2014年2月4日発売予定で、まだ発売前の書籍ですが、数年内に自社の知財戦略を再構築することを考えているため、今年は特に知財戦略関連の書籍をできるだけ読んでおこうと思い、購入予約しました。


詳細な書評は、読み終わってから行いたいと思いますが、今日は、この本を購入しようと思った理由についてお話したいと思います。

著書の小川紘一氏は、東京大学政策ビジョン研究センター・シニアリサーチャーです。
私が小川紘一氏を知ったのは、東京大学政策ビジョン研究センター知的資産経営研究講座『AdobeのPDFに見るソフトウェアビジネスの知財マネージメント』という論文がきっかけです(著者は、小川紘一氏の他に特許庁の高都広大氏と北村学氏で、共著です。)。

この論文では、Adobe社のPDF事業を題材に、どのようなビジネススキームを構築し、そのビジネススキームの背後にどのようなビジネスモデルがあり、そしてどのような知財マネージメントがあるのかを検証しています。
私自身、PDFはよく使っていますし、それがAdobe社のものであることも知っていましたが、Adobe社が以下のような会社であることは知りませんでした。

『PDF で有名な Adobe Systems 社は、オープンなグローバル市場で圧倒的な競争優位を構築して きた。特に、2004 年から急成長に転じ、2008年の売上げが 2004 年の倍以上の 35.8 億ドルと なった。粗利率は常に 90% 前後であり、営業利益 も平均して 30% を誇るなど、世界のソフトウェア企 業の中でマイクロソフトと並んで最も利益率の高い 企業の一つと言われる。』

知財戦略とは結局のところ、「利益率を高めるためにある」と思っている私にとって、このデータは非常に興味深いものでした。

そして論考は、(1)PDF事業の概要(PDFとその市場の概要説明)から始まり、(2)知財マネージメントと続きます。
この(2)知財マネージメントにおいて、①特許権を起点とした PDF 仕様の拡張制限、②著作権を起点とした PDF 仕様の拡張制限、という2つの知財権から知財戦略の検証が行われていきます。
具体的には、PDF仕様の拡張、つまり、技術進化の方向性や改変の方向性をAdobe社が合法的に独占する仕掛けを 形成し、そしてこれが PDF市場で大量普及と高収益とを同時実現させる基本スキームになっているのです。
小川紘一さんによれば、このスキームは、ソフトウエアビジネスで成功した他の多くの事例にでも共通して観測されるものであるとのことです。
そして、これをオープン国際分業型の経営環境の中の知財マネ ージメントと定義すれば、日本のソフトウエア産業が国内の特殊市場から脱してグローバ ル市場へビジネス展開する上で極めて重要な役割を担うのではないか、という提言を行っています。
この論文の展開と検証自体良いものだと思いますが、この論文で解き明かされていく、Adobe社のビジネスモデルとそれを支える知財戦略は非常に素晴らしく、Adobeという会社はよく考え、考え抜いてビジネスを行っていることに驚かされます。

この論文の要約版は、IPマネジメントレビューの第4号に載っています。


また、IPマネジメントレビューの第2号には「巻頭言 知財マネージメントが主役になる時代の登場」を、


IPマネジメントレビューの第11号には、特集 「ICTと知的財産」において、「知財マネージメントが主役になる時代の登場 ~オープン&クローズの知財思想が必要となった~」を書かれています。


というわけで、『オープン&クローズ戦略 日本企業再興の条件』は、これまでも知財戦略に関する興味深い論考をされている小川紘一シニアリサーチャーの最新刊ということで、とても期待しています。