昨日発売されたばかりの『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』のご紹介です。
一言で感想を言ってしまえば、とても良い本です。ウェブサービス関連の利用規約を作る人はもちろんですが、そうでない方でも、利用規約作成や契約業務を行う方にはお勧めできます。
どのように良いかというと、企業法務という実務においてとても有用かつ有益な本です。
それもそのはず、本書は3名の方の共著ですが、その全員が企業法務という実務の本質を理解された上で執筆されており、(契約業務に携わる企業法務の方にとって)ここまで良い法律書というのは、なかなか無いように思います。


本書をお読みいただければ、執筆者の方々全員が企業法務の経験者であり、それもかなりの経験を積み、実力を備えた方々であることが容易に分かると思います。

たとえば、第1章において、利用規約の役割、つまり、もっとも多くその効果を発揮する場面が訴訟ではなく「クレーム対応の際」であることを指摘しており、第2章の『トラブル回避のための注意点と対応策』は、企業法務の実務において発生しうる問題が網羅的に挙げられた上で(これは本当に難易度が高い仕事です!法律だけを知っていてもできません。)、訴訟ではなく「クレーム対応の際」に利用規約がどのように使用され、効果を発揮するかを、丁寧に説明しています。

少額課金となることが多いウェブサービスでは、訴訟になってまで紛争解決が行われることはほとんどなく、むしろ、クレーム対応がもっとも重要な『利用規約』が使われる局面となります。
したがって、クレーム対応に失敗した際の「炎上」や、たとえ「炎上」はせず一見クレーム対応に成功したかのように見えて、その実多くの顧客を失うことが、ウェブサービスというビジネスの本質的リスクであり、その点を注意点としてきちんと明らかにした上で、対応策が書かれている点は、本書の優れた点であると思います。
また、194頁以下の「おわりに」には、企業における法務の役割と、あるべき経営(者)やウェブサービスの責任者の姿、つまり、「②サービスのありのままの現状と、将来のビジョンを、できる限り教えてほしい」といった本質的な話が書かれている点も、本書が企業法務実務において、本当に有益な書籍であることを物語っていると思います。

このような思考に基づく法務業務というのは、何もウェブサービスの利用規約にだけ特有の話ではなく、企業法務における契約法務や法務相談においても応用可能であり、やはりこのような応用性の高い本書を執筆することができたのは、企業法務実務の現場にいる方々のなせるわざかと思います。
そういう意味で、先日ご紹介した「ソフトウェア取引の法律相談」も良い本だと思いますが、法律事務所の弁護士の方々が執筆されているため、本書のような思考方法や視点が欠けており、そのため『ソフトウェアの取引に関する契約や法律問題をできるだけわかりやすく説明することを目的として執筆した。同時に,本書は,ソフトウェアを題材としつつも,あらゆるビジネスにおいて必要な「契約」一般についての解説本になることも意識して執筆した。』としたことが、かえって、どっち付かずで中途半端な印象を与えてしまったことと対象的な気がしています。

なお、個人的には、利用規約は利用規約としてしっかり作成しつつも、ユーザーにとって提供を受けるサービスがどのような内容サービスであるか容易に理解できる、直感的なサービス取扱説明書みたいなものを準備することで、そもそもユーザーからの問い合わせやクレームを減らすといった方法の紹介があっても良いように感じました。
また、景品表示法では、表示規制については説明が行われていましたが、景品規制についてはほとんど説明が行われておらず、この点の説明ももう少しあった方が良いように思いました。
まぁ、確かに、消費者庁との関係では、実際は表示規制の方が重要なのはそのとおりなのですが、法的な規制だけではなく、良いサービスを提供し、ユーザーと良好な関係は築くという本書の視点からはもう少し記載があっても良いのかなと思いました。

最後に、本書が、『「この1冊を読めば、利用規約について検討すべきことがひととおりわかる」、そんなエンジニアや経営者のためのガイドブックを作りたいと考え、本書を書きました。』とありましたが、個人的には、法律用語が説明なく使用されており、その言い換えもあまりなされていないため、エンジニアにはちよっと難しすぎ、経営者にはちょっと話が細かすぎるのではないかなと思います。
むしろ、レベル的には、入社3〜5年目くらいの法務部員向けなのかなと思っています。
もちろん、私自身は、著者の方々と想いは一緒で、『本来、経営者やウェブサービスの責任者は、本書を読んで「利用規約について検討すべきことがひととおりわかる」ようになって欲しい』とは思っていますが・・・(笑)

<評価> ☆☆☆☆☆
(入社3〜5年目くらいのBtoCビジネスを行う企業の法務部員向けとして。)