前回、知的財産教育協会の中小企業センターについてご紹介した際に、あわせて「IPマネジメントレビュー」についても簡単に紹介しました。
今回は、その『IPマネジメントレビュー 第9号』のご紹介です。


今日現在の最新号は、第10号なのですが、第10号の紹介は後日にするとして(たぶん(笑))、今日は、特集で『中小企業経営と知財戦略ポイント』を組んだ『IPマネジメントレビュー 第9号』。

特集は、2つの記事で構成されており、ひとつは、中小企業向けの特許事務所の所長さん(弁理士)のインタビュー記事で、もうひとつは、株式会社エンジニアの社長さん(中小企業経営者)のインタビュー記事です。

まず最初の橘和之所長の記事には次のようなことが書かれています。

「中小企業は大企業のように何百件、何千件とは出願できません。虎の子の1件が全て、といったところもあります。たった1件ですと、それをもってして参入障壁を作るとか、ライセンスで収益を上げるということは、実際上かなり困難です。したがって、中小企業の活用の仕方は、大企業とは異なります。」

そうですよね。知的財産および知的財産権に関心の高い経営者のいる中小企業であっても、資力の点から、そう何十件も出願できないと思います。そもそもそんな予算がありません。。。
したがって、大企業のような知財戦略(権利化戦略)がとれないというのは、全くそのとおりだと思います。
では、どうすべきか?というと・・・

残念ながら、守秘義務の関係か、橘さんへのインタビューでは、これ以上具体的な中小企業の知財戦略に関する話はでてきませんでした。

これに対して、次の株式会社エンジニアの高崎社長のインタビューでは、より具体的な話が紹介されています(株式会社エンジニアは、作業用工具の開発・販売を行っている、従業員数30名の会社です)。
ここでは、MPDP理論というものが紹介されていますが、このMPDP理論とは「M(マーケティング)、P(パテント)、D(デザイン)、P(プロモーション)」の4つの要素が大事で、このうちのひとつでもかけると、ヒット商品はでない、という高崎社長のこれまでの経験則から名付けられた理論です。
これだけ聞くと、当たり前ではないか、と思われる方は結構いらっしゃると思います。
確かに、理論としては当たり前です。
でも、これを本当に行っていますか?と問われると、これをきちんと行っていると答えられる企業は、中小企業はもちろんのこと、大企業でも少ないのではないでしょうか。

もちろん、このような理論を行う上で、(株)エンジニアには、中小企業ゆえの強みもあると思います。それは、従業員数が30名という小規模な会社だということです。小規模だからこそ、社長に強い意志があれば、このような理論を実際に行っていくことができるのだと思います。
他方で、中小企業ゆえの弱みもあると思います。例えば、ある商品を開発・販売する際に、MPDP理論を実際に行うためのノウハウをもった従業員がいない、といったことです。
これに対する高崎社長の答えは明確で、『「自社でできないところは外部のリソースを活用してお手伝いいただく」ことが大事だと思います。』と回答されています。
そして、
『「MPDP」のどこかに「これが自分(=自社)」というように、当てはめられる強みがあるはずです。』
『足りないところは、外部リソースを最大限活用して当てはめる。』
と回答されています。

良いですね。社長がきちんとここまで考えて、社内に向けて情報発信ができれば、企業は強くなっていくように思います(あっ、もちろん、経営って、これだけで決まるものでも、できるものではないと思っていますが。。。(苦笑))。

ただ、『新製品開発における初期段階で、他社の権利侵害にならない方向性を現場単位で導きだせるようになりました。新製品開発の中盤では、特許、商標、意匠、不競法など、どの部分を「権利化」して、どの部分を「ノウハウ(営業秘密)」にし、どの部分を「標準化」するかなどの知財戦略が、社内の会議でできるようになりました。」とも高崎社長は回答しています。

これが本当だとすれば(もちろん疑っているわけではなく)、非常に優秀な従業員が揃った素晴らしい企業であり、やはり強い企業が育っているのだと思います。

私の所属している会社の至るところで、社員達が、このような会話や会議を行っていたとしたら・・・。
かなりすごいことになりそうです。
というか、私が率先して、頑張らないといけない?!(笑)。


最後に、以下、本号の目次です。

CONTENTS
■ 巻頭言
・中小企業・小規模事業者における知的財産権の管理、活用に関する今後の期待
中小企業庁長官 鈴木 正徳

■ 特別寄稿
・商標制度の国際比較( 1 )
ユアサハラ法律特許事務所 パートナー弁理士 青木 博通

■ 特集「中小企業経営と知財戦略のポイント」
・中小企業における知財活用の実態と、今なすべきこと
~現場を知り抜いた専門家へのインタビュー~
一燈国際特許事務所所長 弁理士 橘 和之

・中小企業における知財戦略対策の秘訣
~数々のヒット商品を生み出している経営者へのインタビュー~
株式会社エンジニア 代表取締役社長 高崎 充弘

■ 連載「知的財産管理技能士のための会計学講座」
・第 4 回 会計における世界の潮流ってなんだろう?
早稲田大学 商学学術院 准教授 山内 暁

■ 知的財産アナリストレポート(Vol.3)
・ショートアニメに関する動向分析
第一期知的財産アナリスト養成講座(コンテンツ)修了生

■ 研修レポート
・第 9 回定例研修「不正競争防止法の基礎と今日的課題」、特別研修「日米欧中に対応した 特許出願戦略と審査対応実務」、特別研修「中国での知財リスクと対応策」レポート、メ ンバー紹介
研修委員会

■ 交流会レポート
・第 8 回学習交流会レポート、メンバー紹介
交流委員会

■ コラム「一期一会」
・第 5 回 新米国特許法適用出願は日本企業にとっては有利
米国特許弁護士 服部 健一

■ 知財関連省庁からのお知らせ
・平成 24 年の税関における知的財産侵害物品の差止状況
・知財管理組織等を用いた知的財産の適切な管理について
・人材を通じた技術流出の実態と対策~平成 24 年度調査研究から~
・知的財産教育協会からのお知らせ
・読者アンケート