前回の続きです。
アメリカ著作権局のMaria A. Pallante局長の声明

Statement of Maria A. Pallante Register of Copyrights United States Copyright Office before the Subcommittee on Courts, Intellectual Property and the Internet Committee on the Judiciary

において、次のような提案がなされています。


I think it is time for Congress to think about the next great copyright act, which will need to be more forward thinking and flexible than before.

私は、これまでよりも先見の明のある柔軟な、次世代の素晴らしい著作権法について議会が考えるべきときであると思います。

The list of issues is long: clarifying the scope of exclusive rights, revising exceptions and limitations for libraries and archives, addressing orphan works, accommodating persons who have print disabilities, providing guidance to educational institutions, exempting incidental copies in appropriate instances, updating enforcement provisions, providing guidance on statutory damages, reviewing the efficacy of the DMCA, assisting with small copyright claims, reforming the music marketplace, updating the framework for cable and satellite transmissions, encouraging new licensing regimes, and improving the systems of copyright registration and recordation.

論点のリストは、以下のとおり長いものになります。
①独占権の範囲の明確化、②図書館やアーカイヴのための例外規定や制限規定の見直し、③孤児著作物への取り組み、④印刷物を読むことができない人たちへの利便性の向上、⑤教育機関へのガイダンスの提供、⑥適切な場合の起こりがちな付随的複製に関する除外規定、⑦執行に関する規定のアップデート、⑧法定損害賠償に関するガイダンスの提供、⑨DMCAの有効性の再検証、⑩少額賠償請求(small copyright claims)の支援、⑪音楽市場のリフォーム、⑫有線送信及び衛星送信の枠組みのアップデート、⑫新しいライセンス制度の促進、そして、⑬著作権登録・記録システムの改善です。

上記の声明で挙げられたこれらの論点に関する、より詳細なお話は、こちらの論文にあります。
興味のある方は、是非、ご一読されることをお勧めします。

このようにアメリカ著作権局のトップ自らが、特定の業界や利益団体に影響されることなく(私には影響されていないように見えます。)、ハリウッドとシリコンバレーと米国民の利益のいずれもが増大するように配慮しながら、21世紀のあるべき著作権(法)制度を考え、表明することができるところに、アメリカの凄みというか、健全さを垣間見た気がします。
日本において、どのようにしたら Maria A. Pallanteさんのような人が、著作権行政のトップに立つことができるのでしょうか。
ちなみに、 Maria A. Pallanteさんは、George Washington University Law School (J.D.), 卒です。
ロースクール卒業生の活躍の場(仕事)は何も法曹だけではない、という良い(アメリカ)の例ですね。


ところで、話は変わり(戻り?)ますが、ここでも著作権登録・記録システムを使っての著作権(法)制度の改善が提案されています。
for example, by reverting works to the public domain after a period of life plus fifty years unless heirs or successors register their interests with the Copyright Office.

例えば、著作権者の遺族や相続人がその利益を著作権局に登録しない限り、著作者の死後50年間の経過により著作物をパブリックドメインとする方法があります。

つまり、著作権保護期間を一律著作者の死後70年が経過するまでとはせずに、著作権登録がなければ著作者の死後50年が経過するまで、という制度にすることを提案しています。
Maria A. Pallanteさんの提案は、私の案とは異なりますが、著作権登録制度と著作権の存続期間を関連付けて、著作者の死後70年が経過するまで著作権を与える著作物と、そうでない著作物を作り出すという点では一致しています。
特許権や意匠権といった他の創作型の知的財産権と異なり、著作権には権利付与のための審査がありません。
創作性の高低は問わずに、基本的には創作性のある表現であれば著作物として著作権で保護されます。
それが例え、幼稚園児が書いたお日様の絵だったとしても。著作者の死後50年が経過するまで。
それでも、これまでは弊害はほとんどない、と考えられてきました。何故なら、そのような著作物を利用したいと思う人はいないから、という理由が挙げられたりしています。
しかし時代は変わり、インターネットの発展に伴い一億総クリエーターと言われる時代が到来しました。
これまで、ある意味プロフェッショナルの世界にのみに適用されてきた著作権法が、ほとんど全ての人々に、家の外はもちろん家の中でも関係してくる時代となり、利用したいと思わなくても、技術の進歩を享受していくなかで利用せざるを得ないような場合も生じてきました。


以上を踏まえて、個人的な見解をまとめると、既述のとおり、一定の条件付きで、著作権の存続期間を著作者の死後70年にしても良いと思います。しかし、それは全ての著作物に認められる利益ではなく、それだけの価値のある著作物のみが享受できる利益であり、すべての著作物が享受すべき利益ではないと思います。