですよね。
なんとかなりませんかね、官公庁(苦笑)
日本企業の国際競争力強化のため、産業振興のために、まずは、経産省あたりからリスクをとって交渉するというのはどうでしょうか?(笑)