少し前の話になりますが、BUSINESS LAW JOURNAL(ビジネスロー・ジャーナル)2014年 2月号の「特集 法務のためのブックガイド2014」にインスパイアされて(笑)、私も「特集 法務・知財のための特許法関連ブックガイド2014」をしてみたいと思います。


まずは、新年度も間近ということで、4月から法務ないし知財に配属される新入社員および新人向けの基本書から。

【法務部員向け特許法関連基本書】
法務でも技術を扱う会社の場合は、契約や侵害対応、訴訟等で特許が関連してきますので、最低限の特許法に関する知識は必要だと思います。
そこでお勧めなのが、こちら。



元裁判官で、現在は早稲田大学大学院法務研究科教授の高林龍先生の「標準特許法 第4版」です。
この本の何が良いかというと、全352頁の書籍なのですが、裁判官ご出身ということもあってか、手続き関連が「第4章 特許取得手続」の20頁と「第5章 特許行政訴訟(=審判)」の30頁の合計50頁あまりと、最低限必要と思われる事項に絞られている一方で、侵害論は「第2章 特許権侵害」の62頁と「第6章 権利侵害救済手続」の32頁の合計94頁とほぼ2倍です。
また、契約業務に必要な基礎的知識である実施権関連は「第3章 特許権の利用」の25頁と、出願関連の「第4章 特許取得手続」の20頁より多いです。
まさに、法務向け(笑)
もちろん、この本の良さは、このような構成だけではありません。
今でこそ、知財法の教授である高林先生ですが、裁判官ご出身という経歴を遺憾なく発揮されております。というもの、知的財産権法と「民法との関連」「民事訴訟法との関連」「行政事件訴訟法との関連」「労働法との関連」「独占禁止法との関連」「条約との関連」と題して広く関連する法律・法制度との関わりについても説明をしてくれています。
法務部の仕事は、試験とは異なり、当たり前ですが出題範囲が決まっている、などということはありません。したがって、特許法は理解しているけど、民法はちょっと、とかいう事態になってしまうと、仕事では使えません。具体的な事実を目の前にして、まずは関連する、または関連しそうな法律を思い浮かべられなくては良い仕事ができません。
さらに本書では、「特許侵害訴訟の実務」という節において、紛争時に起こる出来事が具体的に記載されています。
(本案)訴訟と保全処分はもちろんのこと、訴訟提起前の活動として、「1 侵害品に関する情報の入手および分析・検討」「2 警告状の発送」「3 事前の話合い(和解交渉)」「4 証拠保全手続」というながれが説明されており、また、訴訟提起後に行われる「技術説明会」についても「マークマン・ヒアリング」に触れながら説明されています。

これらは、法務部員として、特許に関する仕事に携わるときに必要なことばかりです。
というわけで、法務向けの特許法関連の書籍としては、この本が一番良いと思います(他の法律も勉強しなければならない法務部員の方にとっては、他の本はいらない、といってもいいくらいです(笑))。

<評価> ☆☆☆☆☆ (特許法を初めて勉強する人(知財部員を含む)や法務部員向けとして)

【知財部員向け特許法関連基本書】
続いては、知財部員向けの特許法関連のお勧めの基本書ですが、知財専門職の知財部員にも上記高林先生の「標準特許法 第4版」は非常にお勧めな書籍ですが、それだけでは手続き面の記述が足りません。
その意味で、手続き面も含めてバランスが良いのはこちら。



中山信弘先生の「特許法 第2版」です。
高林先生の「標準特許法 第4版」よりも、約200頁多くなっており、単に手続き面が充実しているだけでなく、学者の本らしく理由付けを含めた理論面が充実しています。
「特許政策と競争政策の調和ある発展」を目指して、権利者と社会のバランスを重視する観点からきちんと特許法を論じており、企業の知財部員ですと中山先生と価値観が合う合わないということがあるにしても、一読いやいや何度も読む価値がある本だと思います。
また、本書のようないわゆる法律書らしい法律書に対する好き嫌いはあるとは思いますが、それでも本格的に知財を、そして特許権に関する仕事する人には、必読の書だと思います。

<評価> ☆☆☆☆☆ (特許関連業務に従事する知財部員で初級から中級者まで幅広く)

なお、出願手続きさえしていれば良い、という一昔に多かった知財部員とは異なり、創造、保護、活用のすべての段階で活躍できる人材を目指す必要のある新しい時代の知財部員には、中山先生の「特許法 第2版」だけでなく、やはり高林先生の「標準特許法 第4版」も読んでおくべきかと思います。

そうは言っても、特許関連の仕事をする知財部員には、理系のそして法律を勉強したことがないという人もいると思います。
そういう知財部員の場合、中山先生の「特許法 第2版」は読みにくい場合もあると思います。
そういう方向けには、先ほど紹介した高林先生の「標準特許法 第4版」をベースに次の書籍で手続き面を補充するという方法をお勧めします。



弁理士であり島津製作所知的財産部のパテント・マネジャーである江口裕之先生の「改訂4版 解説 特許法」です。
この本は、著者の江口先生ご自身が元々は技術者であり、法律の世界とは無縁で、その後特許の世界に入ったという経験を踏まえて、言葉で表すと難解でとても同じ日本語とは思えない特許法の条文を、図表を用いて分かりやすく解説しており、手続き部分もの含めて非常にわかりやすい良い本になってます。
それでけではありません。図表だけが売りならば、それこそいわゆる予備校本がもっとも得意とするところでしょうが、本書は、随所で「実務の話」というコーナーがあり、知財部等で実務を行う人にとって有益な情報が記載されております。

ただ、本書は774頁もあり(苦笑)、4月から法務ないし知財に配属される新入社員および新人向けの基本書というには、大部すぎますので、必要に応じて辞書的に使いつつ、ある程度経験を積んだ中級者が通読するのに適していると思います。

<評価> ☆☆☆☆☆ (特許関連出願手続き等の業務を行う中級者向け)