先日の「契約交渉と法務の役割①」の続きです。
前回、「取引の実態と、それに対するビジネス判断」の両方をヒアリングすることなく、契約書面だけ見て、ここはリスク、ここは当社に不利といったコメントを付す法務担当者が少なからずいる、という話をしました。
今回は、この点について、少し具体例に説明します。


まず、どのようなビジネスでも良いのですが、ここではなんらかの請負業務とします。
仮に、あなたが委託者側の法務担当だとして、請負契約の瑕疵担保責任の期間が6か月、とレビューしている契約書に記載されていたとします。
さて、あなたはどうしますか?

①民法は、瑕疵担保責任の期間を1年としているので、1年と修正する。
②商人間の取引なので、商法が適用されるため、瑕疵担保責任の期間は6か月で問題ない。
③瑕疵担保責任の期間が6か月で問題ないか依頼者に聞く。
④その他


ここで法務担当が取るべき対応として、他に情報がないのであれば、私なら④その他を選択し、依頼者にヒアリングをします。
③もスタートしては悪くはないですが、これで良いかどうかとなると、その後のコミュニケーション次第だと思っています。

では何故①~③が問題なのかというと、まず②から。
②は、単純に商法の理解の誤りです。商法により、瑕疵担保責任が6か月となるのは、商人間の売買の場合であって、請負の場合は民法が適用され1年です。

ところで、話が少し横道にそれますが、以前私の上司であった方は、受託側の契約交渉において、確信犯的に「商人間の取引の場合は、瑕疵担保責任の期間は6か月が適切である。商法を見なさい。」といって、相手方の法務担当を納得させたことがありました。
某上司いわく、「たとえこちらの法律論が誤りであったとしても、相手方の法務担当が反論できなければ、それで良い。」と。。。
但し、適切に反論された際の対応はきちんと考えておくようにとも言っておりました。従って、「商人間の請負契約の瑕疵担保責任期間は6か月と商法で規定してある。」と言い切るのはNGともいっていました。
個人的には、あまり好きな方法ではありませんので、私は使用しませんが、逆に、私がこのような方法を相手方の法務担当に使用されないように、私自身の法律知識は正確にしなければいけないな、と思っています。

さて、次に③の「瑕疵担保責任の期間が6か月で問題ないか依頼者に聞く。」ですが、この聞き方だけだと、依頼者の方が、あまり法律を知らなかったり、早く契約を締結したい方だと、「はい、問題ありません。」と回答されてヒアリングが終わってしまうと問題だと思っています。
できれば、何故、問題がないのか確認する必要があります。次のコミュニケーションにつながるのであれば、それほど悪くはないと思います。

さて、次は、今回1番問題だと私が思う、①の「民法は、瑕疵担保責任の期間を1年としているので、1年と修正する。」です。
私の経験的には、このような対応をされる方は意外と多いと思います(社内社外問わず)。
読者の方にそういう方がいらっしゃるかどうかはさておき、なかには法務部の先輩あるいは上司の方から、とりあえずそのようにコメントするように指導を受けている方もいるのではないかと思っています(実際、私のまわりには、こういう方がいたことがあります)。
では、これのどこが問題なのでしょうか。

たとえば、委託者側のビジネスサイドの担当者は、ある特別な技術を持つ会社に本件ビジネスを請け負わせたいと思っていますが、今回予算取りした金額では、その技術を持つ会社に請け負わせることが難しい状況でした。委託者側のビジネス担当は、だめもとで受託者に金額交渉をしたところ、受託者側のビジネス担当は、「瑕疵担保責任の期間を6か月にしてもらえるなら、その値段で受ける。」と回答したとします。
これを委託者側のビジネスサイドで検討をした結果、技術力のある会社が請負ので瑕疵が発生する可能性が低いことを実績から判断し、このリスクをとって予算の範囲内で発注することになりました。

このような状況において、法務担当がヒアリングもせずに①の「民法は、瑕疵担保責任の期間を1年としているので、1年と修正する。」というのが適切な対応とは思えません。
したがって、④のその他として、ビジネスの実態や取引の経緯をヒアリングすべきであり、すくなくとも③のような質問から④のようなビジネスの実態をヒアリングすべきだと思います。

法務担当者が①の回答をしてしまった場合、依頼者がそれに気がつき、きちんとビジネスの実態を法務担当者に説明できればまだいいのですが(それでも、依頼者にしてみれば、(自分がきちんと説明をしなかったことは棚に上げて(笑))これだから法務は・・・、ビジネスを知らない。と思われかねませんが)、依頼者がそのまま受託者側にその契約を出してしまった場合、手戻りの多い契約交渉となり、その結果ビジネスのスピードを削ぐなど、さらに問題となってしまう可能性があると思います。